【1000PV突破!】無表情でデレデレな後輩は俺への『好き』を隠さない

転校生

第1話『俺の後輩は遠慮しない』

 俺─陽垣ひがき 仁也じんやは、これまで退屈な大学生活を送っていた。

 初めは新鮮だった大学生活も、入学してから1年も経過すれば平凡に感じてくる。

 このまま卒業まで平凡に過ごしていく…そう思っていた。


 アイツに出会うまでは。


「おはようございます、陽垣先輩」


 最寄駅の改札前で俺を待っていたのは、綺麗な銀髪を肩ほどまで伸ばしたラフな服装の少女─甘崎かんざき 狼華ろうかだ。

 コイツは一つ年下の後輩にして、俺の日常を変えた張本人だ。


「…わざわざ待ってたのか」

「はい。先輩と1秒でも長く一緒に居たかったので」

「いちいち恥ずいこと言うな!」

「でも私、良く勘違いされますので。ちゃんと言わないと誤解されてしまいます」


 甘崎は表情の変化がほとんど無い。

 こうして話している今でさえ、顔はずっと真顔のまま。本人はそれをかなり気にしているらしく、クールな見た目とは真逆に結構おしゃべりだ。


「なので本音はちゃんと伝えます。大好きです先輩」

「そー言うことを簡単に言うんじゃないよ!」


 …なのでこのように恥ずかしいセリフを惜しげもなく言う時がある。

 俺が甘崎と出会ったのは数週間前の雨の日。傘を忘れて呆然としていた彼女に、気紛れで傘を譲ったことがきっかけだった。


「今でも先輩には感謝してます。あの時の先輩…すっごく優しかったです」

「そんな細かいこと気にする必要ねーっての」

「そうはいきません。あの時から私は先輩にゾッコンLOVEなんですから。もう今から大学サボって市役所行きません?しちゃいましょうよ婚姻手続き」

「だから色々急すぎなんだよお前は!」

「あぅ」


 思わず甘崎の頭にチョップを叩き込んでしまった。

 出会った当初は甘崎からの熱烈なLOVEコールにドキドキさせられたのだが、それも慣れてしまえばどうと言うことはない。


「おら、バカなこと言ってねぇでさっさと行くぞ」

「式場にですか?」

「大学にだわ!」


 妄言を垂れ流す甘崎を連れて、俺は大学方面へと歩き出した。

 歩き出したのだが…


「………おい」

「どうかしましたか?」

「なにナチュラルに人の手握ってんだコラ」

「そこの手があったので、握らない方が失礼かと」

「お前の中の失礼判定どうなってんの?」


 甘崎は何の遠慮もなく俺の手を握ってきた。

 しかも指摘したのに話すそぶりは愚か、悪びれる様子もない。ちょっと小首を傾げては『何が問題なんですか?』とでも言いたげな視線を向けてきている。


「あ、そういうことですか。ちゃんと言ってくれればいいのに…先輩もイジワルですね」

「俺はさっきからずっと……ちょっと待て何してやがる」

「先輩は普通に手を繋ぐのが嫌だったんですよね」


 甘崎は一度手を離したかと思うと、今度はさらに指を濃密に絡ませてきた。

 所謂『恋人繋ぎ』と言うやつだ。


「どう言う思考回路してたらコレを正解だと思うわけ!?」

「『ナチュラルに握るな』と言われたので、自然にじゃなくて意識して繋いでみました」

「じゃあ俺が悪いか…ってなるわけねぇだろ!」

「あぅ」


 強引に指を離し、甘崎から手を奪還する。

 指が離れた途端、甘崎はじっと俺の顔を見てきた。表情は変わらないのに、まるで捨てられた子犬のような雰囲気を醸し出している。


「な、なんだよ…」

「どうしても…ダメですか…?」

「うっ…あーもう分かったよ!繋げばいいだろ!ただし普通にだからな!」


 視線から感じる罪悪感に耐え切れず、俺は手を繋ぐことを了承してしまった。

 甘崎は待ってましたと言わんばかりに手を絡めてくると、さっきより肩を近付けてきた。


「やりました。ぶい」

「もう好きにしてくれ…」

「え、好きにしていいんですか?じゃあこのまま私の家に…」

「調子に乗るな!」

「あぅ」


 再び甘崎の額にチョップを叩き込んで黙らせる。

 結局、ここから駅から大学に到着するまでの間、甘崎が手を離すことは無かった。

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