告白中毒のイズナ 〜狂人ランキング上位の美少女 "告白中毒のイズナ" さんに告白されたんだが〜
士流
第1話 告白中毒のイズナ
「 わ、私と付き合ってください!」
ここは学校の屋上。
同じクラスで隣の席の黒髪美少女に告白された。
まさかこの僕に告白される日が来るなんて思ってもいなかった。
なぜなら僕は陰キャだからだ。
顔も地味でこれといった特徴は無い。
友達もいないし人気もない。
そんな僕がこんな美少女に告白されていいのだろうか。
だがそんな事よりもっと重大な事がある。
それは、まだこの美少女と出会って数分しか経っていない事だ。
僕は今日、この
一体何がどうなってるんだ?
時を遡り、先程までの事を思い出す。
「
僕は新しいクラスで自己紹介をした。
今は六月中旬。こんな時期に僕は家庭の事情で転校することになった。
僕のクラスは二年一組。クラス全体を見渡すと、美男美女が多いように感じる。
本来、転校生イベントはイケメンや美少女が転校してきて盛り上がるというのがセオリーだろう。
しかし現実はそう上手くはいかない。
僕は黒髪陰キャの万年ぼっち。
僕が自己紹介を終えた後、クラスから残念そうな声が聞こえてくる。特に女子から。
「 うわー、転校生ハズレじゃん」
「 完全に陰キャだよ」
「 もっとイケメンがよかったな〜」
普通の人ならここでメンタルが崩壊し、精神を病むだろう。
しかし僕は万年ぼっちの超陰キャ。
この程度の悪口なんて慣れたものだ。
「 紫電の席はあそこだ」
茶髪のポニーテールが特徴な美人担任が僕の席を指差す。
その席は、一番後ろのちょうど真ん中の席。
後ろの席なのは良い事だ。
僕は自分の席に座り、その後、朝のホームルームを終えた。
教室から担任の先生が去った瞬間、右隣に座っている女生徒に声を掛けられた。
「 紫電君、よろしく! 私、
その生徒は、長い黒髪で瞳も大きく誰がどう見ても美少女だ。
こんな僕に話し掛けてくれるなんて優しいな。
「 うん、よろしく」
僕はとりあえず返事をした。
すると突然……。
「 あの……紫電君に伝えておきたいことがあるんだけどいいかな? ここじゃ話しにくいし、今から屋上に来てくれない?」
愛宮さんは何やら顔を赤らめ、もじもじしている。ここじゃ話しにくい事ってどんな話なのだろうか。
まあ、断る理由もないし僕は愛宮さんにオッケーの返事をした。
そして時は戻り、屋上に来た瞬間、愛宮さんに告白された。
「 私ね、紫電君を一目見た瞬間に恋に落ちちゃったの! だからお願い! 私と付き合って!」
愛宮さんは上目遣いで僕を見つめてくる。
………………。
何これ?
どういう状況?
意味が分からないんだけど。
罰ゲームか何か?
それとも何かのドッキリ?
正直僕の脳は混乱していた。
「 そーゆー事で紫電君、返事を聞かせてくれる?」
愛宮さんは僕に告白の返事を求めてきた。
はっきりいって、僕は愛宮さんの事を何も知らない。そしてそれは向こうも同じ事だ。
だがそれでも本当に僕に一目惚れをして本気の告白をしてきているのなら半端な回答をしてはいけないと思う。
だから僕はもう少しゆっくり、真剣に告白の返事を考えたい。
これが人生で初めて告白された僕の回答だ。
というわけで素直に思った事を愛宮さんに伝える事にした。
「 愛宮さん。こんな僕に告白してくれてありがとう。でも僕たちはまだ知り合ったばかりだし、告白の返事については真剣に考えたい。だから明日まで待ってくれないかな?」
僕は愛宮さんへ告白の返事を待ってほしいと伝えた。とりあえず今はこれが最善策だろう。
だがしかし…………。
「 ……は?」
「 ……え?」
僕の返事を聞いた途端、愛宮さんの表情は無となり、先程までと同一人物とは思えない程に豹変した。
おまけに声のトーンも低くなり、プレッシャーを感じる。
「 はぁ。マジあり得ないんだけどあんた。会って数分の相手に告白されて、返事を真剣に考えたいとかマジキモすぎるんだけど。普通速攻で振るだろーが気色悪いなぁ」
とても美少女の口から発せられてるとは思えないドスの効いた声色だ。
何が起こっているのか理解できない僕は言葉を発する事もできず、ただただ黙って立ち尽くしていた。
そんな僕の方へ愛宮さんはゆっくりと近づき、僕の胸ぐらを掴んだ。
そして……。
ドゴッ!!
「 ぐわっ!」
愛宮さんは僕の顔面を思い切り殴った。
は?
いきなり殴られた?
てか……痛い。
本当にこれは女子高生のパンチなのかという程凄い威力だ。
「 愛宮さん、なんでこんなことを……」
ドゴッ!!
愛宮さんに話し掛けるが真顔で無視され、またしても顔面を殴られた。
そして数分が経ち……。
ドガッ!! バゴッ!! ドゴッ!!
気が付けば僕は仰向けに寝転び、僕の腹部に跨った愛宮さんに顔面を殴られ続けていた。
さらに数分が経ち、僕を殴り続けていた愛宮さんが立ち上がった。
「 紫電君、次はちゃんと私の事を振ってね」
愛宮さんは僕にそう言って屋上を去っていった。
…………。
何が起きたのか……何でこんな事になったのか……。
そして何より、愛宮さんは何がしたかったのか……意味が分からない……。
僕は愛宮さんに何度も殴られ、口は切れて鼻血も出ている。
「 愛宮さんについて今ここで考えても仕方ないし、教室に戻ろう。もうすぐ授業が始まっちゃうし……」
僕は顔の痛みを堪えながら教室に戻った。
教室に入ると僕の顔の傷を見た生徒たちから声が上がる。
「 早速イズナさんにやられたね〜」
「 転校生もかわいそうだな」
「 やっぱこうなるよな」
そんな声が周りから聞こえてくる。
この反応からすると、周りの生徒たちはこうなる事が分かっていたかのようだ。
僕はとりあえず席に着くが、隣の席の愛宮さんは特に目を合わそうとしない。
さっきあんな事があったのに無反応だ。
僕はその後、愛宮さんの事を考えながら午前の授業を終えた。
そして昼休み……。
本当は同じクラスの生徒に愛宮さんの事を聞きたかったのだが、陰キャの僕にそんな事出来るわけがない。
とりあえずお昼だし購買にでも行って何か買おうかな。
僕が席を立ち上がろうとすると、一人の男子生徒に声を掛けられた。
「 転校生君! ちょっといいですか?」
僕に声を掛けてきたのは、おかっぱヘアーに丸メガネをした見た目がガリ勉君の男子生徒だ。
「 僕は
「 う、うん、よろしく」
自己紹介をした山君はテンションが妙に高く少し戸惑ってしまった。
「 それで山君、僕に何か用かな?」
僕は山君に尋ねた。
「 いやですね、君を一目見た時、僕と同じ陰の気配を感じましてね〜。ぜひお友達になれたらなと思いまして!」
なるほど……。
要は自分と同じで陰キャだから仲良くなれると思ったのか。
なんて失礼な奴だ。
だが山君、君は正しい。
それに友達ができるのはいい事だ。
それに愛宮さんの事も聞けるしな。
「 いいよ、ぜひ友達になってくれ。むしろ今まで友達なんていなかったから助かるよ」
「 ほんとですかい!? いや〜ありがたいですな。僕も友達がいなくてね〜」
山君もか。
何はともあれ僕に友達ができた。
ならば今やるべき事はひとつ……。
「 あのさ山君。愛宮さんについて聞きたいんだけど…… 」
僕の問いかけに山君はメガネを少し上げ、話し始めた。
「 今朝いきなりあんな事になってはそりゃあ気になりますよね〜。いいでしょう、僕が説明してあげます……愛宮泉菜の事を……」
「 ありがとう」
「 では順番に話をしていきましょう。まずは愛宮泉菜。彼女はこの学校では通称 "告白中毒のイズナ" と呼ばれています」
「 告白中毒? 何それ?」
「 愛宮泉菜……彼女は異性に告白し、振られる事で快感を感じる超絶サイコなんです!」
「 ……は?」
意味が分からない。
それが僕の素直な感想だ。
「 紫電君の気持ちも分かります。マジで意味分かんないですよね? でも彼女は何度も異性に告白し何度も振られる事で悦びを感じる狂人なんですよ。それは紛れもない事実。何度も告白する事からついた異名が "告白中毒" 。それが愛宮泉菜です」
「 なるほど……。理解はできたけど意味は分からないな」
「 同感です……」
まさかこの世にそんなサイコ野郎が存在したなんて。
おまけに愛宮さんの場合はスタイルも良く顔立ちも整っているから余計にタチが悪い。
山君はさらに愛宮さんについて話を続ける。
「 そして愛宮泉菜の厄介なところは告白して振らなかった場合です」
「 振らなかった場合……。そういえば僕も考えさせてくれって言って、キッパリ振らずに返事を保留にしたな……」
「 愛宮さんは告白後、自分の事をキッパリ振らないと、その相手を一方的にボコるんです」
「 イカれてんな」
「 同感です……」
それで僕はボコられたのか。
もはや理不尽だな。
「 というわけで紫電君、今後も愛宮さんに告白される事が何度もあると思いますが、すぐに振ってください。彼女は女子高生とは思えない程強いんです。腕に自信のある不良ですら一方的に倒してしまうくらい強いんですよ」
「 とんでもない化け物だな……」
「 そうなんです。だから……」
「 山君……」
僕は山君の言葉を遮った。
"告白中毒のイズナ" ……。
とんでもないイカれ野郎だ。
勝手に告白してきて振られないと、その相手を一方的にボコる……。
ふざけんな!!!!
僕はそんなイカれ野郎、"告白中毒のイズナ" を絶対に許せない。
その一番の理由は……。
「 山君……。僕は愛宮泉菜が許せない……」
「 え?」
「 僕は人生で初めて告白されたんだ。人生で初めてだぞ? それがあんなめちゃくちゃな告白でおまけにボコられる? ふざけるな! 僕は絶対に愛宮泉菜を許さない!」
「 紫電君……」
「 僕は決めたよ。あいつは好きでも無い相手に告白して勝手に振られて喜んでる。なら、好きな相手から振られたとしたらどんな反応になるんだろうな?」
「 そ、それってどういう……」
山君は少し困惑した表情を見せた。
僕はそんな山君にハッキリ言った。
「 愛宮泉菜を僕に惚れさせて本当の告白をさせてやる! そして愛宮を思いっきり振ってやる! その時の愛宮の表情が楽しみだよ……」
「 紫電君……君はなんて恐ろしい人なんだ……」
こうして僕の新たな学校生活が始まったのだ。
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