79  エンディング1 サーヴァステル港国


 雲ひとつない空に、大陸特有の乾いた風がふく。


 グランデリア王都の八割がたの建造物は倒壊している。

 その中で軍靴の響きが、王都グランデリアの乾いた石畳に沁みてゆく。


 二千の騎兵が隊列をなし、ハイネ王女を中心とした一群が王城へと勇壮な行進をつづける。


 マシロ・レグナードは、その先頭に立ちグランデリアの旗をかかげ騎乗していた。

 そのとなりには同じく騎乗するトゥルーアーティ・サファイヤ・ホークウィンドの姿がある。


 ダーククリスタルを消去すると、そのハイネ王女を掲げて各地に散った有力者をまとめグランデリア王都へと凱旋したのだ。


 必死の思いでグランデリア王都で生きてきた少数の市民は、ダーククリスタルを消し去りハイネ王女とともに帰還したマシロを歓喜の元に迎え入れた。


 ひざまづく市民の歓声にマシロは手を振ってこたえる。


 ———— レグナ・ゲーテン・グランデリア


「わが祖国、グランデリアに栄光を」

 しずかに呟いた。


 王国・王都の復興は困難を極めるだろうが、必ずやここを良い国にする。


 白銀の長髪が乾いた風になびき、軍馬の背にゆられながら決意を固める。


 マシロ・レグナードの第二の人生は今から始まる。



 ▢



 サーヴァステルでは独立式典の開始を待てず、浮かれた民衆がもう花火を打ち上げている。

 運河や海に飛び込む者、歌い踊る者、旅芸人も大量に押し寄せており、港の勢いは留まる所を知らない。

 逆にサーヴァステル騎士団と自治警察団の者達は極度の緊張につつまれ、異常はないかと目を光らせる。





「ミハエル、早く支度してよ。そろそろ、あの『女王陛下サマ』の御一行が、到着する時間だから」

「はあ、『元・本国』の使節団か、面倒くさいな」


 妻のレヴァントに言われて、それなりの正装に身を包む。

 すでに着付けを終えたレヴァントは燃えるような赤のドレスをまとっていた。戦装束も貴族の服も、美しく着こなす姿には可憐さにもまして気品がある。


(それでも、やはりこいつには赤が似合うな)


 しかし、今の俺に、そういった衣装は、もういい。

 早いところ、長年の夢だった農園経営に取り組みたい。

 俺はのんびりとスローライフを送りたいのだ.


『独立式典』が行われる礼拝堂。

 普段からお祭り騒ぎの配下達も、準備作業に落ち着かない様子だ。


 外の民衆は、いつもの三倍増しで浮かれ騒いでいるというのに。



 グランデリア国の危機をすくい、このサーヴァステルに来てから何年たったのだろう。

 周りにのせられているうちに、どういうわけか


 ———— 俺(ミハエル)は自治領独立に際して王に祭り上げられていた。





 外では、一段と勢いのある歓声があがり、民衆の興奮が伝わってくる。正反対に、配下には緊張が走る。


 元・本国の使節団が、到着したようだ。



 通路に物々しい足音が響き、重い扉が開く。


 数十名の従者を従え使節団が姿をあらわす。青と白を基調としたグランデリア王家の衣装に身を包んだ女王マシロ・グランデリアは夫・トゥルアーティ大公爵と共に、俺と妻の前に立った。


(うおっ! 美しい)


 マシロの美貌は、どんなに女王の衣装に身を包んでも昔と変わらない。

 つい口が勝手に動いてしまう。


「あんたもついに女王陛下かよ! しかし、変わらない美しさだな、今なら惚れちまいそうだぜ」


(マシロに会うのもひさしぶり……)


「ぐはぁ!」

 妻・レヴァントのボディブローが俺の急所を突いていた。


 俺は、壁沿いまで飛ばされると血と胃液を吐いて、うずくまる。

 妻の疾風のごとき体術に、意識がゆらぐ。


(やべ、意識を取り戻せ俺)



 美しくも狂気をたたえた妻の眼を前に、配下は周囲の空気ごと凍り付かされている。



(そうだ。この眼をみるのも久しぶりだな)




「女狐司祭が、女王陛下にまで登りつめるとは……どんな卑劣な手を使ったのかしらね」


 妻は女王の間合いに入る。

 試すように下から睨み上げると、護身用の短刀を取り出そうとする。


 場の空気が張り詰めていく。それを、女王の夫である大公爵がしずかに、あくまで自然に制止した。


「我がグランデリア王国に今日の繁栄がありますのも、奥方様あってのことです。どうかご機嫌をなおしてくださいませ、レヴァント様は穏やかな顔つきが素敵ですよ」


 妻の手を取ると、ニコニコ微笑む大公爵。

 その手に、いくつかの宝石と白金貨をしのばせたようだ。


 その機転に、妻も輝くような笑顔をつくり、女王との間にある空気がふと緩む。



「そうですわね。

 むさくるしい所ですが、独立式典までごゆっくりおすごしください」

 妻にしては珍しくお世辞を言っているようだ。


「痛え……、いてて」


 俺は、わざとらしくも大げさに苦悶の表情を浮かべながら立ち上がろうとする。

 チラっと目を合わせるが、妻はプイと頬をふくらます。


 遠慮がちに、女王マシロは俺に手を差し伸べる。

 苦笑いを浮かべつつも、小声で回復の祈祷をささげる。

 俺に一筋の光が天よりくだる。

 体が一気に楽になり、空気が気持ちよく体に入ってきた。


「ぷはああぁっ。た、助かったぜマシロ、いや女王陛下どのっ」

 女王の聡明で力強いまなざしが返ってくる。


 ———— かつて、その瞳の奥を支配していた闇は、もうそこにはなかった


 傍らに立つ大公爵が、女王の腰に手を添え軽く一礼をした。



 ▢



 アリシア=ノヴァは、ダーククリスタル消去装置を作成し、グランデリア王国の回復のために自身の十年間を研究に捧げていた。

 その消去装置作成に際して、ハイネ王女を代表したグランデリア王国側に要求した条件は以下のものだった。


 ・自治領サーヴァステルの、グラデリアからの独立

 ・異民族の植民地支配からの解放と保護

 ・侵略戦争の放棄

 ・数年後マシロに王権をゆずる事


 この事によって、大陸間の平和は数百年ほどの期間ではあるが保証されることとなった。



 アリシア=ノヴァはマルセリウスと結婚した後は、ミハエルにサーヴァステル港の統治を託し、自身は研究をはじめとした様々な事業活動を続けながらも外交官となり世界各地をとびまわった。


 ———— 戦争は起こさせないわ、私が政治家になって世界の戦争を止めるの


 かつてマルセリウス・グラントが大笑いした彼女の夢。

 アリシア=ノヴァの夢はこうして現実となったのだ。

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