第70話:転移の指輪を譲り受ける
“転移の指輪”とはラストダンジョンである魔王城の宝箱から入手出来るレアアイテムだ。
効果はこの指輪を装備しているキャラはマジックポイント(通称MP)を消費せずにいつでも“転移魔術”を発動出来るというアイテムだ。
本来なら転移魔術は主人公とプリーストキャラしか覚えないんだけど、この指輪を持たせる事でそれ以外のキャラにも転移魔術を使わせる事が出来るようになるんだ。
そして“転移魔術”の効果はワールドマップで発動すると任意の場所を指定して何処にでもワープする事が出来る便利系の魔術だ。おつかいイベントとかで特定の場所に今すぐ行きたい時に重宝する。
さらに戦闘シーンでは対象のキャラを自身の半径10マス以内の指定した場所にワープさせる事が出来る。主に敵に囲まれて瀕死になってるキャラを助ける時に使ったり、強い仲間キャラで敵陣に突撃させて強襲する時に使用する魔術だ。
しかしこの転移魔術を使用するには大量のマジックポイントを消費しなけらばならないので、戦闘シーンではあまり気軽に何度も使えるような魔術ではないんだ。
でもこの転移の指輪を装備してるキャラはMP消費ゼロで毎ターン転移魔術が使えるようになるため割とチート的な立ち位置のレアアイテムだった。
転移魔術が使えないキャラに持たせる事で色々と強力なシナジーだったりコンボが生み出せて凄く楽しい指輪だったな。
一番簡単だったコンボは最強キャラである剣聖フランツに転移の指輪を持たせて毎ターン転移魔術を連打して敵陣に突っ込んで無双するというのが爽快感があって楽しかったよな。
(……いや、でも待てよ? MP消費無しで転移魔術が使えるって事は……この指輪があれば無能な俺でも転移魔術が使えるって事なんじゃないのか?)
その時、俺はふとそんな事を思っていった。
俺の魔術適正はゼロだから一切の魔術が使用不可なんだけど、でもこの転移の指輪があれば俺でも転移魔術が発動出来るという事なのかもしれないよな?
何だよそれ……ちょっと気になるんだけど……。
「? いきなり固まっちゃってどうしたの?」
「えっ? あ、い、いえ、それはその……」
「んー? あぁ、もしかしてこの指輪が欲しいの? それなら良かったら君にあげよっか?」
「え……って、えぇええぇっ!? あ、あげるって、この指輪をですか!?」
俺がその指輪をじっと見ていたら、ユキミさんは笑みを浮かべながらそんな事を言ってきてくれた。俺はビックリとしてしまい大きな声を出してしまった。
そしてそのまま俺は若干狼狽えながらもユキミさんにこう尋ねていった。
「え、えっと……い、いいんですか? こ、これってすっごく貴重なアイテムなんですよ?」
「うん、別に良いよ。だって私は脱出するのに使いたかっただけだからもう不要だし。それに君には美味しいご飯を御馳走して貰ったからそのお礼はちゃんとしなきゃだからね。ということで……はい、どーぞ」
そう言ってユキミさんは指輪を自分の指からスルスルと外していき、そのまま俺に手渡そうとしてきてくれた。
なので俺はユキミさんに感謝の気持ちをしっかりと伝えてから、その指輪を受け取っていく事にした。
「あ、ありがとうございます! こんな貴重な指輪を頂けるなんてすごく嬉しいです! 一生大事にしますね!」
「うん、私の方こそ美味しいご飯をありがとう。ふぁあ……ふぅ。それじゃあ眠くなってきたし私はもうそろそろ行くね。ばいばい」
「はい、わかりま……って、えっ? もう行くって……あ、あれ?」
俺は受け取った指輪を早速自分の指にハメていこうとしたら、急にユキミさんは眠たそうな声でそんな事を言ってきた。
だから俺は指輪をハメるのを一旦中断してユキミさんの顔を見ようとしたら……何故か目の前にいたはずのユキミさんが忽然と消え去っていた。
まぁリビングの窓は開けっぱなしにしてたから、もしかしたらそこから出て行ったのかもしれないけど……でもそれにしては居なくなるのが早すぎるよな?
もしかしたらユキミさんが何か魔術を使ったという可能性もあるけど……でも流石に現状では何もわからない。
「うーん、他にも聞きたい事が沢山あったんだけどなぁ」
という事でユキミさんの素性は何も分からずじまいのまま別れてしまった。何だか謎ばかり広がる不思議な女性だったな。そもそも何でラストダンジョンのレアアイテムを持っていたんだろう?
―― ブーン、ブーン、ブーン……
「うーん、って、あれ?」
そんな事を考えていると、今度は俺のズボンから振動音が鳴りだした。ズボンのポケットに入れているのはステラさんから貰った通信石が入ってるだけだ。
「という事は……ステラさんからの連絡が来たって事か!」
俺はそう思ってすぐさまポケットに入れてた通信石を取り出してみた。すると予想通り通信石がブルブルと振動していた。
なので俺はすぐにその通信石を起動してステラさんとの通話を始めていった。
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