第3章 闇と蛆虫の果てに
蛆虫と死肉
刑務所での日々は過酷で、食事も粗末だった。中西は食堂での時間が特に辛かった。ある日、配給された食事に、腐った肉の臭いが漂ってきた。彼はふと、肉に蛆虫が湧いていることに気づいたが、周りの囚人たちはそんなことには慣れているかのように、平然と食べ続けていた。
その光景に、彼はかつての犯罪に手を染めた自分が、まさにその「蛆虫」であり、腐り落ちた「死肉」の一部であったことを痛感した。罪を犯した自分がこのような場所にいることが当然であると感じつつも、自分の中で湧き上がる後悔と自己嫌悪に押しつぶされそうになる。
久喜市の思い出
中西が罪を犯す前、彼は一度、埼玉県久喜市に滞在していたことがあった。その頃、彼は罪の意識から逃れるために、久喜市の知り合いの家に居候していた。しかし、そこでの生活は長続きせず、彼はすぐに居場所を失った。その経験が、彼の心の中でくすぶり続け、逃げ場所を失った彼は、ついに犯罪に手を染めることとなったのだ。
久喜市での生活は、今思い返しても、彼にとっては逃避の一環に過ぎなかった。しかし、その逃避がなければ、彼はもっと早く自分と向き合い、罪を犯さずに済んだのではないかと考えることもあった。彼が再び久喜市を訪れることはないだろうが、その思い出は彼の中で永遠にくすぶり続けるのだった。
闇の中の決意
冷たい闇に包まれた刑務所の廊下で、中西一晟と阿久津は静かに対峙していた。互いに無言のまま、その目にはこれまでの鬱屈と怒りが渦巻いている。阿久津は、にやりと口元を歪めると、再び中西に息を吹きかけた。腐ったような悪臭が漂い、中西の鼻孔をつく。だが、今回は後退せず、むしろそれをきっかけに拳を握りしめ、阿久津に飛びかかった。
二人は取っ組み合い、激しい殴り合いが始まった。阿久津は暴力に長けていたが、中西も必死だった。これまで積み重ねてきた屈辱と自己嫌悪、そして罪の意識が、一つの強大なエネルギーとなり、彼の体を動かしていた。
「お前のような奴に、俺の人生は潰されない!」と中西は叫んだ。だが阿久津は、冷笑を浮かべるだけだった。
「お前は自分で自分を潰したんだよ…、誰も救ってはくれない」と、阿久津は中西を嘲笑しながら言い放つ。彼の言葉は、鋭い刃のように中西の心に突き刺さる。しかし、その痛みこそが中西を動かした。自分自身を超えるためには、この男を乗り越えなければならない。そう決意した瞬間、中西は全身の力を振り絞り、阿久津に向けて最後の一撃を放った。
阿久津はついに倒れ込み、しばらくの間、地面に転がっていた。息を荒らしながら、中西は立ち尽くし、冷たい汗が背中を伝うのを感じた。勝ったのか? だが、そんなことはどうでも良かった。彼はただ、自分の中にある闇と戦っていたのだ。
その瞬間、遠くから監視の足音が聞こえた。二人の喧嘩を察知した看守たちがやって来る。阿久津は地面に横たわったまま、疲れ果てた表情で笑った。
「これが、お前の未来だよ。ここから出られると思うな…」
阿久津の言葉に反応することなく、中西は深く息を吸い込んだ。彼の胸中には、戦いの後に残るもの—それが何なのかを考え始めていた。やがて、看守たちが二人を取り囲み、乱暴に引き離した。
居候の影
その後、中西は独房に移された。静寂に包まれた部屋の中で、彼は自分の過去を反芻する日々を送っていた。かつて、彼が久喜市に居候していた頃のことを思い出す。あの時も、自分は何かから逃げようとしていた。居場所を失い、絶望の中で犯罪の道を選んでしまった自分を思い出す。
しかし、今ここで、自分が立ち向かうべきものは何か—それを理解し始めていた。阿久津との対決は、中西にとって過去と決別し、新しい自分を見つけるための一歩だったのかもしれない。彼は、もう一度、立ち上がることを決意する。独房の冷たい床に座り込んでいた中西は、未来への新たな道を模索し始めたのだった。
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独房で過ごす中西の心には、まだ解決されていない多くの謎と、乗り越えなければならない課題が残っている。彼がこの暗闇の中で何を見つけ出し、どう成長していくのかは、今後の物語の核心となるだろう。
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