百夜物語 〜三分の恐怖〜
碧乃びいどろ
第1話 風鈴
Aさんは和室の中央に立ち尽くしていた。
足元には、縦真っ二つに割れた風鈴がひとつ。
表面に涼し気な色彩で描かれた紫陽花が特徴的なそれは、この部屋を使っていた祖母の形見。
主不在の空間は、何も残されていない。遺品整理され、すべて捨てるか売るかされたからだ。
だが、物置にしまった風鈴は――音を鳴らす舌や短冊はないものの――外見だけ半分になって転がっている。
なぜここにこんな物がと思いながらもAさんはそれを拾い、部屋を後にした。
庭の片隅に物置がある。祖母の風鈴はここに片付けられてから、ずっとこの中。
そういえば、最後に墓参りしたのはいつだったか……。
脳裏を小さな疑問が過ぎるが、Aさんは気にせずに物置を開けて、壊れた風鈴を仕舞おうとした。
――チリン……。
そのとき、涼し気な風鈴の音が響いた。
見ると、天井から延びるフックに外見が縦半分に割れた紫陽花の絵があしらわれた風鈴が鳴っている。
驚いて一歩後退りして、物置から離れようとした。
その瞬間。
扉の陰から出てきた皮と骨だけの手にガシッと腕を掴まれた。
そこからは気絶して記憶がない。
どれだけ時間が経ったか定かではないが、次にAさんが目を開けたときには、両の手に割れた風鈴が握らされていたという。
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