人間は計り知れない

博士は瞬間移動装置を発明した。


長年、通勤時間の長さと自殺率は強い関連を持つとされてきた。

そのため、この瞬間移動装置は通勤時間そのものを無くす画期的な発明だった。

博士はノーベル賞を獲得し、たくさんの命を救う救世主として歴史に名を刻んだ。

数年後、日本国内で導入され、同時にすべての公共交通機関は姿を消した。


しかし自殺率は下がらなかった。


むしろ、自殺の名所と呼ばれる場所での遺体の発見数は増加したのだった。

原因は、自殺の名所に行きやすくなったこと。

移動中に瀬戸際で踏みとどまる可能性を、瞬間移動装置は奪ったのだった。


気づけば、博士に対しては批判の声が殺到。

数年前とは一転して、博士はたくさんの命を奪った科学者として名を刻まれた。


人間は計り知れない。

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