縺薙l縺瑚ェュ繧√※縺セ縺吶°
葦名 伊織
第1話 ねぇ大丈夫かな?
これは俺が大学二年の夏に体験した話。
大学が夏休み入って、俺は仲がいいサークルメンバーと夏を謳歌していた。いつも遊ぶメンバーは決まっていて、男女2人ずつの4人組だった。男が『俺(ハルキ)』と『ヒロト』、女が『ユカ』と『マイ』。
事の始まりは八月下旬、その頃には俺たちは海、花火、夏祭りなど、夏のイベントをほとんどやりつくしていた。
新たな刺激に飢えていた俺たち。ある日ヒロトの部屋で飲みながら駄弁っていると、垂れ流していたテレビのチャンネルを誰かが変えた。するとそのチャンネルでは心霊特番が放送されていた。内容は全世界の心霊映像をランキング形式にして、下の順位から見ていくというもの。明らかに嘘くさい映像もあったけど、なかなか怖い作品もあったおかげで俺達は盛り上がった。雰囲気を作るために電気を消して4人で騒ぎながら観ていると、ついに恐怖映像ベスト4に突入。俺達のテンションも最高に高まっていた時、急に別の企画が始まった。タレントが行く『心霊スポット探検』である。
「えー引き延ばしウザ」とマイが言った横で、ヒロトが画面を指さした。
「コレいいじゃん! 」
みんなの視線がヒロトに向けられる。
「俺達も行こうぜ! 心霊スポット! 」
楽しみを探していた俺達は、全員一致で賛成。
こうして次の娯楽は『心霊スポット探検』になった。
すぐに全員で下調べを始めた。各々近隣の心霊スポットをネット検索する。心霊サイト、オカルト雑誌のwebページ、個人ブログなどなど、あらゆる所から情報を引っ張ってきて最終的にヒロトがそこを見つけた。
ある有名な廃墟マニアのブログ。記事閲覧数とコメントの多さから、その人気が窺える。その人のブログに載っていた廃ホテルが最寄りの心霊スポットだった。俺たちはそこに行くことを即決した。
―――その記事にはこう書いてたと思う。
ホテル■■は〇〇年まで営業していた個人営業のホテルでした。閉業後に廃墟として■■町校外に残されています。閉店した原因は特定出来ませんでしたが、経営不振によるものと思われます。【廃墟】、【郊外】という要因も重なってか、すぐにこのホテルは荒くれ物たちのたまり場となります。そして〇〇年にホテル内で集団リンチ殺人事件が発生。一人の男性が亡くなっておりニュースにもなっていました。
そして、その事件後から『心霊現象に遭遇した』という旨の噂が流れ始めます。亡くなった男に襲われた、男が屋上から見下ろしていた、などの怪談が出回って心霊スポットとして認知されていくことになります。営業していた頃にも自殺者が数人出ているとの噂を目にしたのですが、そのような事件の情報は確認されなかったので後付けの創作と思われます。
行ってみた感触としては、現在はあまり人の出入りがないように思えます。新しそうなゴミもなく。壁の落書きなども劣化が進んだものばかりで……
詳しい内容を確認しようと思い、もう一度探してみたけどブログは見つからなかった。消えてしまったのだろうか?
