或るお正月、人情カフェ!
崔 梨遙(再)
1話完結;1200字
正月から高齢者で賑わうカフェ。その日も常連客で賑わっていた。みんな家族が家にいないのだ。だから、同じ様な境遇の年配客が集まり、トークが弾む。1人、嫌われ者の晴美さんが混ざっていたが、みんなその嫌われ者の相手をしないように、上手く会話を進めていた。
そのカフェは大きな神社へと続く坂の途中。ママさんは、一見さんが来てくれると期待していたかもしれない。だが、今では参拝客も少なく、通る人もまばらだった。
ガラス張りの壁なので、内側から外側はよく見える。通行人はこちらを眺めながら通る。しかし中には入らない。
やっと来た! 参拝客!
と思ったら、30歳くらいの女性2人組。カフェの前に停まった車から、女性に連れられてきた。連れてきた女性は、
「とりあえず3千円置いていきます。不足分は、迎えに来た時にお支払いします」
と言って去って行った。置いて行かれた2人はベロベロに酔っていた。背の高い女性と低い女性、凸凹コンビだった。
「崔さん、彼女達、紙コップでもいいと思う?」
「外のテラス席に座ってもらったらええんとちゃいますか」
「じゃあ、そうするわ」
外のテラス席で、椅子から降りて地べたに座り歌う2人組。行き交う車に乗っている人達や通行人の見世物になっていた。
そして2人組は、
「寒い、寒い」
と言いながら中に入って来た。紙コップで出したコーヒーは、地べたに転がり中身が溢れ出ていた。コーヒーカップだったら割れていただろう。紙コップにしておいて良かったと皆が思った。
「トイレ行きたい! 連れて行って!」
背の高い方が言うので、僕と男性客で両脇から支えてトイレに連れて行った。
「脱がして!」
と言われたので、僕達はその人をトイレに放り込んでドアを閉めた。なんで脱がさなアカンねん。恋人でも家族でもないのに。
そんなことをしている間に、嫌われ者の晴美さんが背の低い方の女性に自分の歩んだ歴史についてマジで語っていた。この晴美さんの語りはマシンガントークで、そこにいた客全員が何十回も聞かされてきた話だ。みんな、“あんなベロベロの酔っ払いにマジで語るって、どうなん?”、“酔いが覚めたときには話を忘れてるわ”と呆れていた。実際、背の低い方の女性は、
「はーい、はーい」
と、適当な相づちを打つだけだった。
その内、背の高い方が、
「帰りたい! 帰りたい!」
と言い出した。
「帰りたいけど、携帯も財布も没収されてるねん」
などと言っていた。すると、ママさんが、
「お宅はどちらですか?」
「〇〇の辺り」
「タクシー呼びますね」
タクシーを呼んだ。やがてタクシーが来た。ママさんは2人組をタクシーに乗せ(僕と男性客が長身の女性を左右から抱えていた)、
「はい、タクシー代。これで足りると思うから」
と言いながら背の低い方の女性にお金を渡した。ママさんには人情があったのだ。僕はママさんの行動に感動したが、
「ママさん、運転手にお金を渡してたで!」
と騒いでいた晴美さんは鬱陶しく思った。
或るお正月、人情カフェ! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます