27-2・仙木暴走~片輪vsヌリカベ~ジャンヌ登場
-放課後-
終学活が終わって、生徒達が一斉に動き始める。好代は卓球部が活動をする小体育館に向かった。センキチは、教室から出て行く好代を目で追ってから立ち上がる。教室内でキーホルダーを渡す事は出来るが、皆が居る所では、気持ちを伝えられない。だから、このタイミングを待っていた。早足に好代を追っていく。
A組の教室から出た真奈が、センキチと擦れ違う。昼休み中の紅葉への相談では、何も得るものが無かったが、その後ずっと考えて、妖怪の事を知らないなりに、「センキチは好代を好きかも」「片輪車はセンキチを依り代にしているのかも」との考えに至っていた。
今のセンキチは、あきらかに好代を追う動きをしていた。妖怪化をして襲うつもりかもしれない。真奈は、センキチを尾行する。
-渡り廊下-
校舎と体育館の間の渡り廊下は、1階は体育館のメインフロアへ、3階は体育館の応援席フロアへ、2階は小体育館の応援席フロアへと繋がっている。つまり、放課後に2階渡り廊下を通過するのは、小体育館に向かう生徒(本日は卓球部)だけ。小体育館に入ろうとした好代を、センキチが呼び止める
「なぁ、半田さんっ」
「どうしたのセンキチくん?」
後を付けてきた真奈が、柱の陰に隠れながら、様子を覗う。何となく、張り詰めた緊張感は感じるが、妖怪が好代を襲う雰囲気は無い。これは、告白タイムの初々しい緊張感だ。全く関係の無い真奈までが、ドキドキと緊張しながら、好代とセンキチを眺める。
「い、いつも鞄に付けていたキーホルダー、無くしてない?」
「えっ!?」
「な・・・なんか・・・拾ったんだけど・・・
もしかしたら半田さんのかな~って思って。」
「え?え?キーホルダーってパンダの!?センキチ君が拾ってくれたの!?」
好代は、センキチに向かって、嬉しそうな笑みを浮かべてくれている。ここまではセンキチ予定通り。この先は、パンダのキーホルダーを渡して、恩に着せて評価を上げてから、「ずっと好きでした」と気持ちを伝える。
「えっ?無いっ??なんでっ!?」
しかし、鞄の中に保管したパンダのキーホルダーが無い。パンダキーホルダーの帰還を期待していた好代は、少し不安そうな表情で、センキチを見つめている。
「ご、ごめんっ!机の中に置いて来ちゃったみたいだ!
直ぐ持ってくるから、ちょっと待っていて!」
センキチは、慌てて踵を返し、駆け足でE組の教室に戻っていく。道中で、様子を見ていた真奈と擦れ違うが、気にしている余裕なんて無い。
教室に飛び込んで机の中を覗き込むが、キーホルダーは何処にも無い。
「なんで?ヤバい・・・どうしよう・・・どうしよう」
渡り廊下で好代を待たせている。好代に「キーホルダーを拾った」と言ってしまった。好代の嬉しそうな表情を思い出すと辛くなる。「嘘をついて糠喜びさせた」と思われるかもしれない。
「もうダメだ、どうしよう。」
センキチの全身から闇が発せられ、足元の影に吸い込まれていく。そして影は大きく広がって、壁のような影が、ゆっくりと浮上して、センキチの体内に潜り込んだ。 途端に、センキチの意識は途切れ、目が虚ろに変化する。
数分後、好代が待つ渡り廊下に、センキチが戻ってきた。ずっと待機中だった真奈の真横を通過するが、「真奈に気付いてない?」ってくらい、全く気にしていない。 黙々と歩いて、好代の前に立つ。様子がおかしい。青白い顔色と、虚ろな瞳で、好代を見つめている。妖怪には詳しくない真奈や好代でも、センキチがさっきまでと別人のように感じた。センキチを不審に感じて、後退る好代。センキチは、いきなり好代に向けて、手を伸ばしてきた。
「カベカベ~~~!半田サンガ 欲シイ~~~~~~!!!」
「えっ!?センキチ君??」
「半田さん!逃げてっ!」
真奈は、確証となる根拠は無いが、様々な条件から、「センキチが妖怪に憑かれているかもしれない」と予想していた。ダッシュで好代に駆け寄り、好代の腕を掴んで引っ張り、扉を潜って小体育館の応援席に飛び出す!
