第76話:ステラとアンネリーゼ④(ステラ視点)
私は数年前に冒険者を辞めてギルド職員になった。その理由は冒険者とはいつも命の危機にさらされる危険な職業だからだ。
でもそれは自分の命が惜しくて冒険者を辞めたというわけでは決してない。
私の弟分であるセラス君が冒険者として命の危機にさらされてしまった時に、私が裏方としてセラス君のサポートをしてあげられるかもしれないと考えて冒険者を辞めてギルド職員になったんだ。
だから私はセラス君が冒険者としてずっと生き続けられるようにするために冒険者を辞めてギルド職員になったと言っても過言ではない。
そしてギルド職員になった私はセラス君に命だけは落としては駄目だといつも言い続けてきたんだ。それなのに……。
『私はちゃんとお婆ちゃんになってもセラス君の事を待っててあげるから……だからどんな事があっても絶対に命だけは落としちゃ駄目だよ? これだけはちゃんと守ってね? お姉ちゃんとの約束だよ?』
『はい、もちろんですよ』
(……そうだよ。セラス君に向かっていつもそう言ってきたのに……それなのに私が生きる事を諦めてどうするのよ……!)
私はセラス君にいつもそんな事を言ってきたのに、その約束を私が反故にするなんてあり得ない……。
だから私は最後まで生きる事を諦めずに……もう一度だけ気合を入れ直して小さく詠唱を唱えていった。
「ふふ、それじゃあそろそろこの世とお別れだね。ま、生きたまま食べられるのは苦しいかもしれないけど……でも弱肉強食の世界だししょうがないって事で。それじゃあカー君、そろそろ食べちゃって良いよ」
「グギャアアアアアアアアア」
そう言って蛇の魔物は口を大きく開けて私の身体を丸吞みしようと近づいてきた。しかしその瞬間。
「……
「グ、ギャッ!? グギャアアアアッ!?」
私は残っていた魔力を消費して蛇の魔物の顔を目掛けて風の刃を食らわしていった。魔物の外皮は固い鱗で覆われていて防御力は高そうだけど、それでもこんな近距離で食らえば多少はダメージは通るはずだ。
そしてその予想通り、蛇の魔物は痛みを感じてのけ反り始めていった。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅん、まだ魔術を発動出来る魔力が残ってたんだ? でもそんな中途半端な攻撃じゃあさ……カー君はまだまだやられないよ?」
「グルルル……グシャアアアアア!」
蛇の化物はすぐに体勢を立て直し、私に向かって大きな咆哮を上げてきた。どうやらかなり怒っている様子だ。
「あーあ、カー君すっごく怒ってるよ。餌が攻撃するなんてマナー違反も良い所だよね。ふふ、これはきっとさぁ……楽には君の事を食べてくれないと思うよー?」
「グギャアアアアアアアアア」
アンネリーゼは笑いながらそんな事を言ってきた。多分それは本当だろうな。蛇の魔物は見た感じで凄く怒っているのはよくわかる。
(さっきまでだったら私の事を一瞬で食い殺して貰えたのかもしれないけど……でももう別に良いよ)
だって私はセラス君と約束したから。一緒に長生きするってさ……。
だからどんな事があっても諦めずに最後までしぶとく少しでも長く生きてみせるんだ。そしてそのためにも……あの魔物を討伐してやるんだ!
「……はは、全くもう……」
「……? 急に笑っちゃってどうしたのよ?」
私が笑いながらそう呟いていくと、アンネリーゼは怪訝な顔をしながらそう言ってきた。
そりゃあ私だって流石にあの蛇の魔物を倒せるわけがないって頭では理解しているし、もうセラス君との約束が果たせない事だってわかっている。
でもそれでも……最後まで命を諦めるなんて事はせず全力で抗っていき、そして最後にあの化物相手に一泡くらい吹かせてやろうじゃないか。
そしてあの蛇の魔物に致命的な一撃をくれてやって、それで私はざまぁみろって盛大に笑ってやるんだ。
(ふふ、蛇の魔物とアンネリーゼが慌てふためく様を想像するだけで幾分かは勇気が出てくるってものね)
私はそう思ってつい笑みを溢してしまったんだ。ふふ、それに何というか冒険者だった頃のヤンチャな私に戻った気分になるわね。
「……よし……!」
これで諦める心も恐怖心も一切なくなった。
あとは私があの化物相手に立ち向かって行くだけだ。私は短剣を持つ手に力をぎゅっと込めて、相手との距離をじりじりと詰めていった。
「……へぇ? カー君と戦う気? ふふ、それはあまりにも無謀過ぎない??」
「何とでも言いなさい。私は生きる事を諦めないから。だから私が生き延びるためにも……そこの蛇の魔物は打ち倒させて貰うわよ」
「面白い冗談ねー。ふふ、良いわよ。そう言うなら私は手を出さないから。それじゃあ頑張ってカー君を倒してみてね!」
アンネリーゼは笑いながらそう言ってきた。私が蛇の魔物を倒せるわけないと思ってそう言ってきてるんだ。
でもそんなの私だってわかっている。でも私には命を諦める事だけは許されない。だから私は命を諦めずに最後まで戦いきってやるんだ。
そして覚悟を完全に決めた私は、冒険者だった頃にいつも使っていた名乗りを上げながら蛇の魔物に突撃をしていった。
「“風刃姫”ステラ・レイフォール、推して参る!」
「グルルルルルル……グシャアアアアアアア!!」
こうして私は最後にもう一度……あの蛇の魔物に向かって戦いを挑んでいった。
―――――――――
・あとがき
次回から主人公視点に戻ります。
あともう少しで三章も終わりますので、最後まで楽しく読んでいって頂けたら幸いです。
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