旭ニチカ女王と円卓学園の伝説!
ツノガネえぬび
第1話
東京湾に浮かぶ、円卓学園。
世界一難しいと言われる試験を突破した、選ばれし子供達しか入学を許されない超名門校では、この日入学式が行われていた。
生徒は、きらびやかで輝いている、普通ではない子供たちばかり。
家柄や才能に秀でた者だけが、円卓学園の生徒に選ばれるのだから、当然といえば当然である。
(な、なんで私、こんな場所に立たされてるんですか……!?)
だが、式典が行われた大講堂の壇上には、学園の生徒らしくない、小さな可愛らしい女の子が立っていた。
彼女の名前は、旭ニチカ。
小柄で地味な雰囲気の女の子。前髪が人よりも長く、幼い印象があるため、どこか小動物のようでもある。
勉強も運動も得意なわけではなく、彼女以上に、勉強や運動ができる入学生はいくらでもいる。
そんなニチカが、華のある入学式中に、壇上の真ん中に呼び出され、その場の1000人の視線を集めていたのだ。
「あの子誰?」
「旭ニチカとか言ったけど、聞いたことある?」
「知らな〜い。苗字は"ルビーの女王"と一緒だけど、流石に別人だと思う」
「でも、いきなり学園長に呼び込まれたんだから、何かすごい人なんじゃない?」
「確かに。さっきから全然動じてない。何者なんだろう?」
新入生たちのヒソヒソ話が、ざわざわとした大きな騒ぎになっていく。
一体何が始まるのか、という疑問や期待によるものだったが、当のニチカも全く分かっていなかった。
(緊張で、全く動けない……苦しくて、気持ち悪くなってきたような……うぅ)
ニチカは目の前に立つ、自分を壇上に呼び寄せた学園長を見上げるしかなかった。
大柄な学園長は、鋭い目つきで、ニチカを見つめている。
この学園長が、新入生に向けた挨拶中、「1年B組の旭ニチカ、ここに来たまえ」と言い出して、ニチカを壇上に招き入れたのである。
「これを被るんだ」
すると学園長は、ニチカの頭に何かを置いた。
それは、輝く宝石や金銀で彩られた王冠であった。
(えぇ? 王冠!?)
ニチカの小さな頭に、大きすぎる王冠が乗り、彼女の長い前髪を押さえつけた。
周囲の新入生たちは、一体何が起きているのか分からず、目を丸くして見守るしかなかった。
「旭ニチカ。改めて伝えよう。君は、これから学園のために、身を捧げなければならない」
なぜなら――――
「君は"円卓学園の女王"だからだ」
まるで映画俳優のような、キレ長でクールな印象の学園長に、至近距離でこう告げられる。
年頃の女の子ならば、この涼しげな学園長の視線に、頬を赤らめてしまう子もいるかもしれない。
「……………………はい?」
だが、ニチカは青ざめて、震えていた。
(あの、これドッキリじゃないですよね? 私、ただの地味な普通の女の子なんですけど、女王ってなんですか!?)
円卓学園は色々とすごい学校だが、王様がいるなんて話をニチカは聞いたことが無かった。
そもそも新入生の自分が、なぜ女王なんて呼ばれることになるのか、ニチカは全く分からなかった。
「なんだ? 君がこの学園に合格した理由を忘れてしまったのか? ……まあいい。早速、女王に頼みたいことがある」
ニチカの疑問を無視して、学園長は、突然、頭上を指差した。
その流れで、ニチカを含めた全員が、一斉に上を向く。
ガラス張りの天井からは、青空が見下ろしていた。なんの変哲もない青空だ。
「今から28分後、この場所に――――人工衛星が墜落してくる。このままでは、円卓学園は木っ端微塵に破壊されてしまうだろう。君に、この学園を守ってほしい」
学園長は、表情を変えることなく、そう言い切った。
「つまり、君に人工衛星を止めてほしいということだ」
「…………え?」
学園長の言葉に、その場の全員の思考が止まる。
同時に、新入生たちが持っているスマホがファンファンと騒がしく通知音を鳴らしながら、災害情報を伝えた。
『東京都、円卓学園に人工衛星が落下すると見られます! 今すぐ避難を!」
「…………ええええええええええええええええええええええええええええ!?」
会場は、悲鳴で埋め尽くされた。
その場の全員が、身の危険が迫っていることを理解したのだ。
「学園長は、あの子に任せる気なの!? 警察とか消防に通報しないなんて、本気!?」
「絶対無理でしょ! あんな感じで、なにもできなそうな子に任せるなんて、学園長おかしくなっちゃった!」
「逃げなきゃ! 死にたくない!」
新入生たちは、恐怖で会場の出口へと一斉に駆け出した。
「――――頼んだぞ。女王」
学園長は、大真面目に、ニチカに向かってそう言った。
(……そんなの、私、どうすればいいんですか〜!!?)
パニックの中心で、ニチカは、今すぐ王冠を投げ捨てて、逃げ出したい気分なのであった。
かくして、円卓学園の平和は、突然、新入生のニチカに託されたのだ。
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