第44話 使徒は竜族を支配する
ルーネの実家に転移して、家の割れた窓から監視の目が無いか外を確認すると、まだ監視の魔力は残っていたのだが特にそれ以上の反応が見られない。どこから監視しているか調べるには実際にその魔力に触れる必要がある。
魔力を調べる場合、不用意に触れることはできない。触れる部分は魔力的に防御できないからだ。また、監視している術者には触れられたことがすぐにわかってしまう。触れた瞬間に攻撃を叩き込まれる可能性を考慮する必要がある。
「魔力に触れずに調べる方法があるといいのですが…」
「こちらから敵陣に向かう必要もあるまい。罠を仕掛けて誘い出すのが良かろう。」
里の付近に山岳地帯がある。その地下深くに大きな空洞を作った。多少強力な魔法を行使し、あるいは行使されても地上に影響しないよう準備した。周囲には土塁も複数きっちり固めて用意している。
結界は、魔獣や魔族が入ったら出られない結界にした。街に張ってある結界の逆の特性である。そして魔力を吸収して強化する機能も付加した。これを15層構造で準備し全員で魔力を共有する。
空洞の中は薄暗い。結界のかすかな光があるから周囲が見えてはいるが、結界が見えない者に対しては真っ暗闇になるだろう。
残る脅威は強力な物理攻撃を繰り出してきた場合だ。
「みなも良いか?一人ずつ
「「はい!」」
「次に、監視しているのは敵だけとは限らん。生き残った住民も様子をうかがっている可能性がある。最初の一人目をわしが鑑定する。敵じゃと判断したら二人目以降はすべて殺す。」
「「はい!」」
「最後に、見た目で判断するな。住民の格好をした敵、敵の格好をした住民、どちらもありうる。敵は魔獣を使役できる。人の形が来るとは限らん。」
「「はい!」」
地上の結界を拡大していくと一つ目に触れた。
「一つ目に触れました!」
いったん結界の拡大を止める。周囲に緊張が走った。固唾を飲んで
自分以外もわかりやすいように、木の枝を切り落としてきて指し示す。
「ここにあります。」
木の枝が魔力に触れたその時!木の枝がバラバラに弾けた。爆発したようだ。ここまで音は届かない。
「なるほど。監視ではなく置き土産か。道理で遺体が無くなっても反応が無いわけじゃ。しかも魔力で触れても反応せず魔力以外が触れると爆発する。術者を調べようと手で触れると吹き飛ぶわけじゃな。胸の高さにあるところを見ると、気づかずに触れて殺す可能性も意図しておるじゃろう。」
「面白いですね。結界に触れたら爆発するような応用はできないでしょうか。」
「アリシアも恐ろしいことを考えるのぅ。爆発させずとも結界の針が飛び出してくるだけでも脅威になりそうじゃな。」
「なるほどー。次の機会に試してみます。」
結界を広げて行き、もう一つ見つけた。
「人の高さで留まっているものはおそらく爆発するじゃろう。監視しておるならもっと高い位置にあるか、浮遊しておるのではないか?」
「そうかもしれません。」
木の枝でツンツンしてみると、案の定、爆発した。
「神殿長。火竜が飛来しました。」
わたしが出した
「里を確認しているようですね。」
「火竜にこんな呪法があるとは初耳じゃ。」
「わたしが倒した火竜はこんな呪法を使ってきませんでした。使い魔ではないですか?」
「アリシア、使い魔の契約を解除できるか?」
「わかりませんが
「よかろう。」
火竜が地面に降りた瞬間を狙って、頭部に光と魔力を遮断する結界を取り付けた。混乱している間に
「
「
「
「
「はい?」
「その魔法は人に使うことを禁ずる。」
「…はい。」
火竜はおびえているが目がくらんで良く見えないようだ。あ、目が合った。
「ひいいいいいいぃぃぃ!!!!!」
ズザザザと壁まで後ずさりし、ジョバー。せっかく整えた決戦の舞台を火竜の尿が濡らした。浄化して綺麗にしてあげる。
「すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!」
「あぁ、あの時の。また会いましたね。」
「なんじゃ?知り合いか?」
「竜王の息子ラース君です。」
「アリシア様には決して逆らいませんので命だけはご勘弁を!!」
ズシン。竜の全力の土下座で地下の空間が揺れた。
「ラース、この里には誰の命令で何をしに来たのですか?」
「呪王の命令で、この里に来た者を攫って来いと言われましたですハイ。」
「呪王とは?」
「魔族の王です。魔王様を陥れた犯人を捜すと言っていたですハイ。」
「そういえば今代の魔王が倒されたんじゃったな。」
「魔王を倒したのが本当なら今頃パレードでもやってると思うんですが。」
「わしのときも何もなかったぞ。」