「熊谷さん?急にどうしたのっ!」
「勘違いだったらゴメン!でも、あの人(センキチ)、ちょっとヤバい気がする!」
一方、妖怪の出現を感知した紅葉&麻由が渡り廊下に駆けてきた。美穂も後ろから着いてくる。センキチが佇んでいた。目は虚ろで、顔色は青白い。一瞬しか闇が発生しなかった今までとは違って、継続的に闇が鼓動をしている。
「アイツ(センキチ)が依り代だねっ!」
紅葉は、Yスマホから清めのハリセンを召喚して握りしめ、センキチに向かって突進!しかし、センキチが紅葉を睨み付けた途端に、紅葉の正面に壁が出現して進路を塞ぐ!紅葉は妖気で作られた壁をハリセンで祓って消滅させたが、その間にセンキチは、窓から飛び出して地面に着地!好代のいる体育館に入っていく。
「んぁっ!逃げやがったっ!生意気っっ!」
センキチを追って窓から飛び出そうとする紅葉!半分ほど身を乗り出したところで、美穂と麻由が慌てて羽交い締めにして、床に引き摺り下ろす!
「アホッ!ここは2階だぞっ!!」
「正気ですか、紅葉!?」
「んぁっ!このくらいの高さ、大丈夫だもん!!
おうちに居る時は、5階から飛び降りて、キチンと着地してるもん!」
「大丈夫かもしれませんが、グラウンドから丸見えです!目立ちすぎます!」
「んぁぁ~~~~・・・離せぇ~~~!!」
「2回からダイブしたら、奇行の武勇伝が、また、増えるぞっ!」
抵抗する紅葉を、美穂と麻由が力尽くで引っ張って小体育館に入る。正規ルート(小体育館経由で体育館に行き)で、センキチに追い付けるんだろうけど、紅葉が無駄に抵抗しまくってるので、体育館に行くまでに、必要以上の時間が掛かってしまう。「なんで、こんな無駄な事をしているの?」と聞かれれば、「紅葉がおバカさんだから」としか答えようがない。
-体育館南側の外-
紅葉達が現場に来た事を知らない真奈は、好代の腕を引っ張って体育館に入って突っ切り、西側出入口から外に飛び出した!どうにかして、定例ミーティングをしているであろう(と思い込んでいる)愉怪部メンバーに接触をする為に、2年A組の教室を目指す。
真奈と好代の進行方向の上空に闇が出現して、幅2m×高さ3mの壁に変化!落ちてきて進路を塞ぐ!後ろからは、虚ろな目をしたセンキチが追ってくる!真奈達は、壁を廻り込んで先に進もうとするが、再び壁が落ちてきて、進路を塞がれてしまう!
「え?え?壁が降ってきた!?どうなってるの、熊谷さん!?」
「細かい説明をしてる暇は無いけど、多分、半田さんを逃がしたくないの!」
「え?え?え?なんでなんでっ?」
「理由は、アイツ(センキチ)にでも聞いてっ!」
校舎内の戻りたいが、次々と壁が降ってきて、辿り着く事ができない!真奈と好代は壁を回避しながら逃げ廻る!
一方、小体育館で、優花を含めた卓球部員達に眺められながら、「意地でも2階から飛び降りる」喚きながら階段にしがみつく紅葉と、「ダメ」「諦めろ」と紅葉を引っ張る麻由が、グラウンドで妖気が活性化している事を感知する!
「この反応ゎ、片輪車と違うっ!」
「ヌリカベですっ!」
「出たのか!?」
無駄な悶着をしている余裕は無い!3人は、意地の張り合いを止めて、小体育館から体育館の端を駆け抜ける!外に出たら、グラウンドが幅2m×高さ3mの壁だらけになっていて、野球部とサッカー部に人達が困っていた。
「壁を祓わなければ!」
「んっ!そだねっ!」
「チゲーだろ!先に妖怪退治だ!壁は我慢してもらえ!」
紅葉と麻由は、「ヌリカベの妖気は東の方に移動している」と感知する。
「ヨーカイゎ土手の方に向かってるよっ!」
「聞かなくても解る。サッサと追うぞ!」
「えぇ!?美穂さんの感知できるようになったんですか?」
「いや、見れば誰でも解る。」
東側を眺めると、空中から壁が出現して降っているのが見える。
-山頭野川の西河川敷-
川を背にして後退る真奈と好代。5mほど離れた眼前には、虚ろな目をしたセンキチが立っている。
追い詰められてしまった。好代の手を引いた真奈が、脇に逃げようとするが、壁が降ってきて進路を塞がれる。振り返って反対側に逃げようとするが、やはり壁に塞がれてしまう。逃げ場は、川の方向にしか無い!
