レクイエム [下]

「これはだめかもわからんね」




俺は、その言葉を聞き、あっけにとられていた。

先程までの機長のホッとした顔つきが、とある者の声によって絶望の色へ変わった。

『現在、機体の安全確認のため、自衛隊員である私達が同行しております。そして、確認したところ、横田基地に着陸することは困難だと思われます。垂直尾翼がありません。』

「ですが、乗客乗員の命がかかっているんです!このままでお願いします…どうか…」

『難しいかと…』

「このままでは非常着陸ができません!私達の腕であれば、行けるはずです。機長となら!」

俺は声がするものに強く反発した。が…

『…不可能かと』

俺はその忠告を無視してでも着陸をしようと試みようとする。

そして、ハンドルの向きを変えようとする。

だが、ハンドルを触る直前に、手が伸びてきた。機長だった。


「大丈夫…私の元同僚と後輩だ…彼らの言う通り、垂直尾翼がなければ着陸することは難しい。別の方法を考える。」

「それをして乗客が亡くなってしまえば…とてもじゃないですが私は死んだとしても死にきれません。」

「他の不時着場所はいくらでも見つかる。このまま横田基地に行って危険な不時着をするよりも安全で全員が助かる不時着のほうがいいはずだ。」

その機長の話をきき、俺は少し冷静になった。

もしも危険な不時着をしてしまい、ほぼ乗客が残らない自体になってしまえばそれこそ自分の責任は重くなる。

俺は、ちょっとばかしパニックに陥っていたようだ…

「機長。わかりました。他の場所を探しましょう。」

「ああ」

そして、横田基地が目の前にあるが、それを横切り、山岳地帯へと行く。


横田基地から離れてきた頃に、田んぼが見えてくる。

機体はその田んぼへと進んでいく。

「田んぼですか?」

「ああ、ここに不時着できれば…」

だが、その田んぼはほどんど人がいて、不時着すれば誰かが犠牲になるような環境だった。

乗客が救えるならいいのか…そんな思考に一瞬陥った。

だが。

「だめだ、ここらへんには民家があったり人がいたりと条件に合わない。山岳地帯に入ろう。」

「山岳地帯…まさか山の中で不時着をするんですか…」

「大丈夫だ。この機体は分厚い。生半可な木では被害は出ない。でも、そこまで分厚いところにいないわたしたちはわからないがね…」

私は謎の笑みが出る。

「乗客が助かるのならば、私の命などあったものじゃない。いくらでもくれてやる。」

今までずっと航空機で生きてきたんだ。最後は航空機でもいいかもしれないな…

「機長…わかりました…私も同行させていただきます。」

「あとは滑空して降りるだけだ。あなたは客室へ避難してもいいんだぞ。」

「いいえ、私はそんなことでこの職を全うしたくないんです。だから、いさせて下さい。」

「……わかった。そうさせよう…まあ、できる限り安全に………」

レーダーには一つの光。そして、その速度は私達が見たことがない速さで飛んできた。

まさか…こんなことが…


   ボンッ


「機長!!!」

「おおおっ!!!」

機体が急激に降下していく。まるで翼を奪われた鳥のように角度を変えて落ちていく。


…そうか…

私はここでようやく気づいたのだ。私達を生かそうとしていたものは……


   誰ひとりいなかったことに…


地面に叩きつけられる瞬間…私は時間が止まったようになった。

だが……何一つ身体は動かなかった。


   私にできることが…何一つも残されていなかったのだ。

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