勇者パーティーを追放された伝説的な英雄の末裔が古龍の加護と科学知識を手に入れて晴れて魔法学院に入学。王様が国を半分与えようと言ってくるけど、そんなのいいから俺に毛根を逞しくする薬を研究する時間をくれ

枕崎 削節

第1話 勇者パーティー追放


 冒険者ギルドからの依頼を受けてワイバーン討伐のために山道を進む〔久遠の栄光〕の5人のメンバー。彼ら正規のパーティー構成員とは別に最後尾には重たい荷物を背負う年若い少年が後れを取らないように必死で歩を進めている。


「よし、そろそろこの辺で休憩にしよう」


 リーダーを務める勇者アラン=ロブソンの掛け声で全員が足を止める。最後尾を進んでいた少年トシヤ=アマギもホッとした表情を浮かべて荷物を降ろして倒木に腰を下ろそうとしたその時…


「ヘッヘッヘ、足手纏いの無能! お前とはここでおさらばなんだよ」


「何が英雄の末裔だ! 荷物持ちしか能がない役立たずなんて栄えある勇者パーティーにはいらねぇんだ」


「ギルドマスターがどうしてもっていうから仕方なく見習いとして雇ったはいいが、ここまで使えないんだったらいい見切り時だぜ」


「そもそも最初から気味の悪い黒目と黒髪が気に入らなかったんだよ!」


「心配するな。ギルドマスターには崖から転落して死んだと報告してやるから、安心してあの世に行けよ」


 疲労がたまって急に動けないトシヤを取り囲むようにして罵声を浴びせるメンバーたち。リーダーの勇者はやや離れた場所から成り行きを楽しんでむかのようにイヤな視線を向けている。


 ガキッ!


「うっ!」


 背後に回ったひとりの男が鞘が付いたままの剣をトシヤの後頭部に振り下ろす。突然のことにワケがわからないままトシヤの視界に火花が飛び散り、彼はたった一撃でその場に倒れ込む。


「誰が眠っていいといった? そもそも英雄の子孫なんてヤツはアラン様が勇者としてさらに大きな名声を得るにはジャマでしかないんだよ」


「ほれ、目を開くんだ!」


「どうせなら俺たちが楽しむ役に立ってから死んでいけよな」


 男の爪先がトシヤの腹を蹴り上げる。トシヤはくぐもった呻き声を上げて体を丸めるしかできない。


 その後もメンバーたちの殴る蹴るは続いていく。暴行に加わっているのは4名だが、そのうち2名はその辺で拾った硬い木の棒が折れるまでトシヤを打ちのめす。


 勇者パーティーのメンバーがこれ程冷酷なまでにトシヤを痛め付けるのは、おそらく誰かが口にした「英雄の末裔」というトシヤの存在自体が気に食わないせいだろう。


 なぜなら未だにこのマハティール王国において〔伝説の三傑〕と呼ばれる彼の先祖の英雄譚は吟遊詩人の演目において一番人気を誇っており、庶民から王侯貴族に至るまで知らない者はいないほどの勇気と奇跡に満ち溢れたストーリーとして広く知られている。


(なぜ俺がこんな目に…)


 トシヤとしては今まで奴隷のように酷使されながらもなんとかパーティーの役に立とうと身を粉にしてきただけに、突然これほどまでにヒドイ目に遭う理由がわからない。それよりも絶え間なく自分の身に降り注ぐ暴行がもたらす痛みから逃れようと懸命になっている。だが…


「ずいぶん反応が弱くなってきたようだな」


「これ以上痛め付けても全然面白くないぜ」


「アランさん、そろそろ崖下に放り投げましょうか?」


 ひとりの男が離れた場所に立つ勇者に声をかけると、まるでどうでもいいことのような表情で返事が返ってくる。


「ふん、英雄の末裔とはいっても大したとこなかったな。もう立ち上がる気力もないようだからそのまま投げ捨てておけ」


「はい、どうせ夜になったら野生の動物か魔物のエサになるでしょうからね」


「よし、手足を持つんだ」


 4人掛かりでトシヤの両手両足を抱えて彼の体を持ち上げると、そのまま掛け声に合わせて崖下に放り投げる。崖とはいっても所々に樹木がまばらに生えている急な斜面をトシヤの体は勢いよく転がり落ちていくのであった。






   ◇◇◇◇◇





 何時間が経過したのだろうか。斜面を転がり落ちて途中の木に辛うじて引っ掛かったトシヤが薄目を開く。それまで身動きひとつしなかったが、わずかに右手を動かして自分の体を支えるまだ若い木の幹を掴む。


(良かった、何とか生きていた)


 体中は激しい暴力と斜面を転がり落ちた際に色々とぶつけたダメージで耐えがたい痛みと火の出るような熱を帯びている。


(でもこのまま夜を迎えるのはマズい。どこか休めそうな場所はないか…)


 日は沈みかけており、あっという間に周囲は真っ暗になっていく時刻。必死に目を凝らして小さな窪地でもいいからちょっとでも安全な場所を探すトシヤ。すると幸運なことに細い岩の割れ目が視界に飛び込んでくる。


(あそこまで行けば何とかなるかもしれない)


 立ち上がろうとしても体中の痛みでどうにもならない。トシヤは這いずるように岩の割れ目を目指して斜面を下っていく。動かない体を何とか励まして辿りついてみると割れ目はギリギリ人間が通れる程度の幅で、以外と奥まで長く続いているよう。


(獣の住処かもしれないけど今はそんなことは言ってられない)


 外で一夜を過ごすよりもマシと考えて、トシヤは岩の割れ目を這うようにして内部に潜り込んでいく。そして割れ目から数メートル進んだところで彼は力尽きて、そのまま意識を失うのだった。






   ◇◇◇◇◇






 どれほど時間が経過したかもわからないほど泥のように眠ったトシヤはようやく目を覚ます。


(生きてるぞ! 良かった)


 とはいえ体の痛みはいまだ引かず。むしろ意識を失う前よりもヒドくなっているかもしれない。うつぶせの状態のままでゆっくり顔を上げると、岩の割れ目はもう少し進んだところから急激に広くなっているように映る。


(なんだろう? 山の中にこんな広い空洞があるなんて)


 おそらくは大古に溶岩ドームが形成されて、火山活動が下火になった際にマグマが下がってこの場所が地下の空洞として残ったのだろう。まあそんなことは今のトシヤにとってはどうでもいい話。


(ひとまずはあの広くなっている場所まで行ってみよう)


 溶岩が冷えて固まったせいなのか妙に滑らかな地面を這うように進むと、確かにその先は縦横2キロ四方、高さにして300メートルはありそうな巨大な地下空間が広がっている。


(うん、前方に光っているのはなんだろう?)


 トシヤの視線の先には虚空に浮かぶようなおぼろげな二つの光。しかもその光は一定の場所に留まっているのではなくてゆっくりと上下左右に動いている。トシヤは体の痛みも忘れて二つの光の正体を知りたくなったよう。わずかに動く右手をかざして魔法名を紡ぎ出す。


「光球」


 トシヤが使用できる魔法は光属性のみ。攻撃にも防御にも役に立たないが、この場所のような暗がりを照らすには好都合。ということで光球に照らされた先に視線を移してみると、そこには身の丈50メートルを超える巨大な古龍エンシェントドラゴンが鎮座している。


(ヤバい! こんな場所でドラゴンに出くわすなんて…)


 これ以上はトシヤの思考が続かない。こんな場所で巨大なドラゴンに出会った恐怖とそれに伴って急激にぶり返してきた体の痛みによって、彼はみたび意識を手放すのであった。



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