初恋が実る瞬間、異世界召喚に邪魔された私。聖女なんて断固拒否させていただきます!

たぬき

プロローグ


 私の名前は山田 姫詩(やまだ ひなた)。十六歳になったばかりの女子高生だ。


 普通の家庭に生まれ、優しい両親に育てられた私は真っ当に育ったと思う。


 真っ当と言っても、両親に迷惑をかけたことがないぐらいの、普通レベルだけれど。


 もし私に罪があるのなら、どんな罪になるのだろう?


 もしかすると、小さい頃から正義の味方より、悪役が好きなことかもしれない。


 悪役が好きと言っても、悪が好きという訳ではなくて、私自身は悪さや意地悪なんてしたことがない。


 だから悪役が好きなことが罪になるのなら、一体どれぐらいの重さの罪になるのかな。


 神様が決めた罪の基準なんて、普通の人間にわかる訳もないけれど。


 っていうか、それ以前に個人の趣味嗜好が常識と違うからといって罪になるの?


 それなら世界中罪人だらけになるんじゃない?


 どうして私がこんな罰を受けなきゃいけないの?



 ──どうして、大好きな人と一緒に過ごす大切な時間を、奪われないといけないのか……いくら考えても、答えは見つからないままで。







「──ああ、聖女様……! よくぞこの世界に戻られました!! 私は貴女様が必ず戻られると信じておりました!!」


 そう言って涙を流す美しい男の人は、見たことがない場所で、見たことがない華美な衣装を纏っていた。


 ──その姿はまるで、ファンタジー世界の登場人物のよう。


「あの……っ、ここは何処ですか? それに私は普通の高校生で……っ、聖女なんかじゃ──!!」


 漫画やアニメでよく聞く台詞を、まさか私が言うことになるなんて。


「いえ、姿は変わられても貴女様は間違いなく、この国の聖女──いえ、大聖女様で在らせられます! その虹色の神聖力が証です!」


 さらに追い打ちをかけるように、目の前の男──オリヴェル・アスピヴァーラと名乗る男が、私の身体を包み込む不思議な光を指し示す。


「貴女様はその命と引き換えにこの世界を守られた、大聖女リーディア様で間違いありません! 我々……いや、私はずっとっ! 貴女様の御魂を探しておりました! 貴女様がこの世界から去られたその後も、ずっと──!!」


 切実な声で訴えて来るオリヴェルの目は狂気じみていて、どれだけリーディアを求めているのか、その凄まじい執着心が恐ろしくて、私は今すぐここから逃げ出したくてたまらない。


 これが夢なら覚めて欲しいと心から願う。けれど、自身の身体から溢れる虹色の光が、この非現実な状況が現実だという事を示していて、私は嫌でも自覚してしまう。


 ──そう、私は十六歳の誕生日に──初恋の人に想いを告げるその瞬間に、異世界に召喚されてしまったのだと。

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