雲縫い
まゆはき
0 クモに、見つかる。
古い、古い言い伝えだった。アイツの家系だけじゃない、この街の老人は、皆知っていた、言い伝え。
アイツの家系に女が産まれたら、それは災いのおこる予兆だ。その災いをおさめたいのなら、その家系は、産まれた女を連れて行かなければいけない。
どこに?どこか。どこかだ。現世じゃないどこか。
それは誰だって知らないが、だが、連れて行ってくれるモノならいる。だから、心配なんていらない、と。
「雨!!」
叫んだ声が、風音と何かがうごめく音にかき消されていく。伸ばした手は宙を切り、幼い僕は力なく石段の上で転んだ。
震える腕なんか動かなくて、顔だけを上げる。すれば、嵐に覆われた夜空と、見慣れた赤い鳥居と、その下に佇む幼なじみの姿が見えた。
そして、その幼なじみを今にも連れ去ろうと手を伸ばす、大きな影。
大きな、大きな、蜘蛛の影。
「っ、雨、行くな!!」
喉が切れるかと思った。動きたいのに動けなくて、ただ叫ぶしかできないのがもどかしくて仕方がない。
僕の必死の抵抗もむなしく、幼なじみは、短い髪を揺らしながら微笑んだ。
「……ごめんな。」
ざあ、と。
雨の強く降り始める音がした。
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