平凡な俺が、エリートな今の恋人と、エリートになった告白を断った幼馴染と、チームを組むことになった件

シトラス=ライス

第1話

「え!? 落ちこぼれの俺が特殊任務部隊の隊長にですか!?」


 訓練校の卒業時の成績もギリギリで、今でも現場ではMOA《モア》のパイロットとして、小隊長や先輩にどやされてばかりいる俺"神月 あおい"には、にわかに信じられない人事が下される。

 しかもそれを伝えにきたのが俺の所属する日本共和軍の軍人からではなく、国連軍参謀本部からやってきた白石特務大尉なのだ。


 国軍から国連への出向者は大体エリートが……というのが、相場なのだが……


「なんだ不満か?」


「いえ! 過分なご差配が俄かに信じられず動揺してしまいました!」


「貴様が信じようが信じまいが、これは参謀本部の決定事項だ」


「はっ!」


「出向するのは貴様だけではない。あと2名、貴様に随伴する者がいる。入れ!」


 白石特務大尉が声を上げると。扉が開いた。

なんだかとても感じたことのある、二つの気配。


まさか……!?


「花形 あのん少尉。本日ヒトサンマルマルをもって国連参謀本部への出向を命じる」


「はっ!」


 白石特務大尉へ凛々しく敬礼するも、一瞬の隙をついて、俺の方へチラッと青い瞳で視線を寄せてくる金髪の可愛いこの子こそーー"花形 あのん" 今、俺が所属しているMOA隊のエースで、長い金髪に、青い瞳、ご立派な胸が特徴な、自慢の恋人だ。


 世の中、侵略生物ジュライ&ペストとの戦争で、愛とか恋とかいっている場合じゃないのはわかっている。だけど、俺たちはせめて、人類の自分達の未来を信じて、付き合うことにした。

 平和が訪れた際には、幸せな家庭を築こうと約束している。


 まぁ、この意思が芽生えたのはごく最近のことで、以前は愛とか恋とか諦めていたんだけど……だから、そんな過去の自分が、今の俺を、大変な事態に落とし込めようとしている。


なぜかと言えば……


「木下 いつみ少尉。花形少尉と同様の命令を下す。神月、花形と共に人類の栄光を勝ち取るために励め」


「は、はいっ!」


 久々に見たいつみのおどおどした態度に懐かしさを覚える俺だった。

 そういや、いつみも配属先の隊で大活躍しているらしい。

だから国連軍への出向者に選ばれるのはわかるんだけど……どうしてこうなった!?


 この黒髪ショートカットで、スレンダーな美少女、木下 いつみは俺の幼馴染だ。

そしてMOA搭乗者訓練校入校前に、ずっと俺のことが好きだった告白された。

しかし今のご時世、愛とか恋とか言ってられないとのことから、告白を断ってしまった相手である。


「以上3名はこれより国連軍参謀本部直轄の実験部隊"T01"として、作戦へ参加してもらうこととなる。よろしく頼むぞ」


 昇進は歓迎すべきことだけどーーどうして今の恋人と、告白を断った幼馴染とチームを組まにゃならんのだ!?


