第2話 鎮守の森
ううぅ……懐中電灯の明かりだけで深夜の森を歩くなんて、本当信じられない……勇気があるというか、無謀というか……
……あっ、また転びかけた。やっぱり暗いし、足元がかなり悪いんだなぁ……うん、この辺りからしばらくは、二人とも歩くのに集中して黙ったままだから……テンポが良くなるようにここまでカットしておこうか。30分くらいの尺におさめてほしいってことだったし……後で時間経過のテロップを入れて、と……
それにしても、夜の森ってだけでなんでこう雰囲気があるのかしらね……見てるだけでゾワゾワしてくるというか……自分たちの活動する時間帯とかテリトリーから外れているから、本能的に警戒しちゃうのかな……
きっと、もとはたぶん鎮守の森として大事にされてた場所なんだろうけど……先に待ち構えているのが廃神社だと思うと、なんだか急におどろおどろしく見えてくるというか……まぁプラシーボ的なやつなんだろうけどね……
……え? ああ、この配信者さんたちは、そういう勢いとノリだけで悪さをするような人たちじゃないよ。無責任な悪ふざけで、タチの悪いことをするような人の廃神社探訪だったら、そもそも私は絶対に引き受けないし……
これまでの動画を見た限り、こういうタイプの企画はちょっと珍しくて、基本は手堅くて誠実な人たちなのよね。だから根強く人気があるんだと思う。誰かや何かを傷つけたり、笑いものにするようなことはしない人たちだってわかるから、安心して楽しんで見ていられるもんね。
ほら、森に入る前にもこの神社の
——————って、ちょっと!!
君! それはやり口が汚いでしょう!? 脅かそうったってそうはいかないんだからね! そんなびっくりした顔してみせても騙されないんだから!!
……え? ナニモシテナイ? 本当に? だ、だって、さっき鈴の音が……あ、ほら、また……スズナンテモッテナイ? た、確かに君……動くたびにじゃらじゃら音がするのは好きじゃないって、そういうの買わないよね……
……ねぇ……ちょっと……ちょっと待って……
……しゃべってないよね……君も……この二人も……じゃ、今ボソボソ聞こえてるこの音は……なに……?
あ……あーあーあーあー!! 聞こえない! 私にはなんにも聞こえない!! 聞こえないったら聞こえないもん!! ノイズ除去! ノイズ除去!! ノイズ除去ぉおおお!!
って、ひゃっ! 今あの人たちの足元、何か横切らなかった!? い、いやネコ! あれはネコ!! きっとネコよ!! 暗いからいまいちよく見えないだけ!!
……ネコニシテハウゴキガスライムミタイ?
そ……そ、そりゃそうよ! 当たり前でしょ!? だってよく言うじゃない。猫は軟体生物だって! あとはそう、百万歩譲って野犬ね!! 地を這うようなこの高さからして犬種はミニチュアダックスフント! あとはコーギーでもいいわ!! 千万歩譲ってツチノコよ!!
ああヤダヤダヤダ! またなんか横切った! なんなのよ、もう! 今度は足元どころか画面全体だし……! 今のは……今のはそう、一億歩譲ってランニング中の神様ね!!
ランニングニシテハハヤイって?
そ、そんなことないわ! だって神様なんだから! そうよ! 神様なんだから、ウサイン・ボルトだって目じゃないのよ! 人類最速の男じゃなくて、神界最速の神を目指してるんだから、これくらい速くて当然じゃない!! それ以外なんて絶対認めないんだからー!!
え? ムネオオキクナッタミタイダネって……ばか! こんな時になに言ってるの、このデリカシー迷子!! ……確かに最近、全体的なサイズアップに伴ってさらにカップが上がっちゃったけど……こんなちょっと当たってただけでわかるの? 君……
大体だよ、私が太っちゃったのは君がせっせと餌付けしたせいなんだからね!? 一緒に住むようになってから五キロも増えちゃって……それもこれも君が、やれお土産だ、貢ぎ物だなんだって、私の大好きなケーキとかアイスとか肉まんとかを次から次に買ってくるから……元に戻らなかったらどうしてくれるのよぅ……
イッショウセキニントルカラダイジョウブダヨって……いっしょう……せきにん……とるからって…….
も、も、も、もうー! そういうとこだよ!? そういうとこ!!
君って普段はそういうのまるで興味ない、みたいな顔してるのに、急に爆弾発言するんだから……! 付き合い始めた時だって、一緒に住み始める時だってそうだったし……!
って、あ! 見て! とうとう鳥居が見えてきた……わぁ……見るだけで背筋が寒くなるくらい……ぼろぼろの鳥居が……
君とのハッピーホラーナイト!【ASMR】 吉楽滔々 @kankansai
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