人気配信者が異世界の魔王に転生したら勇者のせいで極貧生活を強いられたので、得意の配信を使って復讐しようと思います!!
月雲とすず
プロローグ 現実世界からログアウト
「わ〜、みんなダメだよぉ。お金は大切にしなくちゃ〜。」
薄暗い部屋の中、ばっちりと決めたメイクと萌え声でカメラの向こうのリスナー達にファンサを送る。
そのたびにパソコンの画面には大量の赤スパが飛び、配信の枠を赤色に染め上げる。
配信者の有坂レイミ(ありさかれいみ)、本名桃城まゆ(ももきまゆ)は、夜中12時頃の日付が代わるまでリスナー達に向けて誕生日配信をしていた。
誕生日配信だからか、リスナー達の財布の紐は緩みまくっているようだ。
レイミがなにかを喋ったり、くしゃみをひとつするたびに、嵐のようにスパチャが贈られてくる。
その合計額は、そろそろ1億を超えようとしていた。
「みんな沢山のスパチャありがとう、そろそろ配信が終わるけど、今日が人生で最高の誕生日だったよ〜!」
配信の最後に締めの言葉を口にすると、先程よりも増してスパチャの飛びが激しくなった。
(ただ喋るだけでスパチャが飛ぶなんて、こいつらみんなチョロいな。)
まゆはそう思いながら最後の挨拶をして、満面の笑みを見せながら配信の枠を閉じた。
これが日本有数の人気配信者、有坂レイミの姿だ。
深夜1時頃、まゆは誕生日配信のアーカイブを確認しながら一切れのショートケーキを食べていた。
ばっちり決めていたメイクを落とし、風呂上がりの下着姿のままで登録者の増量や、贈られたスパチャの合計額を計算する。
すると、先程の配信だけでスパチャの総額はなんと1億5千万円を余裕で超え、登録者も25万人以上増えていた。
それを見て、まゆは不気味な微笑みを浮かべる。
(やっぱり配信者って楽に稼げるな〜。ネットのおっさん達に媚びるだけで、自動的に金が貰えるんだもんな〜。)
そう思いながら、彼女はショートケーキのイチゴを豪快に頬張った。
有坂レイミの裏の顔、桃城まゆの本性はろくでもないものだった。
まゆが有坂レイミとしてインターネットで活動し始めたのは今から3年前、彼女が18歳の頃だ。
高校3年生だったまゆは、進路選択にとても行き詰まっていた。
成績はあまり良くなかったので進学は難しい、かといってすぐに社会人として就職はしたくないという考えを彼女は持っていたからだ。
働かずに好きなことだけやって生きていたい、それがまゆの本音だった。
そして怠け者の彼女は、進路を決めることを止めて、インターネットに入り浸るようになる。
いわゆる現実逃避だが、そこでまゆの人生を変える起点となるものに出会った。
それは、SNSや動画サイトで行われるインフルエンサー達による配信文化だった。
人気ゲーム実況者やVTuber、芸能人までもが自宅の自室で全世界に向けて生配信をしている、そしてゲーム実況や雑談、歌ってみたを生配信するだけで、毎回多額のスパチャが飛びまくるのだ。
その様子を見たまゆは、自分も配信で飯を食っていくことを決意したのだ。
もともと顔や声には自身があったからか、彼女は誰もが簡単に配信を始められるスマホアプリで、初めから顔出しをして配信を始める。
最初はあまり注目を浴びなかったが、どんどんと配信の回数を重ねるたびにアプリ内で人気を獲得するようになる。
そして活動拠点を大手の動画配信サイトに移すと、前よりも伸びが早く、『美少女配信者』という泊が付き、配信を始めて半年には登録者が100万人を超えるほどの大物配信者へと成り上がったのだ。
そして時が経った現在も、登録者を倍以上に伸ばし、企業との案件もこなし、多額で安定した収入を得ている。
いわゆる、勝ち組の人生を送っているのだ。
「これから先もずっと、ぐーたら生きたいなー。」
下着のままでベッドに寝っ転がってまゆは呟いた。
配信時には清楚な美少女キャラで売っているからか、普段の怠け具合に拍車がかかっているようである。
すると、彼女の中であるひとつの欲望が生まれる。
(なんか、酒飲みたくなってきたな。)
そう思ったまゆは、ベッドから起き上がり冷蔵庫のそばへと足を運んだ。
だが、普段はあまり飲酒をしないために冷蔵庫の中にはアルコールと呼ばれる飲料は入っていなかった。
「仕方ないけど、コンビニ行くか。」
深夜に若い女性一人だけで外出するのは危険である。
それとともに、まゆは有名な配信者であるが故に最近は後をつけられる、ポストに直筆の手紙を投函されるなどのストーカー被害にあっていた。
様々な危険が彼女を襲う可能性があるのだが、まゆは気にせずにコンビニへ向うことを決めた。
着替えるのを面倒だと感じたのか、ランジェリーの上にコートを1枚だけ羽織り、財布のみを腕に抱えて彼女は夜の街へと出かけていった。
コンビニから出たまゆの手には、袋に入った缶チューハイがぶら下げられていた。