「一体何なの、センキチ君!?
言いたい事があるなら、こんな事しないで、ハッキリ言ってよ!」
「カベカベ~~~!半田サンガ 欲シイ~~~~~~!!!」
「えっ!?」
「説得しようとしても無駄だよ!コイツ(センキチ)は妖怪に憑かれているの!」
「妖怪って!?」
「上手く説明できないけど、妖怪は妖怪!
私も、ちゃんとは解ってないけど、
多分、半田さんがコイツの気持ちを受け入れないと、ずっと付きまとう!」
「えぇっ?私がセンキチ君と付き合うって事?
私、好きな人いるし、センキチ君に興味無いし、
パンダちゃん拾ったとかって嘘付いたし、
今は彼氏作るより、友達と遊んでいた方が楽しいし、
こんなキショい雰囲気でコクられても、ちょっと無理だしっ!」
「わぁ~~~!!半田さんっ!!これ以上刺激をしちゃマズいって!!!」
センキチにとっては、トドメになった。好意を拗らせすぎたセンキチの意思が闇の中に沈み、センキチの影から闇が上がる!闇はセンキチの姿を包み、幅2m×高さ3mで三ツ目の大きな妖怪=ヌリカベに変化!
「カベカベ~~~!半田サンガ 欲シイ~~~~~~!!!」
「きゃぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
妖怪を目の当たりにして悲鳴を上げる好代!真奈は、好代を庇いながら川の浅瀬まで後退して、拾い上げた石を投げて応戦する!しかし、ヌリカベは全くダメージを受けない!ヌリカベの腕が、好代に伸びる!
好代は、恐怖で表情を引き攣らせ、持っていた鞄をヌリカベに向かって投げた!鞄はヌリカベに当たり、鞄の中身が飛び散る!飛び散った中身の中に、パンダのキーホルダーが混ざっていた!
「えっ!?パンダちゃん!?なんで私の鞄の中に!?」
センキチが紛失させたと思っていたキーホルダーは‘自分の意思’で、好代の鞄に戻っていたのだ!
「コンナ物!」
センキチの闇落ちのキッカケになったパンダのキーホルダー。これさえダメになれば、センキチは罪悪感で、闇に沈んだまま戻って来られなくなる。この体は、完全にヌリカベの物になり、センキチは負の感情を発するだけの燃料になる。ヌリカベは憎々しく睨み付けて、足を上げて踏み潰そうとする!
「や、やめてぇぇ~~~~~~~~~~!!!」
「好代ハ オマエ(センキチ)の物ジャナイ。僕ノ物ダ!」
しかし、ヌリカベが足を踏み降ろすより早く、好代の声に反応したパンダのキーホルダーから闇が発せられる!
「好代ニ 正直ニ 謝罪ヲスルナラ 大目ニ見テヤロウトモ 考エタガ
騙シテ恩ヲ売ロウトスル 浅マシサハ 許サレル行為デハナイ!
オマエニ 好代ハ 渡セナイ!!」
キーホルダーを包んでいた闇が肥大化!中から片輪車(本体)が出現して、至近距離からヌリカベに体当たりをした!足を踏ん張らせて、持ち堪えるヌリカベ!だが、その間に、好代の手を引いた真奈が、ヌリカベの横を擦り抜けて壁の包囲網から脱出!片輪車は、ヌリカベとの力の押し合いを止めて、真奈達に追い付いて並走する!
妨害されたヌリカベが怒りを露わにして雄叫びを上げると、真奈と好代の逃走を妨害するようにして壁が出現!だが、片輪車が先頭を走って壁に体当たりして粉砕する!
「へぇ~!この妖怪(片輪車)って、半田さんの味方だったんだ!
頼もしいじゃん!」
「パンダちゃんが怪物??ど、どうなってるの?」
片輪車のおかげで助かった。あとは、優麗高に戻って、紅葉達と合流すれば、ヌリカベを祓ってもらえる。いや、紅葉や麻由の事だから、妖怪の出現を察知して、こっちに向かっているかもしれない。走りながら、真奈は、安堵の表情を浮かべて、好代から手を離す。・・・だが!
