そらけまゆ

 鴉を食う夢って縁起が悪いらしいです。なんでも凶が体内に入るとかなんとか。じゃあこの夢ってどうなんかなーって思いました。

 私は、いま港にいたんですよ。船とかが置いてあったりトタン波板でできた倉庫とかがあるタイプの港なんですけど。で、その日はコンクリートにゴムの足跡が出来るほど暑かったんですね。その時私はお腹が空いていたんですよ。じゃあ何か食べないとなーって思いながらポケットを漁ると持っているものは包丁とアルミホイルだけで困っちゃったんですよ。

 じゃあどうしよう、どうしようと思ってたら後ろでどさんと鳴ったんです。そこを見ると片翼がもがれた鴉が倒れていたんですね。これはラッキーだと思った私はさっそくアルミホイルを体全体に巻き始めたんですよ。何せ靴底が溶けるほどの暑さですから、その要領でカラスを焼けると思ったんですね。それで、よく日が通るように嘴と足を支えにして立てたんですよ。そしたらびっくり嘴が溶けちゃったんですよ。ペットボトルを熱したみたいな、そんな感じで縮こまっちゃったんですねー。へぇーそういうもんなんだーって思いました。そのまま私は皿の代わりになるものを探しました。塩化ビニルのゴミ箱の蓋にしようか、それともペットボトルの切れ端にしようか迷っている時、また、どさんとなったんですよ。新しい食材か!と、後ろを見ると鴉が立っていたんですよ。両足で、潰れた嘴をこちらに向けて。

 私は走り出しました。殺されると思ったんですよ。今考えるとおかしな話なんですけど。だって相手はアルミホイルでまともに動けないんですよ。でも、殺されると思ったんですよ。私も、鴉も、嘴を溶かした時何もしなかったからそう思ったのかもしれないですね。だから、鴉を押し倒して包丁を首に当てたんですね。

 ドンと腕を掴まれたんですよ。鴉は足で私の包丁を持ってる方の腕を掴んだんですよ。その力はとても弱弱しいものでした。死にかけだったんです。その時私はほっとしました。こいつは私を殺さないということ、簡単に食事が出来そうということに気づいたからです。

 そして、私はそのままカラスの足を振り払ってアルミホイルを切断しました。鴉はアルミホイルがとれると少し間私を見つめて、倉庫と倉庫の間に消えていきました。その間私は何もしませんでした。私はただ座って鴉を見ていました。

 そこで夢は終わりました。

 で、なんで最後、夢の私はアルミホイルをとったのか自分なりに考えてみたんですよ。結果、私は気づいちゃったんじゃないかなと思います。自分はこいつより生きたいと思っていないって。

 実際問題、私は死ぬ理由もないんですけど生きる理由もないんです。食いたいって思ったのも生きたいからじゃなくてお腹空いて苦しいからなんですよ。でも、鴉はそうじゃないんです。生きるために嘴を溶かされても反応しなかったんですよ。苦しくて痛いだろうに。私を欺くために反応しなかったんですよ。

 私は鴉を食えませんでした。生きることって不幸も体内に入れて消化することなんだって今回気づきました。

 あの鴉のように生きてやろうと思いました。次同じ夢を見た時、私が鴉をローストチキンにして食えるくらいには生きてやろうと思いました。

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そらけまゆ @fugang08

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