我儘馬鹿王女と天才イケメン貴族のやり直しストーリー ~死に戻りしているのは私だけじゃないんですか!?~

北川やしろ

第1話 プロローグ:終わりのはじまり その1

 およそ1000年続いたべラス王国は終焉のときを迎えようとしていた。


 「嫌!助けて!」

 私は必死に助けを求めた。


 「やれ!」

 しかしその願いも虚しく、男の号令により私の首と胴体は二つに分かれることになった。


 王国を長く治めていたベラス一族最後の一人として残っていた私の死はべラス王国の終焉を意味していた。

 今から新たな指導者による新たな国が始まるのだ。


 あぁ……、どうしてこうなってしまったのだろう……。

 歓喜の声を上げる国民達と、その歓声に手を挙げ応える一人の若い男の背中。


 それが私が見た最後の景色だった。



 ◇◇◇



 「おはようございます」

 ぶっきらぼうな声が聞こえた。

 驚いて目を覚ますとそこには不機嫌そうな顔をした見慣れたメイドがいた。


 「えっ!?私、死んで……!」

 慌てて首を押さえた。

 しかし離れたはずの私の首と胴体はくっついていた。


 「何をやってるんですか。早く起きてください」

 メイドは舌打ちをすると早く起きるよう私を急かした。

 

 何が起きているのだろう?

 確か私は処刑されたはず……。

 意味がわからなかった。



 ◇◇◇

 


 「誕生日おめでとう、ユリア。今日で16歳だね」

 身支度を終え朝食の席に着いた私に国王である父が言った。

 どうやら今日は私の16歳の誕生日の日らしい。


 「さぁ、ささやかなプレゼントだ」

 父がパチンと指を鳴らすと、大量の薔薇の花束を抱えた執事達がぞろぞろと一斉にやって来た。

 「どうだい?驚いただろう」

 父は満面の笑みをたたえ、娘へのサプライズを自画自賛しているようだった。


 「さぁ、今日はこの後パーティだ。王国中の貴族がお前の誕生日を盛大に祝福したいと言っているよ」

 「ユリアは本当にみんなに愛されているわね」

 両親は嬉しそうな笑顔で私を見つめていた。


 上機嫌な両親をよそに、私はただただ戸惑っていた。

 何故なら、このサプライズが行われることを私はすでに知っていたからだ。


 16歳の誕生日。

 確かにあの日父は大量の薔薇の花束を持って私の誕生日を祝ってくれた。

 それだけではない。

 今日ここまで起こっている出来事すべてに見覚えがあった。

 いや、正確には私は既にすべての出来後を一度経験していた。

 

 不思議なことはそれだけではない。

 私は16歳ではなく確か18歳だったはずだ。

 それなのに父は私を今日で16歳だと言った。

 本当に一体何が起きているのだろう? 

 わけがわからなかった。


 □□□


 私ことユリア・べラスはおよそ1000年続く伝統ある王国、『べラス王国』を治める王族の第3王女として生まれた。

 兄が2人に姉が2人。末っ子として生まれた私は両親のみならず兄弟からも可愛がられていた。

 序列5位。

 権力争いとは無縁、自由奔放、我儘放題、世間知らずのお姫様。

 私はそのように周囲から見られていた。


 毎日暇をもて余し、何不自由のない自堕落な日々を送る。

 しかしそんな私の当たり前の王族生活はある日突然終わりを告げることとなる。


 □□□


 あれは確か私が18歳のときだった。


 長年積もりに積もっていた国民の不満が爆発し、ついにクーデターが起きたのだ。

 王族と王族派の貴族は次々に捕らえられ、処刑されることになった。

 

 父と母は国民の前で拷問を受けた。

 激しい拷問を受け、生きているのか死んでいるのかもわからない状態のまま、ギロチンにかけられ首を刎ねられた。

 二人の兄も両親と同じく拷問を受けた後、ギロチンにかけられた。

 姉達は性玩具として長年禁欲状態に置かれた犯罪者達に弄ばれるという罰を受けた。

 上の姉はその野蛮な行為に耐えられず自害した。

 下の姉は自害することも許されず、男達のおもちゃにされ、最後は物言わぬただの肉の塊となりその姿を国民の前に晒された後、野犬の餌となった。

 そして一番最後まで残ったのが私だった。


 ◇◇◇


 思い返すと私は運がいいほうだったと思う。


 月が綺麗に見えた夜、無性に散歩がしたくなった。

 メイドの目を盗んで城を抜け出すと、一人敷地内にある森を歩いていた。


 「星が綺麗」

 一人夜空を見上げた。

 どれくらいたったのかはわからないが、星空に満足し帰ることにした。


 徐々に城が近づくとすぐに異変に気が付いた。

 大勢の人の叫び声。城のあちこちから炎と煙が上がっていた。


 急いで城に戻ると、両親と兄弟が拘束されていた。


 「申し訳ありません。普段から突拍子のない行動を取ることがあるのですが、まさかいなくなるとは思ってもいませんでした」

 メイドのアリエルが何やら私の見知らない人と話していた。


 「見つけ次第他の王族と同じように拘束しろ。絶対に逃がすな」

 チラリと見えた甲冑に入った紋章から、彼がフィードル領の人間であることがわかった。

 何故フィードル領の人間が両親を拘束しているのかはわからなかった。

 そんなときだった。

 「いたぞ!ユリア王子だ!」

 物陰から様子を伺っていた私の背後から叫び声が聞こえた。

 驚いて振り向くと、剣を構えた大勢の人がこちら目掛けて駆け寄って来るのが見えた。


 殺される。


 瞬時に理解し、その場から慌てて駆け出した。


 ◇◇◇


 あの日から私は追手を振り切るために3日3晩、飲まず食わずで森の中を彷徨い歩いた。

 疲労と空腹。そして命の危機。

 何が起こっているのかもわからず、ただ行く当てもなく逃げ回っていた。

 しかしそんな時間はまもなく終わろうとしていた。


 「もう限界…」

 意識が薄れ倒れこんだ。


 あぁ。私、こんなところで死ぬんだ……。

 どうせ死ぬならお腹一杯になって暖かい布団の上で死にたかった……。

 最後を覚悟した。

 そんな時だった。


 「もしもし、大丈夫ですか?」

 突然優しげな声が頭上から聞こえた。


 「助けてください」


 死にたくない。

 藁をも縋る気持ちで声の主に助けを求めた。


 「もう大丈夫ですよ。立てますか?」

 頭上から手が差し伸べられた。


 私は何も疑うことなく素直に安堵してその手を掴んだ。


 助かった。

 そう思った、のだがそれは間違いだった。


 「やっと捕まえましたよ、ユリア王女」


 「えっ!?」

 それまで優しげだった声色が急に冷たいものに変わった。

 私はこのとき初めて声の主の顔を見た。


 黒髪を後ろで一つに結び、端正な顔立ちに切れ長な目。

 長身にスラリと伸びた長い手足。

 うっすらと鍛え上げられた筋肉質な体。

 その顔に見覚えがあった。 


 「フィードル伯爵!?」

 その言葉を聞くと彼はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


 「さぁユリア王女。鬼ごっこはこれでお仕舞いです」

 握られた手を解く力はこの時の私にはもう残っていなかった。

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