第57話 新たな追放劇

アベル達と別れて、ビートは自身の所属する血盟クランに戻る。


「団長さんよ。また役立たずの所に行ってたのか?」


血盟クランハウスに帰るなり。


廊下で擦れ違ったディストに言われる。


「そうだ。」


「あんた、血盟クランの団長なんだぜ。


あんな役立たずの所に毎回出張って、他の者に示しがつかなくなるだろうが。」


「正式な依頼だ。報酬も貰ってる。何か問題でもあるのか?」


「大在りなんだよ。」


そう言って、1枚の紙を手渡してくる。


「成る程な。なにやらコソコソやっているかと思ったら。


判った。今日中に出ていく。後は好きにすれば良い。」


ビートが受け取った用紙には。【血盟主交代要請届け】と書かれて。


ベルン、シャノン、ヒルト。以外の、全血盟クランメンバーの名前が載っていた。


「随分あっさりと引き下がるんだな。」


「なに、俺に見る目が無かったと言う事だけだ。


お前こそ、足元を掬われないようにしておけよ。」


「ご忠告痛み入ります。」


そう言って、嫌らしい笑みを浮かべて離れていくディスト。


「人を呪わば穴2つ。か。」


自分の部屋に向かい、荷物をまとめ始めるビート。



 * * * *



午後の8時に為ろうという時間帯。


街灯など無く、夜道は既に闇の帳が降りている。


そんな時間に、玄関の戸を叩く音が。


「アベル!ビートだ!」


「ビート?こんな時間に?」


何の用だと思いながら、アベルがドアを開けると。


背中にバックを担いだビートの姿が。


「悪い。2~3日、泊めてくれ。」


「うん?まあ、中に入って話を。」


「すまん。」



 * * * *



「……と言った訳だ。」


血盟クランを追い出された理由を説明するビート。


「ねえ。私は他所の大陸出身だから良く分からないけど。

 血盟クラン主の交代って、そんなに簡単にできるものなの?」


エリスが聞くと。


「普通は出来ないな。

 血盟クラン主が死亡したり。何かの理由で、血盟クランから身を引くとき以外は、そう簡単に血盟クラン主の交代は認められない。」


「なら、何でビートは?」


「何事にも例外ってのは在ってな。


 今回の場合、血盟クランメンバーの8割以上の血盟クラン主の管理能力を問われた書類が大陸商業組合プラント側に提出され。


 その書類を吟味した上で、血盟クランメンバーの7割以上が署名をすれば。血盟クラン主の交代が認められる。


今回は、実に9割以上の血盟クランメンバーの署名があった。


嘆かわしいが、俺には人を見る目が無かったらしい。」


「ビートは良いの?そんなに簡単に引き下がって。」


「良い訳はない。だがな。 俺も同じなんだ。」


「同じって何が?」


血盟クランメンバーの甘言に乗せられて、アベルを追放した。


その報いが、今度は自分に返ってきただけだ。」


いさぎよいのは美徳だが。お主は納得できているのか?」


それまで黙って聞いていたディハルトが言う。


「まあ、不満が無いと言えば嘘になるな。


ただ、俺としては、これで良かったと思えているのも事実だ。


これで、お前と肩を並べて行動が出来る。アベル。」


そう言って、アベルを見るビート。


「俺と?」


「そうだ。どのみち、このままでは、身内に爆弾を抱えたままだと、お前との行動に支障をきたす。


血盟クランとしては、依頼で無いと動く事が出来ないが。


フリーと為った今なら、俺は俺の好きなように行動できる。


血盟クランを抜けたからと言って。


大陸商業組合プラントライセンスの等級まで落ちる訳でも無いからな。」


「ふっ。男気の或る奴は嫌いではないぞ。」


「魔王様に言われるとムズ痒くなる。」


「ふん。ディハルトと呼べ。」


「そんじゃ、遠慮なく。ディハルト。宜しくな。」


「うむ。こちらこそな。信頼できる仲間が増えるのは喜ばしい事だ。」


握手を交わすビートとディハルト。

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