TS幼女傭兵は宇宙農業で頂点を掴む
赤ぬこ むぎ猫
第1話 異世界傭兵幼女の誕生
機材が所狭しと並ぶ部屋。整然としながらもどこか混沌とした研究室の中で、眼鏡をかけた白衣の男は呟いた。
「何故だ・・・・・・?手術の経過は良好、失敗はありえない。だというのに、意識を取り戻さないとは。まさか本当に失敗作になってしまったのだろうか。」
彼の見つめるモニターには、無機質なベッドに寝かされた少女が映っている。全身の至る所に管が繋がっている彼女はピクリとも動かない。第10世代の強化手術は成功率も高く、後遺症も殆ど無かったはずだ。それだというのに、これはどういうことか。
「素体が悪かったのか?しかし、今回は未成熟の肉体でも手術が適応するかの実験も兼ねている。くそ...上層部が資金を潤沢に回せば良かったものをやはり無能だな。上層部の奴らは」
一人きりで愚痴を吐く白衣の男は、モニター映された各種数字を食い入るように見つめた。やはりおかしい。
数値は安定しており、本来ならば覚醒するはずなのだ。
だというのに、少女は何故か目を覚まさない。
ルミネールから提供された第10世代の強化手術が失敗したのだろうか?
いや、数値からしてそれはありえないはず...そう思い男は数値を一から見直すが数値は変わることもなく、少女が起きることもない。
今回の実験には相当の資金をつぎ込んでおり、感覚が鋭く、従順で躾けやすい子供をTSのパイロットにする計画は何としても成功させなくてはならなかった。まともな人間から見たら悍ましく唾棄するべき計画に、白衣の男は文字通り人生を賭けていた。
しかし、実際は上手くいかなかった。パイロット適性がとんでもなく高い少女を
男は何人も再教育される場面を見てきたことからもし送られた場合
自身がどうなるかを知っていた。
「くそう意識さえ覚醒すれば...いや待て。そこの所は上手く偽造すればいいか?適当な星に送り、戦果を取り繕えばあるいは…ふむ…」
男は、とある企業のマッドサイエンティストで研究員である。エリート気質で他者を見下しがちだった彼は、同僚や上司、部下との人間関係の構築に失敗した挙句閑職に飛ばされてしまった。そこで一発逆転を狙い、最近参入したTS兵器部門で功績を上げようと強化人間の育成に手を出した。
しかし、結果は御覧の通り。万全の状態で強化手術を行ったはずの少女は目を覚まさず、軽率に動いた男は追い詰められていた。
「……、……。………」
「…、……」
「……、……。…………」
彼の頭の中で非道な考えが組み立てられていく。強化手術を施したというのに目覚めない少女は用済みだ。
しかし、そのことがバレれば男の立場に傷が付いてしまう。
ならば、性能検査という体で戦地に送り込んでしまえばいいのだ。
途中で海賊に捕まるにしろ落とされるにしろ、最低限の体裁は保てることには変わりない。
当然マッドサイエンティストなこの男への評価は落ちるだろうが、強化手術が無駄に終わったとバレるよりはマシだと男は考えていた。
「そうと決まれば、欺瞞用に最低限のTSを発注しなくては。用意するのは旧式の旧式でもいい、それを格安で入手すれば費用を抑えられるだろう。今使える金は少ないからな」
多少の余裕を取り戻しながら、男は手に持ったタブレットを操作する。
本社を騙す為のTSの手配や処分先の開拓惑星へ向かう船の手配。
何故自分がこんなことをしなければならないのかと思いつつ、男は手際よく欺瞞工作を進めていった。
それをじっと見つめるものがいるとも知らずに...
「.........」(やべぇ...俺死ぬかも)
つづく
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