異世界ノンフィクション

クマ田クマ尾

第1話 とある剣士の後遺症〜譲れないプライド〜

 コリアヨ民国の田舎町メリテウ、ようやく太陽が昇り始める早朝5時木造アパートの前にある小道で黙々と通常の倍はあろうかという木刀で素振りをしている一人の男性……今回の主人公、剣士デニス・ブラウンさん48歳。

 

 ────おはようございます。


「は〜い」


 ────何時から素振りをやってるんですか?


「あれ? 今何時?」


 ────5時を周りました。


「う〜ん……じゃあ2時間ぐらいか?」


 ────素振りは毎日やられているんですか?


「そうだね、ほぼ毎日! 素振りだけは」


 ────素振りだけを2時間ですか?


「いや〜結局基本よ……あんまり器用なタイプでも無いしさ」


 一見普通の人と変わらないデニスさん……しかし、彼の身体は。


 ────後遺症を患ってから今どのくらい経つんですか?


「う〜ん……12年ぐらいかな?」


 今から12年前……デニスさんはギルドの依頼でバジリスクの討伐に向かった。

 いつも通り、依頼を終わらせて仲間と一緒に労いの一杯を……今回の仕事もそうなるはずでした。


「いや〜あの時はね、その討伐の依頼を受けたバジリスクのサイズがデケェみたいだぞ!? みたいな事は聞いてたからギルドメンバーが……何人ぐらいでいったんだろう? ……半数ぐらい行ったと思ったな確か……30人はいたなぁ?」


 ──── あの時の状況を、詳しく教えていただけないでしょうか?


「あの一回ね、もう倒したぞーみたいな事になったんだよね、でさ、新人がチョット確認しますみたいな事になったんだよ、今考えたら、もっとベテランの奴が確認するべきだったんだけど……3日ぶっ通しでバジリスクとやり合っててこっちもヘトヘトだったし新人も若いしアドレナリンが出ちゃってテンションも上がっちゃってるしさぁ」


 しかし、まだ息のあったバジリスクが最後の抵抗……新人に襲いかかってきた所をたまたま近くにいたデニスさんがその新人に体当たりをし代わりにバジリスクの尻尾がデニスさんの胸に刺さりました。


「もう激痛でヤバかったよ、その後仲間がバジリスクのトドメ刺したみたいなんだけど、痛くて周りの状況が分からないから後で聞いた話なんだけど、そのまま病院に運ばれて一週間は寝れなかったよ」


 その後、症状は回復、しかし、デニスさんが受けたバジリスクの毒は、いわゆる神経毒であり、それはデニスさんの脳に大きなダメージを与えました。


 ────具体的には……デニスさんの症状というのは?


「う〜ん……まぁ要するに……反射神経が上手く機能しなくなっちゃうんだよ」


 ────反射神経ですか?


 「何か考え事をしていた時に急に物が飛んできたら皆んな今までの思考をストップさせて身構えるじゃん」


 ───どういった感じですか?


「要するに今日カレー食べたいなぁと思ってたら物が飛んできたと、で、ちゃんと認識もしてますとその時にカレー食べたいなぁってずっと思わないよね?」


 ────あぁ……確かに一瞬で飛んできた物に集中しますよね。


「俺の場合は物が飛んできてるのにずっとカレー食べたいなぁと思っちゃう感じかな? 極端に言うとね」


 ────剣士ですよね? 危なくないですか?


「うん……そりゃ危ないよ」


 ────大丈夫なんですか?


「だから予測するんだよ」


 ────予測ですか?


「例えば、この地形から敵が隠れそうなのはあそこだなぁ、という事はここから攻撃がこう飛んできて、飛んできた時はこう対処してとかな、後はやっぱり集中力だよな、医者が言ってたんだけど、そういった戦場みたいな特殊な状況で極度の緊張と集中力で症状が抑えられてる部分があるらしい」


 ────凄いですね。


「ハハ……んな事もないけどさ、今はもう随分仕事のランクだって下げてやってるし」


 ────そうなると収入の面も厳しいですよね?


「まぁ今までの三分の一ぐらいになっちゃったけど、貯金とカミさんがパートで頑張ってくれてなんとか食べていける感じかな」


 ここまで我々取材陣に対してあくまで、後遺症の苦悩を背負っているにもかかわらず、これまでの取材で陰のある感情を出さなかったデニスさんしかし……。


 ────最初に自分がそう言う状態にあるという事を知った時はどうでしたか?


「………………」


 先ほどまでのとは打って変わり、デニスさんは、突然表情が曇り、遠くを見つめながらしばし言葉を失ってしまいました。


 ────大丈夫ですか?


「あぁ……まぁなんて言うかなぁ、自分もこんな商売やってるわけだからさ……こういう事になるのは、どっかでは頭に置いてあった訳だし……それなりのね覚悟は持ってたはずなんだけど……う〜ん……だから自分でも情けないし……驚いてる部分もあるよね」


 ────驚いてるというのは?


「覚悟持ってやってたつもりだけど……あぁ……俺ってこんなに落ち込むのか……みたいな客観的に自分を見ている所もあるんだよね」


 ────……でも、そこからまた現役を続けようと思ったんですよね?


「う〜ん……やっぱり自分を客観視できてたって言うのは良かった気がしたね、悔しくないんか!? みたいなハハ……後はやっぱりこの世界にいると変な話もっと酷い状況になった奴とか実際に死んだ奴とかも見てるしね……それに比べたら俺なんかまだ五体満足な訳だしさ……許される事なら死ぬまで現役にこだわりたいんだよね」


 ────自分を鼓舞したって感じなんですね。


「こんな話ししたら若い子は嫌がるかなぁ?」


 ────ハハハ……大丈夫じゃないですか?


「本当に? 老害とかって言われない? 大丈夫?」


 ────意外と気にするんですか?


「いや〜そういう所が意外と繊細なんだよね……」


 ────取材をさせていただく前に少しデニスさんについて調べさせていただいたのですが、以前に国家附属騎士団のコーチを依頼されたんですか?


「あぁ……それはギルドのマスターが俺の身体がこんなになっちゃったから現場から離れさそうとしたんだよね、口利きしてくれたんだよ」


 ────でも断られたんですよね? ちょっと失礼かもしれませんけど国家附属騎士団ですよね? 自分としては勿体ないなぁと思ってしまうんですけど。


「うん……やっぱり現場に出続けたいっていうのがあるし、結果的にマスターの顔に泥塗っちゃた形になっちゃったけど、でもマスターも俺に何にも相談しないんだから」


 誰しもが憧れる国家附属騎士団、そのコーチの依頼を断ったデニスさん……そこには現役に対するデニスさんなりの哲学が……。


「やっぱり現役でいることにこだわりたいっていう思いがあるし、その現役というのは、仕事のランクが下がったとしても、できるだけ現場で働いてお金を稼ぐことだと思ってる」


 後遺症を患う前はギルドのエースまで上り詰めたデニスさんの譲れないプライドがそこにあった。

 例え後遺症に侵されても、……。












 



 




























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