遊びに関して大学生の行動力はスゴイ。俺たちは次の日の夜、さっそくそのホテルへ向かう事にした。
ホームセンターで適当な懐中電灯を買って、車中で食べるお菓子や飲み物をヒロトのバックに詰めて、俺の車でそのホテルへ向かう。
カーナビで簡単にたどり着いたそのホテルは短い坂の上に聳え立っていた。辺りは林になっていて非常に暗い。その日は月明かりもなくて、車のライトが唯一の光源だった。駐車場はひび割れて雑草が茂り、建物の外観は色褪せていて、錆と塗装が浮いた白い建物だった。心霊スポットとしての雰囲気は抜群に良かったと思う。
車を降りる頃には俺たちのテンションは最高潮に達していたのを覚えている。
「ヤバー。怖すぎでしょ」
「ヒロト、記念撮影しようぜ。お前の携帯のカメラが一番画質良いから頼むわ」
「えー。俺の携帯が呪われたらどうすんだよ」
俺達はホテルをバックに4人で並ぶ。車のワイパーに携帯を固定して、セルフタイマーで写真を撮った。そしてはやる気持ちを抑えきれずに足早に入口へ向かった。
正面玄関のガラスは軒並み割れていて、中には簡単に侵入することが出来た。特に侵入防止用の柵や鎖などは見られなかったと思う。
まず初めに男子二人が入り、女子二人は携帯のカメラで動画を撮りながら後に続く。
入ってすぐ目に入った朽ち果てたフロントに俺たちは大盛り上がり。剥がれた絨毯、割れたコンクリート、腐った木材、どれも不気味で最高に刺激的だった。埃と黴の匂い、静寂の中で反響するのは俺達の声だけ、まさにあの非日常空間を俺達は求めていたんだ。一階の奥には宴会場と大浴場があって、みんなで『ここで事件があったんじゃないか』などと不謹慎な話をしながらホテル内を探検していく。
二階からは客室だ。シングルやダブルの部屋を一つ一つ回っていく。部屋の造りはほぼ全て同じで、床には絨毯が敷かれていて、ドアを開けてすぐ横にユニットバス、少し奥に行くと備え付けの鏡付き机があり、窓際にマットレス付きのベットが放置されていた。客室にはベットが残されている事もあり、誰かが住み着いている可能性も考慮して基本的に男子が先陣を切って中へ入った。
ほとんどの客室の中には、やはりゴミや衣類といった誰かがいた痕跡が多かった。でも、その誰かが潜んでいるかもしれないという緊張感さえも興奮材料だった事を覚えている。
しかし残念なことに、その楽しい雰囲気は長くは続かなかった。
二階、三階と客室を回ったところで、俺たちの口数は徐々に減っていった。女子二人も動画撮影をいつの間にか止めている。
何も起こらないのだ。
変な物音がした、物が勝手に落ちた、というありがちな現象はもちろん。亡くなった男らしき幽霊は影も形もない。フロントでは最高に盛り上がっていた俺たちのテンションは客室を巡るにつれ大暴落していった。聞こえてくるのは各々の足音と溜息ばかり。それでもだらだらと客室をもはや機械的に回っていく。
みんな恐怖も興奮も失って完全に飽きが見え始めていた、そんな時だったと思う。
その部屋が何階の何号室だったかは全く思い出せない。それくらい俺たちは飽き飽きしてたんだ。
「え! この部屋ヤバいぞ」
その部屋に先頭で入ったヒロトが驚きの声を上げる
「うわぁ・・・」
続いた俺達も思わず声が漏れた。
その部屋は他と比べて明らかに異質だった。異常性を感じる、まさにそんな状態。シングルルームの壁全面に赤い塗料で何かの模様が描かれている。四角、円、三角、見たこともない文字、それらによって形作られた禍々しいシンボル。魔法陣、というのが一番的確な表現かもしれない。
突然の異様さを感じて身体の奥に沈んでいた恐怖が沸き上がり、冷めていた興奮がまた熱を帯びる。
「この部屋怖すぎ」
「ヤバいね。キモー」
ユカはポケットから携帯で取り出し部屋をぐるりと撮影し始める。マイも俺たちの様子を動画に収めている。
「おい、見ろよ!」
ヒロトが床から何かを拾い上げる。それは古びたアコースティックギターだった。
絨毯の模様で分かりずらいが、よく見れば床にもびっしりとシンボルが描かれている。
その時に気づいたのだが、この部屋だけ他と比べて圧倒的に綺麗な気がした。散乱している物が少ない。いや確かに営業しているホテルに比べれば汚れてはいるが、それでも今日見てきた部屋と比較すれば明らかに汚れは少ない。
「この歌を捧げますってね」
ヘラヘラしながらヒロトがストラップの無いギターを抱え、ワンストローク弦を鳴らした。
「ボロボロだな」
それは楽器を弾かない俺にも分かるほどに音が外れていて、弦が錆びているのか酷い不協和音を放った。ヒロトは調子に乗ってベットのマットレスの上に飛び乗り、アーティストごっこを始める。ギターを掲げ俺たちに手を振る。
「ちょっと、ヤバすぎ」
「きゃー! ヒロ様ー! 」
ユカとマイは笑いながら携帯のカメラをヒロトに向けて動画を撮影していた。
「みんなー! 今日はありがとうー!」
曲の最後にミュージシャンが『ジャン! 』と締めの一音を鳴らす様に、ヒロトが弦に右手を振り下ろす。
やはり錆びていたのか4弦が切れた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
男の叫び声だった。
男2人は固まり、女子2人は身体を竦めて耳を塞いでいる。
その数秒は恐ろしく静かだった。それがとてつもなく怖かった。感情は恐怖へと振り切れて興奮を圧殺した。
誰からともなく部屋から飛び出す。みんな出口を目指して全力で走った。『速く速く! 』『走れ! 止まるな! 』と誰かが叫んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます