天羽々斬ヶ時

白雪れもん

第1話

天羽剛は、自室のデスクに向かって静かに座っていた。彼の目の前にはパソコンがあり、画面には奇怪なエラーメッセージが延々と流れている。赤い文字が画面上をチカチカと点滅し、異常なエラーコードが表示され続けていた。その異様な光景は、ただのシステムエラーとは思えなかった。


「これは一体…?」


剛は考え込んでいた。彼の手には昨日から持ち歩いている刀「斬ヶ時」がある。それは天羽家に代々伝わる、伝説の武具であり、ただの武器ではなかった。刀には、デジタル世界との境界を切り裂く異能の力が宿っていると言われていたが、剛にはその力がどのように発揮されるのか理解できていなかった。


突然、パソコンの画面が激しく点滅し、音もなくブラックアウトした。剛は驚きの表情で画面を見つめた。次の瞬間、彼は目を疑った。画面が再び点灯し、そこには広大なデジタル空間が広がっていた。無数のコードとデータが光の線となって流れ、空間全体が不安定なエネルギーで満ちていた。その中に、ぼんやりとした人型の影が浮かんでいた。


「これは一体どういうことだ…?」


剛はその影に向かって歩み寄った。影はただのエラーのように見えたが、その形状は複雑で、無数の文字列が絡み合い、まるで生き物のように動いていた。影の姿はまさにデジタル世界の異物そのものであった。


「お前は…何者なんだ?」


剛が問いかけると、影は不安定に揺らめきながら、低い声で答えた。


「我はこのシステムのエラー、壊れたコードの亡霊…デジタルの深淵に潜む者…」


声は途切れ途切れで、不安定だった。影の言葉から、エラーがシステムの異常を引き起こしている原因であり、その存在がパソコン内のデータを蝕んでいることが明らかになった。


「エラー…つまり、お前がこのシステムを壊しているのか?」


影は静かに頷いた。剛は斬ヶ時を手に取り、その力を信じるしかなかった。斬ヶ時はデジタル世界との境界を切り裂く異能を持っており、剛の中で覚醒した力がこの異常を解決できると信じていた。


「ならば、俺がそのエラーを取り除いてやる…斬ヶ時の力で!」


剛が刀を構えた瞬間、影は猛烈な勢いで剛に襲いかかってきた。影の身体は無数のコードに分裂し、それぞれが剛に向かって突進してきた。それはまるでデジタル空間の猛獣が牙を剥いて襲いかかるかのようだった。剛は必死でその攻撃をかわしながら、反撃の機会を窺った。


「ここで終わるわけにはいかない…!」


剛は斬ヶ時を振りかざし、影の中心を切り裂いた。刀がデータの流れを斬り、影は一瞬で粉々に砕け散った。だが、その破片が再び集まり、影は元の人型に戻った。


「くそっ…何度でも立ち上がるのか…!」


影は再び剛に向かって突進してくる。剛はその攻撃をかわしながら、どうすれば影を完全に消せるのかを考えた。閃いたのは、エラーメッセージが出るたびにパソコンを再起動するという単純な行動だった。エラーが発生する原因となるコードを完全に消去すれば、デジタル空間も正常に戻るのではないかと考えた。


「やってみるしかない…!」


剛は再び影に向かって突進し、斬ヶ時でその中心を突き刺した。刀に力を込め、影の元となるデータを引き裂くように斬ヶ時を操作した。影の身体が崩れ落ち、再生することなく消え去った。代わりに、デジタル空間全体が震え始め、光の流れが一斉に剛に向かって集まってきた。


剛は目を覚ました。彼は再びパソコンの前に座り込んでおり、画面には正常に動作しているデスクトップが表示されていた。エラーメッセージは消え、すべてが元通りになっていた。剛はほっとした息をついた。


「これで、終わったのか…?」


剛は疲れ果てた表情で画面を見つめた。斬ヶ時はその力を発揮し、デジタルの異常を取り除くことができた。しかし、これからどんな試練が待っているのかはわからなかった。剛は深呼吸し、これからの冒険に備える決意を新たにした。彼の運命がどこへ向かうのか、まだ誰にもわからない。しかし、斬ヶ時と共に、どんな困難にも立ち向かっていく覚悟を決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る