第74話:ステラとアンネリーゼ②(ステラ視点)

「はぁ、全くもう……見逃してげるって言ったのに、何で君は逃げないのかなぁ? もしかして本当に馬鹿なのかな??」

「馬鹿で結構よ。ギルド職員は困ってる人々を救うのも仕事の一つなんでね」

「ふぅん、難儀な職業についているのねぇ。ま、別にどうでも良いけど。だけど魔族の私と戦って勝ち目なんてあると思ってんのぉ?」


 アンネリーゼはため息交じりにそう言い放ってきた。私のような人間に負けるわけないと思っているようだ。


(でもアンネリーゼがそう思うのは当たり前だ)


 魔族は沢山の兵士や冒険者が徒党を組んでやっと倒せるという程の強さを持っているんだ。だから私のようなただの人間が一人で勝てるわけはない。だけど……。


「私一人でアンタに勝てるなんて思ってないわよ。でもね……それでもここの村人達を逃がすくらいの時間稼ぎ位は出来るかもしれないでしょ?」

「へぇ、ここにいる餌共を私が逃がすかもって? ぷははっ! 私も舐められたもんねぇ……魔物召喚魔術モンスターゲート!」


 アンネリーゼが高らかにそう唱えていくと、アンネリーゼの後ろに次元の裂け目が開いていった。そしてその裂け目からは巨大な大蛇が呼び出されていった。


「グギャアアアアアアアアアッッ!!」

「……っ!」


 私は飛び出されてきた大蛇の魔物を見て驚愕とした。何故ならその大蛇はまさしく……私の弟を食らったあの化物だったからだ。


(でも……動揺なんてしてる場合じゃない……!)


「ふふ、この子はカー君って言うんだー。普段はノロノロとしたノンビリ屋さんなんだけどね……でも今日のカー君はすっごくお腹が空いてるんだよ。だからそこにいる餌共の逃げる速度なんかよりもカー君の方が圧倒的に早いと思うよー?」

「グシャアアアアアアアッ!!」

「……」

「こんな状況で君は私とカー君を同時に足止めなんて出来るのかなぁ? いや流石に無理だよねぇ? あーあ、君はこのまま餌共を一匹も救う事は出来ずに、君自身もカー君の餌になっちゃうんだねぇ。あはは、こんな事になるんだったらさっさと君一人で逃げておけば良かったのにねぇ!」

「グルル、グシャアアアアアアア!」

「……」

「……? ちょっとー? 私の話聞いてるのー? はぁ、全くもう……私無視されるのが一番嫌いなんだけど……って、オイ待て! テメェ何をしてんだよ!?」


 アンネリーゼは私が無視をしてた訳じゃない事に気付いたようだ。でももう遅い。私の詠唱は既に完了している。後は魔術名を唱えるだけだ。


「ふふ、残念だったね……飛翔魔術フライングエア!」

「えっ!?」

「わわっ!」


 私がそう唱えると村人達の周りに大きな風が集まっていき、そのまま村人達は空高く舞い上がっていった。そしてさらに私はもう一つの魔術も起動していった。


「皆さんっ! そのまま膝を抱えておいてくださいっ! 暴風魔術エアロブラスト!」

「きゃっ!」

「う、うわっ!」


―― ビュンッ!!


 私は強風を呼び起こして空高く舞い上がっている村人達を外で待機している馬車の元まで思いっきり飛ばしていった。これで村人達の命はなんとか助かるだろう。


(……とりあえずここまでは上手くいって良かった)


 こんな大がかりな魔術を発動するためには詠唱に凄く時間がかかってしまうのでヒヤヒヤとしてしまったけど、まぁでも最後までアンネリーゼに私の魔術がバレないで良かったわ。


「……ふぅん、飛翔魔術に暴風魔術か。ゲロカスな人間のクセにS級風魔術を二つも使えるなんて思わなかったわぁ。それに空なんて飛ばれちゃったら流石にノンビリ屋のカー君じゃ追いつけないなぁ……ふふ」


 そう言ってアンネリーゼは楽しそうに笑いながらゆっくりと近づいてきた。でもさっきの下卑た笑みとは違い、とてつもなく怒り狂っているように見えた。


「いやー、だけど君は本当に凄い女の子だねー! ゲロカスな人間のクセにS級魔術を使えるなんて大したもんだよ! きっと君は今までとてつもない努力してきたんだろうね!」

「……私の家族を殺したヤツをブチ殺すために血反吐を吐く思いで習得してきたのよ」

「あ、そうなんだ?? それじゃあそのS級魔術を人助けのために使ってる場合じゃなくない?? ちゃんと私をブチ殺すために使いなよ?? というかS級魔術って大量に魔力を消費するから沢山使えないはずでしょ?? それなのに人助けのためにS級魔術を何度も使っちゃうなんてさぁ……いやテメェ本当に馬鹿過ぎるだろ!! ぷはは!」


 アンネリーゼは私を馬鹿にしたような笑い方でそう言ってきた。でもアンネリーゼの言う通り今の私はほぼ全ての魔力を消費しきってしまった。


 こんな状態でアンネリーゼと対峙をするなんて無謀過ぎる。だから今の私に出来る事は時間を稼ぐ事だけだ……。


「あぁ、すっごく面白かったー! あ、それで? あの餌共はどこら辺に飛ばしたの? カー君お腹空いてるんだから早く教えてよー。餌共は何処にやったのー?」

「……さてね? 私は知らな――」


―― ドスッ!


「ガハッ……!?」

「ふふ、もう一度聞くよー? あの餌共はどこに飛ばしたのかなぁ? 君一人だけ食べてもカー君はお腹いっぱいにならないんだから早く教えてよー?」

「う……ぁ……」


―― ドスッ!


「グハッ……!」

「ねぇねぇ、早く答えてよー? 私あんまり気が長い方じゃないんだよ? だから早く教えてよー!! 早く教えてくれないとさぁ……楽に殺してあげないよぉ? あはは!」


 そう言ってアンネリーゼは大きく笑いながら私の腹部に何度も強烈なボディーブローを決めてきた。あまりにも早すぎる攻撃だったために避ける事も防御する事もままならなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る