魔法はそんな風に使うもんじゃありません!
柿月籠野(カキヅキコモノ)
1.モンスター(全2話)
第1話 ホームルーム
「おはようございます」
普段とは違う声の挨拶に、
「ご安心ください。
教室に入ってきた副担任・
――しかし、それでも黙らない生徒の一人や二人が、どのクラスにもいるものである。
「なあなあ、おとちん」
最も教師から見えやすいにも関わらず、最も教師から見え
「うん?」
乙盗は水川の声も千色の声も聞こえていない様子で、両手で作った皿に一つだけ乗せたマシュマロを、同じ大きさの餅に変えては、再びマシュマロに戻し、また餅にする、という、何の意味も無い遊びをしている。
――乙盗が使っているのは、魔法だ。
ここは、全ての生物が魔力――魔法の力を持つ世界。
国立総合防衛魔法学高等学校は、そんな世界の中にある小さな島国の、都会とも田舎とも言えない微妙な場所にある高校だ。
国立総合防衛魔法学高等学校――通称『
三学年で四十七クラスを構成するこのマンモス校には、最も入試倍率の高い『魔法防衛学科』をはじめとした十一学科があり、生徒たちはそれぞれの進路を目指して、日々勉学に励んでいる――。
「
千色が右斜め前の空席を目で
千色と乙盗といつも一緒にいる
「そこ!」
前方から鋭い声が飛んできて、千色は
「魔法防衛学科の生徒はこの高校の顔です。自覚を持ちなさい」
はいはい。
千色の頭に浮かんだのは大変失礼な二つ重ねの返事だったが、後の面倒をよく知っている彼は一つ減らして、代わりに伸ばして、「はーい」の返事にする。
――一番のエリートは『
千色は遠慮なく
千色は幼少期から国の魔法防衛部隊に憧れ、中学では必死に受験勉強をして、最難関とも言われるこの高校の魔法防衛学科に入ったが、彼は入学早々、うんざりしていた。
授業は古文、政治経済、数学、化学、魔法理論……難解で退屈な座学ばかり。かといって実際に魔法を使う授業となると、このクラスのレベルが高すぎて、自分の
千色にとっての救いがあるとすれば、部活動か。
千色が所属する部の部員はほとんどが女子だが、趣味の合う部員も多くいるし、千色はそもそも、女子とでも
「森野
水川は他のことを考えている千色の脳内を
――この世界の生物は、全て魔力――つまり魔法の源となる力を有し、その力を、厳しい世界で生き残るための
それ
一年C組の担任、森野熊雄は高校教師であると同時に生物学者でもあり、このような生物に関する事件が起こった際には、調査のために呼び出されることがある――。
「突然変異
水川は細い目で千色を睨んだまま、説明を続ける。
「橋の側面に
水川は必要事項を淡々と述べると、名簿を開いて出席番号順に生徒の名前を呼び始める。
「
「はい」
「
「はい」
「
「はい」
「
・
・
・
「七変千色君」
「はーい」
「
「はい」
・
・
・
「不破乙盗君」
「はぁい」
「マシュマロを片付けなさい」
「今はお餅だよぉ」
「餅を片付けなさい」
「マシュマロになったよぉ」
「ホームルーム中に食べ物を出してはいけません」
「はぁい」
「
「……あっ、はい」
「
「はい」
・
・
・
「
「はーい」
「無裏龍郎君。……無裏君?」
出席番号三十番の龍郎が呼ばれる時間になっても、彼は姿を現さない。
「遅刻、欠席の連絡はまだ無いんですが……」
水川はペンの尻を
あの龍郎のことだから、自動車事故で死んだ、などということは無いだろうが――。
話半分に聞いていた変異型大型多頭生物のことが、千色の頭に嫌な冷たさを持って
「むぐんむごぃえん」
ドアが開くのと同時に聞こえた謎の音声に、千色は思わず立ち上がって叫んだ。
「襲われてる⁉」
教室の後ろのドアから入ってきた、この学校の男子生徒と思われる人物の顔は、包帯でぐるぐる巻きだった。
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