第2話  アッパーカットの衝撃

 裁判の最中、田中裕司は証言台に立つ中西一晟を見つめながら、彼がなぜこの道に堕ちたのかを理解しようと必死だった。中西は強盗について認めたものの、彼が犯したとされる殺人については一貫して否定していた。田中は、事件の真相を探るために、中西が犯罪に至るまでの経緯を掘り下げることを決意する。


 田中は、ある日、中西が通っていたジムでのトレーニングの話を聞き出す。そこで、中西が格闘技を学んでいたことが判明する。彼がジムで繰り返し教えられた「アッパーカット」は、かつて彼の人生に希望を与えたものだった。しかし、その技は、後に彼が犯罪の道へと進むきっかけとなる、ある闇の世界との接触に繋がることになる。


### 特殊部隊との接触


 中西は大学時代、特殊部隊に所属していた男、甲斐直人との偶然の出会いをきっかけに、暗い世界へと引き込まれていく。甲斐は、中西の格闘技の才能を見抜き、彼にある「仕事」を持ちかけた。表向きは単なる警備の仕事だったが、実際は違法な取引を監視する危険な任務だった。


 その任務の中で、中西は次第に感覚が麻痺し、次第に暴力に対する抵抗感を失っていった。甲斐は彼に特別な訓練を施し、必要ならば何でもするように彼を仕向けていった。そして、その過程で中西は、いつの間にか犯罪者の一員となってしまっていた。


 遺書と処刑


 事件が起きた夜、中西は女性の家に押し入った。彼が奪った腕時計は高価なもので、犯罪ネットワークに流すことで大金を得る予定だった。しかし、予想外の事態が起こる。女性は抵抗し、バールで中西に向かってきた。中西は思わず彼女を押し返し、その結果、彼女は倒れ命を落としてしまった。


 中西はその場から逃げ出したが、彼の心には深い罪悪感が残った。逃亡生活を送る中、彼は自らの行いを悔い、罪を償うために遺書を残すことを決意する。しかし、その遺書が見つかる前に、犯罪ネットワークの指示役である「ルフィ」によって彼の処刑が命じられる。中西は命を狙われる立場となり、彼は絶望の中で生き延びようとする。


 生き埋めの恐怖


 中西は「ルフィ」からの指示で、仲間と共に郊外の山中へ向かうことを命じられた。彼はそこで、彼を裏切ろうとする仲間に待ち伏せされ、生き埋めにされる計画を知る。絶望的な状況の中、中西は何とか逃げ出すが、彼の心はますます追い詰められていく。


 逃げ延びた中西は、かつて彼が通っていた小学校の校庭に逃げ込み、そこで飼われていたメダカを見つける。そのメダカは、彼が幼少期に一緒に世話をしていたもので、純粋だった頃の自分を思い出させた。彼は、このままでは自分が失われてしまうという思いを強くし、決意を新たにする。


 甲斐との対決


 中西は甲斐直人との決着をつけるため、再び東京に戻ることを決意する。彼は、甲斐が「ルフィ」の指示を受けて動いていたことを知り、自分の手でその関係を断ち切ろうとする。甲斐との対決は、廃工場での激しい戦いとなり、かつての「アッパーカット」の技が今度は中西自身の命を救うことになる。


 しかし、甲斐を倒した後も中西の心は晴れず、自らの罪を償うために警察に出頭することを選ぶ。彼は最後に、田中に全てを話し、罪を全て背負う覚悟を伝える。そして、裁判が再開される中、彼はすべての罪を認め、判決を受け入れる。


 中西は刑務所で新たな人生を始めるが、彼の心には一生消えることのない傷が残った。彼がかつて逃げ込んだ小学校の校庭には、彼が最後に世話をしたメダカが静かに泳いでいる。彼はその姿に自らの再生を重ねながら、少しずつ自分を取り戻していくのだった。

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