それとともに、夜風に吹かれた彼女は肌寒そうな反応を見せる。
(寒っ。もっと着込んできたらよかった。)
いわば露出狂のような下着にコート1枚の格好は、やはり防寒性に欠けるようだった。
「もしかして、配信者の有坂レイミさんですか?」
まゆが足早に自宅へ帰ろうとした時、背後からぼそりと声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、そこには小太りで黒髪の青年が息を荒くしながら立っていた。
まゆとは面識がない、どこから現れたのかもわからない男だ。
(誰だ、私のファンか?あんまり見られてほしくない格好のときに会っちゃったな〜。)
まゆは、深夜のとあるコンビニの前で自分のファンに出会うとは思っていなかったようだ。
これが偶然だと断言していいのかはわからないが、オタクの夢を崩さぬためにまゆは、有坂レイミへと一時的に変身して会話を試みた。
「はい、そうです〜!君は、私のリスナーさんかな?」
「はい、3年前からずっとあなたのことを応援してきました。」
会話をしながら、男はまゆに徐々に近づく。
その瞳に光が無く、鼻息は荒いままで、まゆは得体のしれない危険を察知した。
(このままじゃまずい。)
そう思った彼女はすぐに別れの言葉を切り出し、自宅へ帰ろうと考えた。
「ありがとね!これからも応援してね、それじゃ!」
まゆが男に手を振り、その場を駆け足で去ろうとしたその時だった。
ぐさっという鈍い音がまゆの鼓膜に響き、動かしていた彼女の足はゆっくりと停止した。
恐る恐る下を見ると、茶色いコートに黒いシミがどんどん広がっていくのが確認できる。
呼吸がどんどん荒くなり、腹部と背中に継続的な激痛が走る。
「誰が帰すって言ったんだよ。」
背後から男の声と体温を感じる。
その時、まゆは気付いた。
この男に、背後から刃物で刺されたということに。
「俺はずっと信じてたのに、お前は俺を裏切った!この尻軽女がぁ!」
そう叫んだ男は、まゆの身体から凶器を引き抜いた。
その途端に、彼女はその場に倒れ込む。
アスファルトに生ぬるい血潮が広がっていく。
「なん、の、はなし・・・?」
まゆには、男の言動が全くもって理解できなかった。
リスナーを裏切る行動をした覚えはないし、清楚キャラで売っているからこそ尻軽だと思われるような発言は控えていた。
現に尻軽でもなかったし。
「さっきの配信で、『レイミちゃんは処女ですか?』って質問拾っただろ。そん時お前は否定したよなぁ?否定するってことは他に男がいるってことだよなぁ!?」
その言葉を聞いた時、まゆは思い出した。
確かにさっきの誕生日配信の中で、赤スパとともにそのような質問が届いた。
いわゆるセクハラに該当するような問いであったし、あまり深掘りをするのもまずいと感じた彼女は、否定も肯定もせずにそのまま流したのだ。
では真実はというと、彼女は処女ではない。
高校生の頃、ひとりのクラスの男子生徒とカラオケに行った際、流れのまましてしまった経験があるのだ。
ただ、それからはそんな経験は一度もないし、今は恋人もそのような関係の相手もいない。
質問を否定しなかっただけで刺されるとは、さすがにまゆも考えてはいなかったようだ。
というか、なぜ彼女の居場所をこの男は把握しているのだろうか。
そこで、この男が最近まゆにストーカー被害を加えている張本人だということに彼女は気付いた。
「どれだけお前に貢いだと思ってんだよ、どんだけスパチャして、どんだけグッズ買ったと思ってんだよ!このクソ女ぁ!」
男は涙を流しながら叫んだ。
癇癪を起こし自分がまるで悲劇のヒロインかのように思っている、そんな表情だ。
そして男は未練がましく苦しむまゆの表情を眺めながら、夜の闇の中へと姿を消して行った。
(言わせておけばめちゃくちゃ言いやがって、あん時の発言、間違えたな・・・)
腹部から流れる血は、両手でどんなに強く押さえても止まらなかった。
もう少し厚着をしていれば、下着の上に1枚でもなにか着ていれば刃物が貫通しなくて済んだかもしれない、とまゆは後悔する。
視界が歪み、意識が遠のくのを彼女は感じた。
月光が照らす下で倒れ込んだ有坂レイミこと桃城まゆは、もう二度と目を覚ますことはなかった。
そう、現実世界の中では。
ーーー
どうも、月雲とすずです。
この作品は、『転生』『配信』『異世界』この3つがテーマになっています。
1週間に1話の投稿頻度で活動します。
午後6〜7時(18〜19時)に投稿するように心がけます。
コンテストや企画にも積極的に参加します!
よければ、フォローやいいね、レビューをお願いします!
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