自由な皇子が脱走したのですが!?

こおと

第一章 ハジメテの脱走でハジメテの体験を

一話 ハジメテの脱走



 ◆◆◆◆



 エレフェリア帝国皇帝執務室



 皇帝リベリオ=アルテール=エレフェリアは、執務室で仕事をしていた。


「ハァ゛ーー……」


 そして、少し時間が経つたび時間を確認し、あまり時間が経っていないのを確認するととても大きい、それはもう特大のため息を吐いた。

 やっている仕事は国を回すための重要なものばかりだ。だが、ずっと同じことをしているとやはりつまらないのだろう。


「陛下、巨大なため息を吐くのはやめた方がいいかと」

「陛下だと? ラドル……お前も俺のことを陛下と呼ぶのか? いつも通りリベリオと呼べ」


 皇帝が、配下に命じれば、聞かぬものはほとんどいない。大体のものはその命に従う。いや、従うしかない。


「ハァーー……」


 その命令を聞いたラドルも、特大のため息を吐いた。


「わかったよリベリオ。君は相変わらず堅苦しいのが苦手だね。生まれながらに皇帝となることが決まっていたというのに」

「そうか。やっとわかってくれたか。わかってくれたところで、一緒に街を見回りに行かないか?」

「その言い訳は苦しいよ。何回その理由でこっそり外に出かけたと思っているのさ」


 皇帝が、ラドルを連れて街に出かけた回数はもはや数えきれない。しかも毎回皇帝だということがバレ、目立ってから帰ってきている。

 最近では、外にこっそり出かけるのも禁止されるほどだ。皇帝が見つかるたびにラドルは怒られ、毎度毎度で困っている。


「流石に無理なのか。ラドルでもいけないのか?」

「絶対無理だね。絶対に止めろと妃様にも言われてる。止めなかったら給料も減る」

「すでに使いきれないくらいもらってるだろ? いいだろう、少しくらいは」


 皇帝がラドルにねだる。必死なのが丸わかりだ。この皇帝はどうしてもサボりたいらしい。


「ハァ゛ーー……」

 

 ラドルが再び特大のため息を吐いた。だが、さっきのため息とは少し違う。


「リベリオの奥様方に許可がもらえたらいいよ。絶対に譲歩はしないからな」

「待て。それは絶対に無理だ。そもそも出すなと言っているのが妻だ。許可がもらえるわけない」

「じゃあ諦めてくれ」


 皇帝の4人の妻はとても厳しい。だが、それは全て皇帝を心配してのことだ。何かあったら大変だと心配しているのだ。ただ、それが皇帝のストレスの原因にもなっているだけで。


「お前はなんてひどい条件を……」


 その言葉をラドルはあえて無視をする。


「ラドル、ラドル!! 話を聞いてくれ!」

「私には何も聴こえていおりません。ん? なんだか城が騒がしいですね」


 城がなぜかものすごくざわついていた。

 そのことに気づいてすぐに、執務室の扉がノックされる。


 ラドルと皇帝は、仕事のスイッチをカチリと入れた。


 コンコンコンコン


「どうした?」

「ししし……失礼します」


 城で働いているメイドが慌てた様子で執務室に入ってきた。

 顔は真っ青で、引き攣っていることからものすごく焦っているのがわかる。何か大変なことがあったのだろうとすぐに感じ取れた。


「何があった?」


 ラドルがメイドにかけよりバランスをふらついた体を支える。ラドルの手に、メイドの体重が思いっきりのしかかる。力が、腰が、抜けてしまっている証拠だ。


「第三皇子ルカルージュ様が見つからず、使用人一同どこにいるのかと城中を探したのです。ですがどこにも見つからないのです」

「何? 詳しく話せ」

「はい。もしかしたら寝ているかと部屋の中を確認したのですが、部屋の中は人一人おらず、そこにはこの手紙が置いてあっただけでした」

「見せてみろ」


 メイドがゆっくり震える手でその紙をラドルに預ける。ラドルは受け取った手紙を皇帝に渡した。

 

