第12話 旅探偵、見参。


 決意を胸に、私は個室から勢いよく走り出して二人の元に戻った。


「お待たせしました!」


 アルマさんは私の返事を促そうと、軽くうなづく。一呼吸おいて、


「先程のお話ですが、私でよければその役割を果たさせてもらいたいです」


 先程の弱々しい顔とは打って変わって、決意を秘めた眩しい目でりさは言う。


「その言葉が聞けてよかったよ」


「やっぱりな」


 アルマは胸を撫で下ろし、あきらは予想が的中したと悪戯っぽく微笑んだ。 

りさが承諾してくれるとほぼ確信していたが、本人の口から聞くまでは安心できなかった。


「決めたからには途中で投げ出すなよ」


「投げ出さないよ。私には夢があるからね」


 二人は目を合わせると、りさに尋ねた。


「私の野望は、探偵になること!世界に名を馳せる探偵になって、困ってる人たちを助けるの」


 今までとは違い、声高らかに宣言した彼女に場は一瞬静まり返ったが、


「なるほどな、悪くないと思う」


「君ならきっとなれるだろうね」


あきらは呆れたように笑い、アルマは見守るように微笑んだ。


 あきらは、りさのこういう突拍子もない目標を持っているところが、この人の原動力になっているのかもしれないと推論した。

 とはいえ、目標を宣言しただけで褒められるなど幼児でしかあり得ない。


「そう言うからには有言実行しろよ。これからは各国をまわることになるし、チャンスは色々と転がってるだろ」


「もちろん。ところで、私は探偵として世界に名を馳せたいんだけど、これから旅をするのに知名度はついてくるのかな」


「君がどんどん依頼をこなしていけば、そのうちついてくるよ」


「旅の目的は忘れるなよ」


 あきらとアルマに時々、釘を刺されつつりさはこれから自分のやるべきことを整理していく。今世では先生はいない。そばで茶化してくれる同僚もいない。私一人で、なんとしても夢を叶えるのだ。


「なんか忘れてない?俺も同行するんだけど」


「えっ、声に出てた?」


「出てたよ。それにしても探偵ね。名前を覚えてもらうなら、何かキャッチコピーみたいなものでも考えたら」


 そういうのは必要なのだろうか。時代劇で口上をしている役者を見たことあるが、なんだか恥ずかしい。


「簡単でいいんだよ。例えば……旅しながら探偵するから旅探偵とか。そのままかもしれないけど、悪くは無いでしょ」


……旅探偵。そばにいるけど、そばにいない、そんな背中を思わせるいい響きだと思う。


 とはいえ一番大事なのは実績を上げることだ。キャッチコピーは二の次でいいだろう。

 かくして、発展途上の探偵の卵が異世界にも誕生した。



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