「好代ハ オマエ(真奈)の物ジャナイ。僕ダケノ物ダ!」
「えっ!?」 「きゃぁぁっっっ!!!」
一瞬の出来事だった。片方だけ車輪のある牛車に乗った女の妖怪が、好代の腕を掴んで牛車に引き摺り込み、真奈の思惑とは別の方向に飛んでいってしまった!
「・・・半田・・・さん?」
真奈は、咄嗟には、何が起きたのか理解出来ず、立ち止まって呆然と片輪車を眺め、徐々に青ざめる。
「熊谷さん、助けてぇっ!こんなの、私のパンダちゃんじゃないっ!」
「好代ハ 僕ダケノ物! 僕シカ居ナイ場所二 連レテ行ク!」
キーホルダーの想いは、「好代を守る」だったとしても、妖怪に乗っ取られてしまった時点で、歪んだ方法で実行される。片輪車は好代を助ける為にヌリカベを妨害したのではない。自身が好代を得る為にヌリカベを排除したのだ。
川の上空を東に向かって横断する片輪車!その牛車の上で、真奈に向かって手を伸ばして助けを求める好代!
「半田さん、そこから飛び降りて!」
「そ、そんなの無理っ!」
好代と片輪車は、川面よりも5mも高い空中にいる。しかも、好代は、片輪車の牛車に乗る女に掴まれている。真奈は、無茶なアドバイスをして、棒立ちで眺める事しか出来ない。
その背後、怒り心頭のヌリカベが立ち、拳を振り上げてた!殺気に気付いて振り返り、怯えて足を竦ませる真奈!
「ひぃぃっっ!!」
「カベカベ~~~!半田サンガ 欲シイ~~~~~~!!!オマエ邪魔!!!」
「マスター!離れてっ!!
おぉぉっっ!!テュエ・ディユ・セルパンッッ!!!」
上空から光る蛇が落ちてきてヌリカベに炸裂!弾き飛ばされて倒れるヌリカベ!真奈が見上げると、上空には、ユニコーンに跨がったマスクドジャンヌが、オラクルフラッグを構えていた!
「な、なんで、ジャンヌさんがここに?」
「ミポリンから『妖怪が発生した』と連絡をもらいました!
尤も、マスターが単独で対応しているとは思いませんでしたが!」
ジャンヌは、足でユニコーンの脇腹を蹴り、手綱を引いて、上空から降りてくる。 マスクを被っているのでジャンヌの顔は見えないが、真奈は、怒っている雰囲気を感じ取った。
「昨日のように、クーチャンやマユユと一緒ならば話は解りますが、
単独行動とは、どういうつもりですか!?
マスターは、自分の立場を、どう心得ているのだ!?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「マスターならば、通信手段を使わずとも、念じれば、私の意思と繋がる!
命令権を発動させれば、移動を伴わずに、私をマナの元に呼び出せる!
何故、私を頼らない!私は、貴殿を守る為に存在する衛兵なのですよ!」
「・・・ご、ごめん。」
「乗ってください!共に参りましょう!」
馬上から、真奈に手を差し出すジャンヌ。
「・・・え?」
「あの、歪な車(片輪車)に乗った少女(好代)を救出したいのですよね?
妖怪への攻撃は私だけで可能ですが、
1人ではマナの友人を助ける事は出来ません!
少々言い過ぎたが、私はマスターに頼ってほしいのです。
それだけは、解っていただきたい。」
「う、うんっ!」
真奈は、ジャンヌの手を掴み、ジャンヌが空けた鐙に足を掛けて、ユニコーンのジャンヌの後ろに跨がる!ジャンヌが手綱を引いて足でユニコーンの腹を蹴ると、ユニコーンが駆け出した!その正面にヌリカベが立ちはだかる!しかし、ジャンヌは、ユニコーンの駆けるスピードを緩めるどころか、さらに加速させた!
「ジャンヌさん!?」
「飛びます!シッカリ掴まって!!」
ユニコーンは高いジャンプでヌリカベを踏み台にして、空中に飛び上がり、ヌリカベには目もくれずに、東方向に飛ぶ片輪車を追う!
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