私と箒、魔女学園

りあ

「最速」の少女

 空を飛べることのなにがいいのだろう。そう思っていた。

 跨る箒を憎んでさえいた。お前が速くなければ。お前が高く飛ばなければ。

 けれど──。


「さあ!いよいよレースは終盤へと差し掛かるっ!魔の大カーブを抜けた選手たちが、最後のスラロームへとやってきました!!」


 前を翔る背中は二つ。ここまで過酷なコースを潜り抜けてきた実力者二人が、今更スラロームで落ちるなんてありえない。

 ならば、純粋なスピードで、技術で、私は彼女たちを追い抜かなきゃいけない。

 自然と、口角が上がった。


「先頭はやはり!マギ・セルグアーツ魔法学院のレジーナ選手!大カーブまで大逃げを保ってきたニモザ選手は現在二位で追い縋っているようですっ!!」


 ゴールが近づき、見えてくる観客席。大地を震わせる歓声も、空を走る私たちには届かない。ただ、ごうごうと風を切る音だけが、耳に響く。

 勝負は六百メートルで決まる。直線なら時速百二十キロ出すレジーナだろうと、スラロームならスピードは落ちる。どんなに内を狙ったって、箒の頭を左右に振れば減速する。すなわち、隙ができる!!


「は、ああ……ああああああああっ!!」


 箒競技におけるスラロームは、花形であり王道のコースだ。長距離障害物部門の去年優勝者であるレジーナにとって、立てられたフラッグの内側を抜けることなど、目を瞑ってでもできるだろう。

 だが、私に言わせれば──


 限界まで箒に上半身を引きつけ、一本の矢となった私は、あいぼうを軸に回転を始める。ただの回転なんかじゃない。フラッグの側を通る瞬間、確実に箒側がインコースギリギリをすり抜けるように、何度も何度も、血の滲むような努力ならぬ、嘔吐に塗れた努力を重ねてきた。

 空を憎んでいたちっぽけな魔女はもういない。箒は、風は、絶対に私を裏切らない。今ならば、断言できる。

 こと、スラローム飛行において、


「なんということだああああああ!!三番手だったティリスナヴァ選手、全くの減速を見せず、スラロームを通過していくうううう!!人間離れした高速回転!彼女の平衡感覚はどうなっているんだああああ!?」


 いつの間にか、私の前を飛ぶ背中は一つになっていた。

 残りのフラッグは一本。ゴールまでは、たったの百メートル。最後の加速に入るレジーナ、最高速を全力で維持する私。


 その差は少しずつ、少しずつ、縮まって、そして──。

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