第7話 女子大卒業生の就職先

 女学校での授業の翌日は、第二騎士団での授業があった。第二騎士団も王都の郊外にある。


 授業に出てみたら、なんだか人数が少なかった。それをジークフリート第二騎士団長に聞いてみると、戦争で損害を受けた第一騎士団に移動した騎士が結構いるとのことだ。逆に第一騎士団から移動してきた騎士もいるのだが、どっちにしろ騎士団全体で人員不足に陥っているという。

「ま、国は守れたんだから、文句は言えませんがな」

 ジークフリート様は明るく言う。

「聖女様があらかじめ、各騎士団でのカリキュラムを厳密にそろえておいていただきましたから、算術の学習には支障はありません。さすがです」

 褒められても嬉しく無い。騎士団間で人事異動して戦後の人的バランスをとっているのは理解できる。その結果として私の授業の受講者が減っているということは、それは第一騎士団の戦死者に他ならない。せっかく教えた騎士たちも多数戦場の露なってしまった。私はヘルムスベルクで毎夕行った葬儀を思い出した。そのとき知った顔を送るのは辛かった。

 ジークフリート様は私の顔色をみていたのだろう、言葉を継いだ。

「聖女様、逝ってしまった者たちは残念ですが、彼らは使命を果たしたのです。生き残った私達が笑顔でいるためです。そのことだけはお忘れなきよう」

「はい、申し訳ありません」

 もし魂があるのならば、私達がいつまでも悲しんでいたら死者の魂はいつまでも天界へと行けないだろう。心をしっかり保たねば。

 しかし私は気づいたことがあった。

「ジークフリート様、騎士団もそれなりに事務仕事がありますよね」

「あるどころか、騎士団は書類で戦う、という言葉もあるのですよ。一つなにかやろうとするじゃないですか、計画書をつくり、予算を申請し、報告書をつくり、精算する。聖女様はヘルムスベルクで補給を担当されたんですから、実際に戦う者よりもずっと多くの後方支援の人間が必要なのはご存知でしょう」

「そうするとですよ、もし女性の事務官が騎士団に来たら、戦闘に投入できる人員が実質的に増やせますよね」

「それはありがたい、女学校からですか」

「いえ、女学校は普通学ばかりで実学はほとんどやっていません。ですから転職者だけですね」

「ではだめではないですか」

「私としては、将来的にそう言った女性を養成できないかと考えています」

「さすが第三騎士団育ちですね」

「ははは、そうかも知れませんね。文官として女性の採用が可能ではないかと思います」

「私としてはなるべく早い補充を希望します」

「努力いたします」


 第三騎士団をのぞくと、騎士団での女性の仕事は下働き程度に限られている。女子大卒業生の就職先の候補として騎士団はありだな、と私は思った。


 第二騎士団で昼食をとったあと、近衛騎士団に向かう。フィリップ、ケネス、マルスが詰めているし、政治の世界からは独立しているので打ち合わせには都合がいい。しかも王宮にも近いから、ステファンの意見を聞きたいときも魔法の伝書鳩がすぐもどってきて便利だ。

 馬車で移動するのだが、近衛騎士団が近づいてくると景色が都会になってしまって季節感が減ってくる。

「なんか王都の中に入ると、景色がつまらんね」

と口に出してみたのだが、仲間たちの反応は薄い。

「そんなもんかね」

とワクワクした顔で言ったのはヘレンだ。ネリスもフローラも顔が明るい。

 そうなのだ。打ち合わせとはいえコイツらはそれぞれの彼氏に会うわけだ。うらやまけしからんがそれを口に出すとみんなシュンとしてしまうのがわかりきっている。だから我慢していると、ネリスに言われた。

「聖女様、口がとんがっておるぞ」

 やばい、不満があるときのクセが出てた。

「ごめん」

 フローラが手を伸ばして、私のとんがらせた唇をつまんだ。

「やめてよ」

 自然と笑いが出た。


 近衛騎士団につくと、いつも応対してくれる騎士ルーカスが案内してくれた。

「みなさん、すでにお待ちです」

 

 廊下を歩いていくと、フィリップの話し声が聞こえてきた。

「そのさ、なんでもメイド姿で熱弁してたらしいんだよ」

「先輩、それは見たかったですねぇ。聖女様だけですか?」

「いや、4人ともメイド服着てたらしいよ。もう一回着てくんないかな」


 大体わかった。秋にケネスを探すためネッセタールに行こうとしていたのだが、私達の身分を秘匿するため、ヴェローニカ様をお嬢様、私達はおつきのメイドになることにしていた。ヴェローニカ様がメイド服を着慣れろとおっしゃるので着ていたのだが、そのとき戦争の可能性を検討していたのだ。可能性がかなり高いと判断した私は、国防のトップたちを呼びつけ、なりゆきでメイド服のまま戦争の話をしてしまったのだ。


 私はドカドカとその部屋に入り、言った。

「私は二度と着ない。万が一着ることがあったとしても、あんたたちには見せない!」

「はいはーい」

 男子たちは歯切れが悪い。私達もコイツらもなまじ前世の知識があるものだから、「萌え萌え」を連想してしまって恥ずかしくてしかたがない。女子はみんなそうだろうと思っていたら、ネリスが小声でヘレンに聞いていた。

「あれ、どこにしまったかの?」

「うーん、フローラ、覚えてる?」

「ああ、ちゃんとしまってあるよ。ヴェローニカ様も着たかったら着ていいって言ってた」

 呆れた私は言っておく。

「着たいならあんたらだけで着なよ。私はヤだからね!」

 なんか私は6人を敵にまわしてしまった。

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