第2話 キャンプへようこそ!
「だ、大丈夫ですか!?」
私は倒れている人に近寄って、声をかけてみた。
胸のあたりに視線を向けると、少しだけ上下していて、息はあるみたい。
服装が人間の探索者っぽくなくて、もしかしたらミュートロギアの人かもしれない。
さらりとした少し長めの金髪で、ものすごく顔立ちが整ってる。そして、耳の先が尖っていて長い——エルフかな?
……こんな時に不謹慎だけど、かっこいい……! 結構、好みかも……
「ゔっ……」
倒れてる人が少し呻いた。
「はっ! 大丈夫ですか!?」
私が覗き込むと、彼は薄らと目を開けた。
とても綺麗な緑色の瞳だった。
「……水を……」
「水ですね!?」
私が水を取りに行こうと振り返ると、そこにはポチがいた。
「ヴワフッ!」
ポチは、アク◯リアスの五百ミリペットボトルを咥えて、ふぁさふぁさと尻尾を振っていた。
「流石、ポチ! ナイス!」
私はよしよしとポチの頭を撫でて褒めると、ペットボトルを受け取った。
エルフの人の上半身を助け起こすと、ペットボトルの蓋を開けて、彼の口元に持っていった。
「飲んで!」
エルフの人は、アク◯リアスを一口飲むと、カッと目を見開いてゴクゴクと飲み始めた。
一気にペットボトルの半分以上を飲み干すと、自ら身体を起こして、彼は「ふぅ……」と深く息を吐いた。
「……これは、エーテルか何かか?」
彼がぼんやりと訊いてきた。
「え……ただのアク◯リアスです」
「……? 一気に体力と魔力が回復した。ありがとう。助かった」
彼のニカッと目尻に皺を寄せて笑った顔がなんだか可愛くて、ドキッと胸が鳴った。
「えっと、あなたは? なぜここに?」
「俺はエルメルだ。探索者をやってる。ここへは、ダンジョンのトラップで飛ばされて来たんだ」
「そうだったんですね。私はアリサっていいます」
「アリサか。よろしく。それで、ここはいったい? ……っ!? アリサ、下がれ。モンスターだ」
エルメルさんは私を背中に庇うと、剣を構えた。
急に広い背中に庇われてびっくりしたけど、ドキッともした。
エルメルさんの視線の先では、ポチとドラ男がきょとんとした表情で、こっちを見つめている。
「あっ、大丈夫ですよ! うちの子ですから! さっきのドリンクはこの子が持って来たんですよ」
私がポチに近づいてなでなですると、ポチは嬉しそうにブンブンッと尻尾を振った。
そんな私達の様子を見ると、エルメルさんは少し警戒しつつも剣を鞘におさめてくれた。
「アリサはテイマーなのか? しかもこのモンスター達は……」
「このワンちゃんがポチで、ドラゴンがドラ男です。空を飛んでいるのが、ピーちゃんです。それから、私はテイマーではないですよ」
私がニコニコとうちの子達を紹介すると、エルメルさんは「フェンリルをワンちゃん……それにドラ男……?」と呆気にとられていた。
その時、私はピンッとひらめいた——
「そうだ! エルメルさんはお腹空いてませんか? 友達が急に来れなくなっちゃたので、ご飯が余ってるんです!」
一人じゃ食べきれない分量なんだよね!
それに、みんなで食べた方が美味しいし!
「だが、その食糧はアリサの友人のためのも……」
その時、ぐーーーっ……とエルメルさんのお腹が盛大に鳴った。
「…………すまない。可能ならいただけるだろうか?」
エルメルさんが頬を真っ赤にしてそっぽを向きながら、ボソボソと呟いた。
「もちろん、いいですよ!」
私はニッコリ笑って答えた。
「あと、少し言いにくいんだが、その、アリサの格好が……」
エルメルさんが、視線を外したまま言った。
「えっ? あっ! キ、キャンプに戻ったら着替えますね!」
そうだった! 私、泳いだばかりだから、水着だった!