「80年前の魔王を倒した功績を各国で奪い合ってましたよね。いまだに誰が倒したのか未確定という。」
「あの時は魔王とわしの二人しか残っておらんかったからな。その後、魔王から出てきた魔石を砕けば誰でも討伐が記録されたからのぅ。あとから言っても誰も信じてはもらえなんだ。」
「え?本当に倒したの?」
「わしがでたらめを言ったと思っておったのか?」
「老人の与太話かと…、はっ!おじいちゃん!すごい!最高!素敵!尊敬です!」
「ふふん。そうじゃろう、そうじゃろう。」
ふう。この老人はちょろいぜ。
「ラースは呪王の配下なのですか?」
「≪支配≫の呪法で強制的に従わされていただけで、配下ではないですハイ。」
「本来は誰の配下なのですか?」
「アリシア様ですハイ。アリシア様こそが竜族の頂点である竜王を降し、今代の魔王様を倒した次代の魔王様ですハイ。是非、竜王宣下を賜りたく存じますですハイ。」
「…」
「アリシア。いったい何と戦ったんじゃ?」
「魔族では農夫のアラン、あとは古代竜の魔石採りを少々。竜王と名乗る態度の悪い火竜も倒しました。」
「アランは魔王様直属の配下で、鎧として魔王様が憑いておられたと思いますですハイ。」
「ゴブリンもどきが今代の魔王だったのね。」
わたしの方はあのあと古代竜を採集してたから
「そ、そうですか。ところでラースは≪支配≫の呪法を防ぐ手段はありますか?」
「新しい魔王様より竜王宣下を賜れば、他の者から≪支配≫されることはございませんですハイ。」
「竜王宣下は具体的にどうすれば良いのですか?」
「私の頭に魔力を流しながら “竜王として任命する” とおっしゃって頂ければ完了ですハイ。」
まあ、そんな簡単なことなら。飛翔してラースの頭に飛び乗り、魔力を流す。せっかくだからたくさん流そう。二度と≪支配≫の呪法を受けないように。
「ラース、貴方を竜王として任命する。」
「この身、身命を賭して御身に捧げまする。」
火竜だったラースの鱗が頭からしっぽへ、褐色から銀色へ変わってゆき、流した魔力が共鳴して力強さが増してきた。だんだん大きくなってきたのでいったん地下空間の結界を解いてもらい、転移で外に出した。
「ラース。父親より力強くなりましたね。今なら古代竜すら支配できますよ。」
「アリシア陛下の御威光の賜物です。」
ラースにはいったん巣に帰ってもらい、用があるときは呪法の≪念話≫で呼び出すことになった。≪念話≫は
◇
再度、決戦の舞台に戻って来た。
継続して里の中央から結界を広げて行きつつ魔力爆弾を慎重に処理するのだが、数が多すぎてきりがない。面倒になったので魔力を吸収する方向へ舵を切った。結界を広げながら魔力爆弾や監視の目を吸収していく。おそらく遠隔から監視できなくなったら不審に思って見に来るはずだ。
「アリシア、敵が来る前に確認しておきたいことがあるんじゃが。」
「私もそう思っていました。
竜王宣下を行ったから、何か妙なことになっていないか確認しておく。一番目の称号 “使徒” はそのまま、二番目が増えていた。
“称号:魔王見習い”
“竜王を配下に加えたゆえ、この称号を授ける。呪王、海王、冥王を配下に加えるべし。”
おお神よ、なぜ “見習い” なのか。もっとましな表現にしてほしい。二番目だから良いけどさぁ。
「なんと。 “呪王、海王、冥王を配下に加えるべし。” か。敵の本拠地に向かう必要がありそうじゃ。」
「この神命を放置したら不利益はありますか?」
「他の魔王見習いが現れたら屠られるじゃろうな。」
「他の三人に宣下を与えれは良いんでしょうか。ルーネ、呪王にならない?」
「むりです。」
「火竜のラースが古代竜に進化したみたいになれるかもしれないよ?」
「少なくとも当代の呪王を倒さんと、どうにもならんじゃろうな。」
王の所在はラースに聞くとして、倒したあと後継者を用意しないといけないんだよね。
「ルーネを呪王にするなら、ルーネより強い魔族を皆殺しにしないといけないのか、面倒ですね。かと言ってルーネ以外魔族に知り合いはいませんし…」
「里の生き残りを探して任せる方が現実的じゃな。あるいは今代の呪王と交渉できればいいんじゃが。」
「そう言えば、ラースも人を攫うのは今回が初めてじゃないですよね。生き残りがいないか聞いてみます。」
『ラース、聞こえる。』
『アリシア様、早速呪王を倒しに行かれるので?』
『あ、うん。結果的にそうなるかもしれないけど、ラース、今までも人を攫ったことはある?』
『里から5人ほど攫いました。』
容姿を≪念話≫で伝えてもらう。
【お父さんと村長さんがいます!】
ちょっと呪王とオハナシが必要ですね。
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