第32話 レイジからの依頼を受けました

「お早う御座います。」


レイジの屋敷の門番に挨拶を交わす。


「お早う。今日もコキ使われに行くのか?」


「です。もうちょっと、仕事内容を減らしてほしいですよ。」


「ははは。そう言ってくれるな。


御館様が、初めて専属を雇ったんだ。


嬉しくて仕方が無いんだろう。」


「嬉しくて、コキ使うってどうなんですかね?


過労死しちゃいますよ。」


門番と軽口を交わしながら、門をくぐって屋敷に入っていく。


擦れ違う、メイドさんや、兵士たちに挨拶をしながら執務室に向かう。


執務室のドアの前に立ち、ノックを3回。


「入れ。」


中から声が返ってきたので、ドアを開けて中に入る。


「失礼します。」


「おう。」


机の上には山になった書類が両サイドに。


「相変わらず凄い量ですね。」


書類の山を見ながらアベルが言う。


レイジに囲われる体裁を取ってから、はや1ヶ月。


もはや、見慣れた光景になってしまっている。


「そう思うなら手伝ってくれ。」


「無理言わないでくださいよ。


俺に領地経営の知識なんて無いんですから。」


「くそ。せめて、陳情やら苦情の処理の出来る文官が欲しい。


誰か紹介しろ。」


「知ってたら、とっくに紹介してますって。」


そう言って、マジックポーチから、小瓶を8本取り出して。


書類の脇に置く。


「これは?」


チラリと小瓶に目をやりながら、再び書類を処理しだす。


「疲労回復薬と、栄養剤です。


ルナと、エリスからの差し入れです。」


「本当に、出来た嫁だな。羨ましいよ。」


「それと、俺からはコレ。」


そう言って、弁当箱を出す。


「片手で食べやすいようにしてるので。


食事しながらでも書類処理できます。


味噌汁も付けてます。


保温機能も付いてるので。6時間くらいは暖かいままですよ。」


「もう、お前。俺の専属コックになってくれや。」


「ルナとエリスの素材集めがあるので無理です。」


「あ~。うん……。嫁で思い出した……。」


「何か?」


「娘と息子が居るのは知ってるな?」


「ええ。セツナ様が14歳で。タイガ様が12歳でしたね。


奥様は……。」


「ユキナだ。東方大陸出身だ。


子供たちは、ユキナの特徴を濃く受け継いだので黒目黒髪だ。」


「ご説明感謝します。」


「はぁ……。まあ良い。 で、お前に依頼だ。」


「何がどうなって、どうやったら、俺への依頼になるのかが分かりませんが。」


「ユキナと子供たちを、別荘まで連れて行ってやってくれ。


そのまま、7日ほど。ユキナ達の護衛も兼ねてな。」


「兵士たちに同行させれば?」


「4日後に、かなり面倒くさい奴が来るんでな。


ユキナ達はもちろん。お前たちも、出来るなら会わせたくない。」


「なるほど……。」


「受ける気が無いなら。依頼から命令に切り替えるぞ。」


どうやら、よほど会わせたくはないらしい。


「受けます。 ただ、剣美のメンバーも誘っても?」


「人選は任せる。」


「出発は?」


「早い方が良い。出来るなら、今日中にと、言いたいところだが。」


(どれだけ会わせたくないんだ。)


と心中で思うアベル。 逆に興味が出てしまいそうになる。


「分かりました。今日中に、準備と手配を済ませておきます。」


「頼む。」



 * * * *


翌日の昼前。


ルナとセリア。


それと、剣美のアンネ。カナン。シャリアとシャノンを引き連れて屋敷の前に行くと。


門の前には、少しだけ立派な馬車が既に待機していた。


「馬は、こちらで用意する。トマス。」


「畏まりました。」


一礼して、家令のトマスさんが馬を取りに行く。


「なんで、辺境伯家の馬車じゃないんですか?」


アベルが疑問を言うと。


「公の場に出向くならともかく。あんな派手な馬車で街道を行ってみろ。


襲ってくれと言ってるようなもんだろうが。」


「確かに。」


「兵士たちを引き連れて行くから、自領の家紋付きで向かうんだ。


襲われないようにな。


今回は、お忍びに近いからな。これでも目立ってしまわないか心配だ。」


「今回は、お世話に為ります。」


門の中から、派手過ぎない身なりで、挨拶をしてきたのは辺境伯夫人のユキナ。


「ユキナ様、ご機嫌麗しく。」


ユキナに頭を下げるアベル。


「妻のルナと申します。」


アベルに習い、ルナも頭を下げる。


「アベルと、ルナの所で世話に為っています。エリスです。


此度は、アベルとルナの付き添いと言う形で同行させていただきます。


宜しくお願いします。」


「あら。東方大陸の?」


「はい。生まれは西方大陸のルセニアですが。


母方が、東方大陸のヤクモの出身です。」


「まあ!そうなんですか!」


「ユキナ。同郷が居て、嬉しいのは分かるが。挨拶が先だ。」


「あら。失礼。 セツナ。タイガ。」


「初めまして。娘のセツナです。今回は、宜しくお願いします。」


「タイガです。」


「御館様。」


そこに、トマスが戻ってくる。


世話係と一緒に、5頭の馬を引き連れて。

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