ミュートロギアの女性は、あんまり肌見せの多い格好はしないんだったっけ。
ドラ男の背中に乗せてもらって、キャンプのある岸にまで運んでもらった。
「まさか、Sランクのホワイトドラゴンに乗れるなんてな……雌が単独でいるのも珍しい」
エルメルさんは、ドラゴンに乗ったのは初めてみたいで、なんだか少しはしゃいでいた。
「私のキャンプへようこそ!」
岸辺から少し離れた広場に、私はいろいろキャンプ道具を持ち込んでいた。
こっちの世界でもお泊まりできるように、入り口に
テントの近くにはウッドテーブルと、アウトドア用のチェアを二脚置いている。
その近くの低木には、ハンギングチェーンをかけていて、シェラカップやタンブラーやタオルなんかを吊るしている。
今日はカレンと一緒にBBQする予定だったから、BBQセットも置いてある。
「いい所だな」
エルメルさんが、私の方をあまり見ないようにしつつ、キャンプ地をぐるりと見回して呟いた。
「ちょっと着替えてきますね!」
私はそそくさとテントの中に駆け込むと、急いで着替えをした。
「お待たせしました!」
今日はダンジョンで過ごす予定だったから、そんなにおしゃれな物じゃなくて、シンプルなTシャツと動きやすいパンツ姿だ。
もうちょっと気にしとけば良かった……こういう時に限って、誰かに会っちゃうよね。
「その姿も可愛いな」
お世辞だと分かっていても、エルメルさんにさらりとそんなことを言われて、ボンッと顔が熱くなった。
うぅっ……イケメンなのが罪すぎる……!
「ごっ、ご飯の準備をしましょう!」
私は恥ずかしくなってくるりと向きを変えると、テント脇に置いてある大きなクーラーボックスの方に向かった。
「エルメルさん、これを一緒に運んでもらえますか? お肉とかドリンクが入ってるんです」
私はクーラーボックスの蓋をポンポンッと叩いた。
「ああ、いいよ」
「わっ! 大丈夫ですか!?」
エルメルさんは、大きなクーラーボックスを軽々と肩に担ぐと、運んでくれた。「ここでいいのかな?」と訊かれたので、私がコクンと頷くと、その場所に下ろしてくれた。
「ありがとうございます! エルメルさんって力持ちですね!」
私はクーラーボックスの中から、ウッドテーブルの上にどんどんBBQの食材を取り出していった。
調味料の焼き肉のタレと塩胡椒はもちろん、お肉には鳥せせり、ホルモン、豚カルビ、豚タン、ウィンナーをボンボンッと豪快に置いていく。魚介類はアヒージョ用にエビとアサリを。野菜は定番の冷凍ポテトとエリンギ、とうもろこしだ。さらに、〆用の焼きそばとキャベツともやしも取り出した。
うちの子達にもうちょっといいお肉を買って食べさせてあげたいんだけど、いかんせん、社畜OLは薄給すぎて……鳥豚メインで、ごめん。
このクーラーボックスに入れておくと時間が止まるのか、食材が全っ然悪くならないんだよね。だから甘えちゃって、すぐに何でも入れちゃうんだよね。今までやったBBQで余った食材も入ってるし——本当、うちの冷蔵庫よりも優秀!
「……どれだけこの箱に入ってるんだ?」
エルメルさんが少し笑顔を引きつらせて、訊いてきた。
「ダンジョンにクーラーボックスを持ち込んだら、入れれば入れただけ入るようになったんです。しかも、本来は氷とか冷やす物も必要なんですけど、なぜかそれも要らなくなったんですよ」
そうなのだ! ダンジョンに地球の物を持ち込んでもスペックは変わらないって聞いてたんだけど、このクーラーボックスは超進化したのだ!
他にも、永遠に水が出てくる二リットルペットボトルとか、見た目よりも中の空間が百倍広いテントとか、ミュートロギアに私が持ち込んだ物でいくつか超進化を遂げてる物がある。
エルメルさんはクーラーボックスの中を物珍しそうに覗き込んで、「この箱に空間無限拡張、時間停止、氷魔法……」と絶句していた。
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