神さまの子猫ナナ

三日月未来

第1話 子猫たちとの出逢い

 世の中が昭和から平成に変わった年、私の元に三匹の子猫がやって来ました。


 子猫たちのうちの二匹は白い身体に赤毛の帽子を被り背中の中央に小さなハート模様の赤毛がありました。大中小の大きさのハートが三箇所に真っ直ぐ並んでいます。

 残りの一匹もほぼ同じ模様でした。背中の赤毛模様が大きく違った印象を与えています。

 三匹とも模様の大小がありました。尾っぽは長く尾にある赤毛の虎模様が私に好印象を与えました。


 三匹の子猫の母猫は綺麗な三毛猫で何処かの飼い猫でした。きっと近くに産み落とした子猫たちをこの場所に連れてきたのでしょう。


 いつの間に、わたし達夫婦の間では子猫たちが自宅前で産み落とされた事になっていました。




 最初の冬が訪れた時、子猫たちの中で一番小柄で息も絶え絶えだった雌の子猫を保護し、この子猫が健康で長く生きて欲しいと言う思いを込めて「ナナ」と命名。


 そのあとでナナと一卵性双生児の雄猫がナナを追いかけるようにやって来ました。ナナの兄と思える同じ柄を持った子猫は自身の意思で玄関から堂々と入って来ました。その子猫には「ガチャチャ」と名付けました。


 ナナとガチャチャの兄妹を見て安心した一番大柄な三匹目の雌猫も家族の仲間に入り、「桃」と呼びました。

 しかし桃は一番警戒心が強く、部屋の中でも匍匐前進の低姿勢を続けています。 ーー 所謂、野良猫歩きの仕草を止めようとしません。飼い猫特有の落ち着きが付くまでーー 暫くの時間を必要としました。


 初めての夜、三匹は布団の中に入り、’ゴロゴロ‘と喉を鳴らし朝まで止むことがありませんでした。余程、嬉しかったのでしょう。お陰で寝不足の日々が暫く続きくたびれた次第ですがーー 嬉しい。




 男前のガチャチャは名前の通り落ち着きがなくーー いつも「ナナ」や「桃」のどちらかと戯れあっています。

 翌年の春、ガチャチャは消息不明になり戻ることはありませんでした。


 ガチャチャが消えたあと、一番ふくよかで大柄な体型の「桃」が「ナナ」より先に動物病院で避妊手術を受け、獣医によって身体の弱いことが告げられたのです。

 夫婦は桃の名前を変えることに決め、新しい名前を「花子」にして、花子の健康を祈ったのです。


 しかし、ガチャチャが行方知らずになった次の年の春、「花子」が消えました。

よく子どもたちと遊んでいたので攫われたかと思い諦める事で、夫婦は心のやり場を見つけました。


 ナナは避妊手術を受けるまでに三度の出産を経験し、見限られたナナは三度も捨てられたのです。ところが、ナナは三度とも自宅に戻って来たのです。


 三度目は一番遠くに置き去りにされ、一週間と言う長い時間を掛けーー 私の誕生日の朝に玄関の扉を‘トントン’と肉球でノックして私に知らせたのでした。何という賢さーー 誕生日プレゼントがナナになりました。


 ナナは年を重ねるにつれ、その容貌が兄のガチャチャや花子に似て来たのです。子猫時代のナナは映画「スターウォーズ」に登場する「ヨーダ」のような顔つきでお世辞にも美人とは呼べませんーー まるで醜いアヒルの子が白鳥に変貌した瞬間を垣間見ているようでした。

 

 わたし達夫婦は「ナナ」を溺愛し、いつの日か‘神さまの子’と呼び、ささやかな贅沢をさせました。




 私は「ナナ」に叩き起こされ会社に遅刻しなくて済んだことを幾度も経験したのです。最初は偶然と思いました。しかし、どうも違うように思えてなりません。


 怪しい通販に連絡して騙されそうになった時、ナナは電話口の近くで激しく泣き叫び危険を警告しました。気付かない人間は警告を理解出来ずナナの努力が徒労に終わったのです。私はナナの能力に気付き始めました。


 地震が発生する前、ナナは真っ先に玄関口に走り自分だけ逃げ切る態度です。結構、薄情な一面に笑うしかありません。

 ナナは雷鳴が大の苦手です。雷雨の日は、いつも部屋の隅で震えています。私の腕の中に逃げ込むことも・・・・・・。




 若い頃、祖母が杉並のアパートに泊まりに来たことがありました。夜中にアパートを抜け出し飲み屋で朝まで飲み明かし帰宅した時、祖母は玄関に向かって部屋の中央に正座して徹夜で私の帰宅を待っていたのです。その祖母はナナが誕生する四年前に亡くなりました。

 インターネットカフェが普及した頃、ナナは重い病に罹り、動物病院への通院を余儀なくされたのです。


 ある日、私が朝帰りして帰宅した時、ナナが他界した祖母のように玄関に向かって部屋の中央に座っています。ナナは私の帰宅を待っていたのです。私は祖母がナナに憑依したのかと思いながら反省しました。

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