 皇帝がその畳まれた紙を開き、中に書かれていた何かを読む。


「……は???」


 中を読み終わった後の皇帝の反応がこれだった。

 はっきり出したのではなく、ただただ驚いて無意識に出てしまったその一文字。人前では見せない普段の表情も隠すことができなかった。それだけ困惑したのだ。


「リベリオ……ごほんゲフン……陛下、どうされたのですか?」


 昔から皇帝のことを知っているラドルが何事かと、後ろに回り込んで皇帝が読んでいた紙を読む。


「はぁ!?」


 読み終わった後のラドルの反応がこれだった。

 先程整えたばかりのきっちりとした口調が崩れてしまっている。表情も取り繕えず、思いっきり表に出てしまっている。


 皇帝とラドルが見た紙の筆跡は第三皇子ルカルージュのもの。ルカの筆跡は誰にも真似できないほど綺麗に整っている。誰かが誤魔化したりとかはできない。と、なると、これは本人のもので間違いない。


「なあ、これは本当に……ルカの部屋にあったものだよな? 間違いないんだな? なあ?」


 皇帝が報告に来たメイドに聞いた。


「はい。間違いありません」

「そうか……。はぁ゛〜……」


 皇帝のため息を聞いて、メイドが何か悪いことを言ってしまったのかと慌てる。さっきよりも顔が真っ青だ。もはや白いと言ってもいい。


「「ハァ゛〜〜……」」


 皇帝とラドルは、二人揃って特大以上の大きなため息を吐いた。そして二人揃って下を向いて黙り込んだ。皇帝は何か言いたいのに言わないようにし、その言葉を全力で我慢しているように見える。ラドルの方は、メイドを外に出し、自身の耳を塞ぐ準備をしていた。


 皇帝はガバッと顔をあげた後、叫んだ。


 理由は簡単。原因も簡単。全ての始まりは皇子の部屋に置いてあった紙のせい。

 その紙にはこう書いてあった。


 【外で遊んでくる!】と一文。

 そして下には、【第三皇子ルカルージュ=アルテール=エレフィリア】と。


「……馬鹿野郎ー!!!!!」



 ◆◆◆◆



 エレフィリア帝国帝城城壁


 第三皇子ルカルージュ


 

「うおっ! なんだぁ?」


 馬鹿野郎という声が聞こえた気がして、俺は慌てて城の方を振り返る。その声とともに一瞬寒気もした気がする。


 やっぱりバレたか? それはバレて当然だろうな。

 何も言わずに姿を消して、書き置きを残しておけば、バレるに決まってるだろう!

 もちろんバレるとわかっていてやったことだがな!

 全て計画通りだ。

 俺は今日、この城から脱出した。

 最も楽しく、最も面白く、最も迷惑な方法で。


「ふふふあはははははははははは!! 俺は初めて外に出た!」


 高笑いした後に大声で街に向かって叫ぶ。

 あーすっきりする。

 城じゃあ大声出すとどこでも聞こえるからな。

 プライバシーなんてものはほとんどない。だからこそ、誰にも聞かれないところで大声を出せるのはすごく気持ちがいい。


「よし! まだ城が大騒ぎになってるだけだな!」


 この混乱に乗じて街に行こう。迷惑をかけた甲斐があったな。

 街に行ってからが勝負だ。

 俺は絶対に捕まらない。俺は俺のやりたいことをやり遂げてみせる!


「俺が自由になれるのはこの時間だけだ。この時間は絶対に終わらせない! 俺は俺の時間を守って見せる! 覚悟しろよ追っ手ども!」


 俺は、街への一歩をあっさりと踏み出し、駆け出していった。


 ただし姿を隠して。

 さらに補足すると、空中を。

 




あとがき&おまけ


プロローグ的なやつです。脱走する皇子。叫ぶ皇帝と親友。真っ青になって慌てる配下たち。






現在思ってること

皇子ルカルージュ:楽しい   皇帝&ラドル:大★迷★惑

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