第28話

 色々と疑われないように、滝沢と少し時間を置いて教室に入ると、何やら教室内はざわついている様子だった。


 滝沢が登校してきた事についてかと思って、クラスメイトの話に耳を傾けてみると違った。


 ストリーがどうのとか。あれヤバいでしょとか。ストリーの話一色だった。


 そんなにこのクラスでストリーが流行っているとは思っていなかったが、吉岡にとっては朗報なのではないだろうか。


 俺が作ったグループの存在意義は薄れてしまうかもしれないが。


 喜び勤しんでいるだろうと、自らの席へ向かって前の席を見ると、仏頂面の吉岡がいた。


「良かったな。ストリーが有名になって」


「ああ?全然よくねえよ」


 かなり機嫌が悪いようで、こちらを見ようともしない。


 俺の方が先に知っていたのに、とかそういった感情だろうか?

 SNSで知らない人どうしがそんなやり取りをしているのを見たことがあったから、そうなのだろうと決めつけて、言葉を続けた。


「でもお前、古参って奴だろ?だから気にすんなよ。どんなに新参者が入ってきたって、昔から知っているお前の方が偉いんだ。だから気にすんなよ」


 精一杯気づかった言葉をかけたつもりだったのに、吉岡はコチラに向き直ると、俺の胸ぐらを掴んだ。


 そういう奴だと思っていなかったから、とても驚いて、反応がコンマ数秒遅れた。


「どうしたんだよ。そんなに熱くなって」


「お前、本気でそんな事言っているのか?お前だって『ストリーのファンだ』そう言っていたよな?それなのに、この状況を看過できるのか?」


 グループを作った便宜上、ストリーのファンと言う事になっていたな。そういや。

 今となっては、である、彼女のライトなファンである事は間違いないが。


 だけどなぜ、話題に上がって、吉岡が怒っているのか、それがよくわからなかった。


「こんな状況ってどういう意味だよ?」


「……お前、グループトーク見てないのか?」


 昨日は登校してくる滝沢の為に色々考えていたから、グループトークは開いていない。


「……悪い。開いてない。ちょっと忙しかったんだ」


「だったら良い」


 そう言って吉岡は俺の胸ぐらを掴んでいた手を離した。


「何があったんだよ。詳しく話してくれ」


 吉岡は椅子を反対に座り、俺の方に体を向けて、俺にも座るように促してきた。


 そして、小声で回りに聞こえないように配慮しているのか小声で話し始めた。


「昨日。配信で事故があったんだよ。それもかなり重めなな」



「じ、事故?」


 外配信でもしていて、車にでも轢かれたのだろうか?

 そんな疑問が頭に浮かぶが、次の吉岡の一言でそれは否定される。


「部屋の中が映り込んじゃったんだよ。あまりこういう言い方したくないんだけどよ。ストリーの中の人のリアルな部屋の様子が」


 深刻そうに吉岡は話すが、俺にはイマイチ何が問題なのかわからなかった。顔でも映ってしまったのだろうか?そうでないならそう問題でもないと思うが。


「フォンとしては嬉しいんじゃないのか?ついに顔でも拝めたか?」


「はあ。お前もそっちタイプか。俺は中の人は中の人。ストリーはストリー。まったく切り分けて考えるタイプのファンだ。以後そういう発言には気をつけろ。一つ言うと、顔が映ったわけじゃあない」


「お、おう。気をつける。だったら何が問題なんだ?」


 なんで怒っているのかよくわからないが、適当に話を合わせて続きを促す。


「制服だよ」


「制服?」


「ストリーの通っているであろう高校の制服が映ってしまったんだ」


「ほう」


 正直ここまで聞いても重大性が俺にはよくわからない。


 クラスメイトも騒いでいるくらいだから、とても重要な事なのだろうけど。


「それがよ、ストリーはこの学校の生徒らしいんだよ。リボンの色からして、一年生なのは間違いない」


「はっ!?」


「大きな声を出すな」


「す、すまん」


「俺はストリーの大ファンだ。最推しだ。だからこの状況が良くないと思っている。みんな特定しようとしているが、それは良くない。さっきも言ったように中の人は中の人。ストリーはストリーだ。切り分けて考えるべきだと考えている」



「お、おう」


「はい、みんなーおはよう!よし、ちゃんと席に着いているな」


 俺達の会話を遮るように、横島先生が入ってきた。


「とりあえず、詳しい話は後だ。この次はホームルームだったな。そこで話し合おう」



「お、おう」




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