●●●


「改めて……花形 あのんです! よろしくね、いつみさん!」


「あ、ええっと、はい……花形さん……?」


「いいよ、あのんで! 私たち同い年だし、チームだし、任務の時以外はフランクに行こうね!」


 新たな配属先である国連軍横須賀基地へ向かう輸送機の中。

なぜか俺を挟んで座るあのんといつみは目の前で、固く握手を交わしていた。


 正直、今のこの状況をどう飲み込んで良いか困惑している俺である。


「にしても、碧くんとまた一緒の隊だなんて嬉しいよ! やっぱ、私たちって離れられない運命なんだねっ!」


 あのんは一応周りの目を気にしつつも、俺の左腕に抱きついて、大きな胸を寄せてくる。


「お、おい、あのん! 離れろって! こんなところじゃまずいだろ!?」


「大丈夫、誰もこっち見てないから♩」


「だけどよ……」


 いつみ以外はこっちを見ていないけど……いや、この状況はいつみには特に見られたくない状況なのだが……


「あ、あのっ……! あのんさんと"おいくん"の、その、ご、ご関係って……?」


 おい、いつみ! 今、その呼び方やめろ! と言いたいが、もう遅い……


「おいくん……?」


 やっぱり何かを感じ取ったあのんは、俺へ怪訝な表情を向けてくる。


「あーいや、その、いつみとの関係は……」


「いつみぃ? もしかして、いつみさんと碧くんってお知り合い?」


 俺もうっかり昔からの癖で"いつみ"と言ってしまった。

 

 まずいぞ……あのんが、ますます疑問を顔に浮かべて、俺のことを見始めている……!


「あ、えっと、ぼ、僕とおいくんって、昔は近所に住んでて、良く一緒に遊んだりとかしてたんです。だから、その、つい懐かしくて昔みたいな呼び方しちゃって……」


 おお、いつみナイス! 確かに間違ってはいない!


「ところで、あのんさんと、おいくんのご関係って?」


 おいおい……ようやく状況が落ち着いてきたのに、やっぱりそこを聞きたいのか、いつみよ……


「ここだけどの話だけど……付き合ってるんだ私たち」


「そう、なんですか……やっぱり……」


 そして明らかに落ち込んだ表情をみせるいつみだった。

そりゃ、告白を断った幼馴染が、他の人と付き合ってるって聞けば、そうなるわな……。


「ね、ねぇ、碧くん、これってどういうこと……?」


 あのんも女の勘でなにかを察知したのだろう、俺にそっと耳打ちをしてくる。


「これはその……」


 やはり言うべきか? これから戦場で背中を預け合うもの同士、こう言った話は早めに解決しておくべきか!?


 と、そんな中、突然輸送機が激震に見舞われた。

機内の赤色灯が灯り、警報が鳴り響く。


 窓の外に見えたのは並行飛行する、トンボのようなドラゴンのような人類の天敵の片割れーーペスト。


「この機はもうダメです! 神月少尉はMOAで降下し、脱出してください!」


「で、でも!」


「あなた方をここで失うわけには行きませんし、これが我々の任務です。さぁ、急いでください!」


 随伴の軍曹がそう促してくる。窓の外ではあのんやいつみのMOAを積んだ輸送機もペストの強襲を受けている。


「りょ、了解です! 行くぞ、あのん、いつみ!」


「「了解っ!」」


 俺たち3人は迷わず輸送機の格納庫へ向かってゆく。

出向組がまだ成果を挙げず戦死してしまうなどあってはならならないことだ。

それに俺はまだしも、あのんもいつみも人類が勝利するためには、必要な人材なのは誰が考えても明らかだ。


 俺たちはすでに降下準備が完了している10式MOA「烈火」へ、3人で乗り込んでゆく。


 MOAとは「Mobile offensive armor」の略称の全長15メートルの人型機動兵器で意思伝導式人工筋肉「フリージア」を搭載した、人類がジュライとペストに唯一対抗できる手段だ。そしてこの「烈火」は国産初のMOAであり、最新式。俺がかつて乗っていた90式「焔」とは一線を画する。


「し、しっかり体を固定しろよ?」


「うんっ!」


「んっ!」


 そして脱出のためとはいえ今の恋人のあのんと、かつて振ってしまったいつみがMOAの操縦席内で俺にしがみついている……

あのんの巨乳はいつもながら柔らかいが、いつみも小さいながらもしっかり成長していて……ああ、もう! なんなんだよ、この状況!


……と憤っている中、格納庫へ火の手が回る。

そろそろ脱出しないと、随伴軍曹たちの厚意を無駄にしかねない。


「降下しますっ! ハッチ開けてください!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る