第8話 蹂躙

スライム国王にして魔人スライムである俺の初陣である。


貴族どもは魔王なき世界において平和ボケした腑抜けである。

対するわがスライム軍団はこの日のために鍛錬を積んだ精鋭たちである。

負けるはずがない。


さあ、戦いの始まりだ。


「いざ、出陣ーーーー!!!!!」


俺の掛け声とともに5000にものぼるスライムが合体を始める。


俺はそのアメーバのような巨大スライムのブレーンとなり貴族らの別荘地の入り口から堂々と迫る。


「な、なんだありゃああ!!!!」


入口の護衛兵が腰を抜かして慌てふためいている様子がうかがえる。

無理もない、合体スライムなど歴史上初めての存在なのだから。


巨大スライムのあまりの大きさに、別荘地入り口の広場に大きな影を落とす。


「ひゃあああーーーー!」


貴族たちが一目散に逃げていく。

庶民から巻き上げた金で楽しむ人生最後のバカンスの気分はどうだったかね。

俺は無慈悲に貴族たちを飲み込む。


簡単に殺しはしないさ。

一瞬で苦しみから解放させてしまっては、むしろご褒美ではないか。

こいつらに必要なものは「罰」だ。


こいつらにはスライムの体内で窒息してもらう。

じわじわとな。

それくらいの罰は当然だろう。

こいつら貴族の生活は、何人の庶民の屍の上に成り立っているのか計り知れないのだから。


俺は次から次へと貴族たちを葬っていく。

罪悪感などない、むしろ正義感であふれているさ。

貴族を殺すたびに何百何千の庶民が救われているのだから。


さて、そうこうしているうちにようやく用心棒のお出ましだ。


事前の調査通り、わずかな数だ。

用心棒たちが口火を切る。


「ほう、こりゃたまげた。

 スライムがこんな巨大化するたあ、聞いたことないねえ」


「貴族からの報酬ははずんでもらわねえとな」


「ふん、所詮はスライムだ。

 こんなでかいだけのやつ、面倒だが俺一人でやってやろうか?」


なんとも調子のいい会話だ。

勝つ前提の口ぶりではないか。


「用心棒か。何ともひ弱そうだが、相手になってやる。」


「なっ、スライムのくせにこいつしゃべっ・・」


べしゃっ!!!!


そいつが話し終わる前に俺はそいつを叩き潰した。

あまりの一瞬の出来事に他の用心棒たちは理解が追い付かない様子だ。


「つぎしゃべったやつ、殺すぞ。

 一番強いやつを連れてこい」


そう言うと、用心棒たちは口を開かぬように食いしばったまま一目散に応援を呼びに行った。


俺は一番強いやつを連れてくるのを待っている間も触手を伸ばしては貴族の町を蹂躙した。


---


数分後。


「俺がこの町で一番腕のある者だ。

 スライムのくせにしゃべれるんだってな?」


大柄なバイキングを思わせる男が出てきた。

生身の俺では歯がたたないような奴だ。

だが今は違う。俺にはスライムたちがついている。


「お前を倒せば、この町は俺の思い通りになると思え。

 貴族どもは皆殺しだ。よいな。」


「ほお、言うじゃねえの。

 まあおれにとっちゃ、貴族などどうでもいいさ。

 はやくやりあおうじゃねえか、なあ」


そういうと、バイキング男は持っている斧を振りかざし、大声でとびかかってきた。


「うおおおお!

 わが一族に伝わる戦斧・アーケインアックスの力!

 アーケインクラッシュだあああああ!!!!!」


バチンっ!!!!


俺は触手2本を使い、さながら蚊を両てのひらで殺すかのようにバイキング男を叩き潰した。


どちゃあっ!!!


つぶれたバイキング男の死体が地面に落ちる。

もう人間なのか判別もつかない。


町最強の男が敗れ、周りにいた貴族たちは呆然と立ち尽くす。

もう死からは逃れられないと、あきらめがついたのだろう。


俺は残りの残党狩りを済ませ、貴族の持つ物資などを持ち帰るように巨大スライムの体内に収納した。


そういえば、さっきのバイキング男が持っていたオノ、使えそうだ。

ふと思った俺はそれを回収しようともどった。


すると、何やら見覚えのあるねずみのような男がそのオノを拾っていた。


「おいおい、まだ生き残りか?

 しかも、そのオノは俺のだ。

 俺の目の前で盗みを働くとはいい度胸だな。」


俺が声をかけると、ねずみ男は振り返った。


なにっ!

そう、こいつは俺の母を犯そうとしたねずみ男だったのだ。

ここであったが百年目、こいつは絶対に殺さねばならない。


「ちょ、ちょっとまった!

 あんたの戦利品とは知らなかったんだ!

 これは返すからさ、なっ、旦那、許してくれよ!」


なんとも調子のいいやつだ。

戦のあとの武器をあさっていたのだろう、抜け目のないやつだ。


「お前、6年前の貧民街のガキを覚えているか?

 美人の母親のガキだ。」


「ああ、覚えてるな。

 あと一歩で犯せたんだぜ、もったいねえことよ。」


「ああそうかい、その時のガキだ、俺は。」


「ま、まさか、このデカいスライムが!?

 信じられねえ・・・。

 ってことはよお、俺、殺されるんじゃねーの!?」


ねずみ男は信じられないという表情を浮かべるが、自身の運命がここで終わることを瞬時に察した。


「ああ、察しが良くて助かるよ。」


俺は一瞬でねずみ男を飲み込む。


「ひゃああああ」


ねずみ男は巨大スライムの体内で苦しみもがいている。

こいつはただの窒息死ではつまらん。

空気を与えては窒息、与えては窒息を繰り返し、徐々に徐々にいたぶることにした。


30分ほどで息絶えた。何ともあっけない。

6年前、やつを運よく気絶させることしかできなかった俺は、今では、一方的に蹂躙するほどのチカラを手に入れたのだ。


---


初陣を終え、俺はスライムたちと祝杯を挙げた。


「みんな、今日はよく戦ってくれた。

 あまりに圧倒的な戦いで、こちらの死者はゼロだ。

 みんなのおかげだ、ありがとう!」


「やりましたね、父上!

 このスライチロウ、感無量でございます!」


祝杯は夜通し続くだろう。

しかし、俺はこういった場はあまり好きではない。

なにせ、友達もなく、働く以外に外出しないインドアの引きこもりなのだ。


俺は一通りの演説を終え、プリムのいるところへ戻った。


「おかえりなさい、ラル様。

 お疲れでしょう?

 ゆっくりしてくださいね。」


「ああ、

 大勢の前で話すのはなかなか慣れないな。

 今日は疲れたよ。

 俺に居場所をくれてありがとう、プリム」


「ひゃあっ///」


おれはプリムのゼリーに顔をうずめ、そのまま眠ってしまった。



<<作者あとがき>>


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