あの歪んだ空間を生きてアッパレ
気づいたことがある。
一日の勤務時間を終え、家に帰る。確かに体は疲労しているのだが、不思議とさほど嫌な感じはしない。
朝もそうだ。もちろん、ああ面倒臭いなあと思ったりする。ただ死ぬほど嫌だとは思わない。泣きたくなるほど行きたくないとは思わない。むしろどこか余裕を持って行動できている。
高校までの私とは大違いだ、と思った。
小学生、いや幼稚園から始まっている私の『通う嫌い』は筋金入りのもので、特に高校では本当に限界に達していたと思う。朝、目覚めるのがとても辛い。バスに乗るのが死ぬほど嫌。一緒にバスに乗る人のことも嫌い。学校についても嫌いな人と、呪うほど嫌いな人の顔を見なければならない、というか同じ空間に存在していることすら受け入れたくないと思っていた。本来楽しいものであるはずの勉強の時間が苦でしょうがなかったのは、課題と先生が嫌いだったから。一分が一時間に感じるほど退屈な授業。一つの部屋に何十人もいること。やっとの思いで帰って、すぐに時間が過ぎ夜になり、明日よ来るなと呪いながら眠った。こんな生活を続け、風邪も引かなかったから皆勤賞だった。何も貰えなかったので休んだ方が良かった。
こうして疲れ切った私が生まれた。そんな私は無職へ突っ走ることになり、その期間は確かに私を癒した。
そんな私がだ。ちゃんと朝目覚めて、なんやかやと思いながらも崖に追い詰められるほどの精神状態には至っていない。
なぜだろうと考えた。
私の見解はこうである。
まず、朝だ。一日の開始時間が高校の頃より一時間以上遅い。これはとても大きい。私は決して高校時代まで夜更かしをしていたわけではないのだが、それでも学校に間に合うようにと起きる時間は合っていなかった。眠くて眠くてしょうがなかった。元々眠りも深いわけではないから、行きたくないという思いと相まって最悪の睡眠を繰り返していた。しかし今は学校で始業するくらいの時間に家を出る。これはとても楽だ。
そう思うと学校の始業の時間は早すぎるような気がする。九時前には授業が始まるのだ。社会人ですら九時から働くことが多いのに、生徒たちはそれよりも早い。しかも出席はそれよりも早い。比較的家が近い生徒が多い小中学校ならともかく、さまざまな場所から通い、公共交通機関も使う生徒が多い高校生がその時間に集まるというのはなかなかハードなことを強いられている。すごいことをしている。そして先生たちもである。学校とはイカれた場所だ。
次に交通手段。自転車。これのいいところは時刻表に囚われないことだ。自分の思った通りにことが進む。混雑した狭い空間にいなくていい。これは大きい。
私は朝のバスがまあ嫌いだった。私含め皆して虚な目をしてどこかを見て、同じ空間にいるのに全員が他人の顔をしている。こんなに密接に押し込まれているのに、決して理解し合うことはできない。乗り方や降り方など暗黙のルールが流れていて、それにどんどん侵されていく。気持ち悪い空間でしかなかった。
最後に。
見返りがあるということ。これに尽きる。私が高校時代によく思っていたことは、学生も授業を受けることで金銭が発生したらいいのに、である。まあ舐めた思想だとは思うが、それほどに私にとって授業とはきつい重労働だったのである。決まった席で嫌いな人の背中を見ながら、テストのための勉強をする。科目自体は嫌いではないのに、先生と内容が好きではない。クラスの話し声が気になる。面白くない。嫌い。五十分間の授業はただ座っていることを強制される時間で、きついったらありゃしない。だから私は見返りを求めた。金銭が発生すればいいのに。そしたらまだ受け入れられるのに、と。
こうして考えてみると私に合っている生活というものがわかる。まずは無職期。これは実に楽しかった。朝のんびりと起き、希望に満ち溢れた一日を計画する。何をしてもしなくてもいい。空は上にあり、下には土がある。これほど当たり前で美しいことはないのだと、世界を受け入れることができた。金が不足するということだけが辛いことだ。
次に非正規雇用の今。自分のやりたいことやいたい場所は制限されるが、今の職場ならば給金のためならそれくらいの犠牲は投げ打とうと思える。
最後に学生時代。勉強自体は嫌いではないけれど、学校という場所はまあ私に合っていなかった。おまけに親は休ませてくれなかったから毎日通うことになった。朝から学校を休んだのはインフルエンザに罹った時だけだ。とりあえず学校に行けは偉くもなんでもない。どうせ帰ってくる方が面倒だとは思わなかったのか。とにかく学校に通うということはハードだということを言いたい。少なからず、私はかなり追い詰められたし、そういう人がいることを知ってほしい。嫌いになる理由はたくさんあったのだ。
学生時代、私はよくやっていたなと思う。体調も崩さず(崩さなかったから追い詰められたのだが)、サボりもせずに勉学に励み、嫌いな人と毎日顔を合わせた。消えぬ傷をつけられながら気付かないふりをしながら前を見た。よくやった。心からそう言える。
そして今、そうした状況にいる学生たちに幸福があることを願う。一本前のバスに乗れたとか、嫌いな奴がテストで散々な点数を取って口数が減っていたとか、一番早く学校から出ることができたとかそういう密かな幸せが訪れますように。
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