第50話 フィーノ死す
「おっと。昔話に花を咲かせている場合じゃなかったね。
お前さんたちに逢い来たのは、アタシの錬金術式を見せる為さ。」
「フィーノさんの錬金術式?」
「そうさね。ヘルミーナの弟子はエリスだったね。
なら錬金術式は陣式だろうて。違うかね?」
「その通りです。」
「ルナと言ったね。アンタのは?」
「私は釜を使っての錬金が
私は勝手に釜式って呼んじゃってますけど。
一応、エリスの陣式での錬金も可能です。」
「ほう。陣式も使えるのかい?エリスは釜式を使う事は?」
「私も、釜での錬金は出来ます。」
「錬金の出来の差異は有るのかい?」
「「殆んどありません。」」
「なら話は早い。 アタシの錬金術式を見ておきな。
恐らく、錬金術式の最終術式だとアタシは思ってる。」
「最終術式ですか?」
ルナが訊ねる。
「そうさね。 固定化所での釜式。 携帯可能な陣式。
どちらも、錬金術式としては完成されているけど。未完成とも言える。
何故なら、両方の術式には媒体が必要だから。」
「釜と言う媒体と、陣と言う媒体ですね。」
エリスが言う。
「そうさね。何故媒体が必要なのか。
イメージを固定させやすくする為さね。
アタシャ、それを克服するのに20年も掛けてしまった。
本当なら、ヘルミーナに教えてあげたかったんだけどね。
見つからないから、代わりにアンタら2人にね。
老い先短い、老人のからの
今から、アタシの術式を見せる。
アンタらのヒントに為れば良い。
2人の才なら、数年で会得出来るだろうさね。
上級錬金術式。アタシは【虚空式】と呼んでるよ。」
そう言って、両手を広げて、何もない空間に魔力を流し始める。
すると、空間に魔力が可視化して陣を形成する。
次の瞬間には、陣が圧縮されて、両手の間に黒い球が形成される。
フィーノは、その黒い球の中に素材を放り込んでいく。
コラッド鉱石。研磨剤。中和剤虹。ミスリルのインゴット。
そして球体を両手で包むように、回す、回す、回す、回す。
約3分。ひたすらに回し続けた。
黒い球体は薄く光を放つと、球体の替わりに、青い色のインゴットが。
【青光石のインゴット】品質:上級
「どうだい。」
少しドヤった表情で、フィーノが言う。
「凄い!釜も陣も要らない錬金術式!」
ルナが興奮して言う。
「確かに!これなら、いつでも!どこでも!錬金が出来るっ!」
エリスも興奮が最高潮。
「後は2人で……。」精進しなさい。と言いかけて言葉が止まる。
既に、ルナとエリス。2人揃って、虚空術式に挑戦している。
魔力を何もない空間に放出する。
ここ迄は上手く行く。が、陣に形成するのが難しい。
「アンタら。どれだけ貪欲なんだい。」
呆れ気味に言うフィーノ。
「アタシャ、20年かかったんだよ。
そんな、ポっと……。」
3回目の挑戦で、陣の形成に成功。
「まてまてまてまて!どんな
フィーノが陣の形成に成功したのは、虚空への魔力展開の構想に3年。魔力の展開に3年。展開から陣の構成に5年かかった。合計11年だ。
そこから、球体にまで持っていくのに、9年近い年月をかけた。
さらに試す事10数回。
ルナもエリスも成功しない。
「そこまで出来るなら上出来さね。
むしろ、凄すぎだよアンタら2人とも。」
フィーノの言葉が聞こえているのか。
いや、ルナとエリスには届いていない。
2人で何やら話し合っている。
「……だから、アタシがこっちを持って、エリスがそっち側を……。」
「成る程……。アタシがこっちを持てば、ルナがそっちも?」
「そそ。この2つをアタシが持って。残りの3つをエリスが……。」
「無理。無理。2つが限度だよ……。」
「……は2人で半分づつなら?……。」
「たぶん行ける?」
「やってみよう!」
「うん!」
中空に向かい、ルナが魔力を放出する。
エリスがルナの魔力に無理やり干渉して陣を形成する。
そこに2人掛かりで、球体へと持って行く。
もはや、技術ではなく力技だ。
2人の魔力を掛け合わせて、調整しながら球体へ持って行く。
球体の形を保てたら、最後に小さくなるように押し込む!
「「できたあぁ!!」」
「フィーノさん!できまし……。」たと言いかけて言葉が止まる。
ルナとエリスがフィーノに視線を向けると。
フィーノが倒れていた。
慌てて術式を解除して、フィーノの側に駆け寄り、呼吸を確認するも息をしていない。
胸に耳を当てて心音を確認しても、心臓が動いている気配が無い。
「心肺蘇生法を施すから! ルナは生命の水と、高級ポーションを作って!」
「分かったっ!」
エリスが、緊急時の心肺蘇生法を必死に施す。
ルナが、大急ぎで生命の水と、高級ポーションの作成に入る。
と、理由の全てはこうだった。
自分が20年かけて辿り着いた術式を、2人掛かりとは言え、僅か数十分で完成させられたら。
そりゃ、驚きすぎて、ショック死くらい起こしても不思議はなかろう。
或る意味、ルナとエリスの被害者だとも言える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます