天才ラッダ・ダメラッダ 〜量子力学的観測〜

キッテル・ユウ

①ラッダの第一法則

(ニールス・ボーアは何を成し遂げたか!)


(原子模型において、原子核の周りをまわる電子は離散的なエネルギー状態にあり、特定の軌道を周回する)


(つまり、極限まで縮小した世界では、なめらかなグラデーションが存在しないということか!)


(将来、我々がオングストローム単位の身長を持ったとき、世界はまるで4ビットの色彩を放つ、質素な景色を目の当たりにすることになるだろう!)



ラッダは、著名な量子力学者の書いた『ミクロな世界 〜形而上学的量子力学〜 第13版』をゆっくりと閉じた。


この本は分厚い。


ラッダのわずかなグリア細胞を含んだ脳みそでは、読み終わるのに数光年はかかるだろう。


ラッダは、この分厚い鈍器を合板でできた机の端に寄せ、席を立った。


たった2畳しかない物置部屋にラッダの部屋はあった。北向きに位置したこの部屋は、カビの匂いで満ちあふれ、4時間も吸えば、たちまち咳が止まらなくなるというおまけ付きである。


グ〜


「どうやら私はお腹がすいたようだ」


ラッダは、自分の空腹状態を観測し、波動関数の収縮ならぬ、胃の筋肉の収縮を知覚した。


「よし!今日の夜飯は、超ヒモとしよう!」


キッチンに向かったラッダは、引き出しから調味料とスパゲッティを取り出し、調理台に置いた。


"超ヒモ"を構成する基本的な要素は、茹でたスパゲッティ、ベーコン、バター、牛乳、卵、こしょう、粉チーズである。


これらを全てフライパンの中で混合し、加熱しながら撹拌することで、カルボナーラが完成する。


最適な加熱温度と時間は、シュレディンガー方程式ならぬ、"カルボナーラー方程式"を用いることで、スパゲッティに対する"ウマミ固有値"が求められる。


ラッダは、器に盛り付けたカルボナーラを片手に、井戸型ポテンシャルを横に倒したような長方形の廊下を渡って、部屋に戻った。


カルボナーラが放つ熱々の黒体放射を逃さないよう、顎の運動量Pを急増し、早急に体積V=0の胃の中に放り込んだ。


すると、定常状態だった脳では、たちまち血糖値が上昇し、脳細胞エネルギー固有値が基底状態へと遷移し始めた。



ラッダの人生はこれから始まる。


こうして、まだ見ぬ不確定な将来を空想しながら、シュレディンガーの猫ならぬ、シュレディンガーのラッダとしてゆっくりと眠りについたのであった。


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※理系のため、熟語や言語的表現が間違っている場合がありますが、巨視的な視点で優しくお見逃しください。

※作者は、物理学専攻ではないため、実際の物理用語の意味を完璧に理解しておりません。意味の間違いがあっても、素粒子的ミスだと思ってお見逃しください。

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