異星メカニクス - 貞操逆転の宇宙戦記

第27話 オリヴィアの計算された敗北

　戦いが終わり、オリヴィア・セリーヌ・ヴァンガードがアラタの軍門に降ることを宣言してから数日が経過した。

　女王レイナ・アラタは、オリヴィアの降伏が単なる敗北ではなく、より複雑な意図を持っていたのではないかと感じていた。

　彼女はただの捕虜ではなく、何かしらの目的を持ってアラタ王国に自らを差し出したように見えた。

　アラタ艦隊の勝利は明らかで、オリヴィアの旗艦「ヴァルキュリア」は機能を停止し、彼女の艦隊も次々に降伏した。

　戦後処理が進む中、女王レイナはヴァンガード王国に向けて、オリヴィアを王族として人質にし、賠償金を求める正式な通達を送った。

「ヴァンガードの王族は、アラタ王国に対して責任を負わなければならない。彼女の軍事行動に対する賠償を請求するわ」

　女王は冷静にそう告げ、外交的な手続きを進めた。

　しかし、ヴァンガードからの返答は、予想外のものだった。

　数日後に届いた文書には、オリヴィアに対する驚くべき言葉が記されていた。

「オリヴィア・セリーヌ・ヴァンガードは、すでに王族の一員としての地位を剥奪されています。彼女はヴァンガード王国を代表する者ではなく、無許可で軍を動かした戦犯である。したがって、彼女の行動についてヴァンガードは一切関知しない」

　その文書を読んだ瞬間、女王は言葉を失った。

　オリヴィアが王族としての立場を失っていたことも、彼女が単独でこの戦争を仕掛けていたことも、まるでアラタ王国を巻き込むための計画のように見えた。

「オリヴィアは…戦犯として見捨てられたというの？」

　カイもその返答に驚きを隠せなかった。

　オリヴィアは自分の意志で軍を動かし、アラタに降伏したということになる。彼女はヴァンガードを背負っていないのだ。

　オリヴィアは敗北したが、彼女の戦いぶりは明らかに計算され尽くしていた。

　彼女はアラタに多大な被害を与えず、巧妙にその攻撃を抑えた。アラタの被害は最小限に抑えられ、あたかも彼女が意図的にそれをコントロールしていたかのようだった。

「どうして…オリヴィアは、あんなに戦闘技術に優れていたのに、なぜ本気でアラタを攻撃しなかったのか？」

　カイは、オリヴィアの行動に対して疑問を抱き始めた。

　彼女の技術は確かに素晴らしかった。

　エースパイロットとしての実力だけでなく、艦隊を指揮する艦長としても抜群の能力を発揮していた。

　しかし、彼女があえてアラタに甚大な被害を与えることを避けていたように見える点が、不自然だった。

「もしかして、オリヴィアは初めから勝つつもりはなかったのかもしれない…」

　エリスが冷静に分析した。彼女の言葉に、カイも思い当たる節があった。

「そうだ。オリヴィアは、最初から自分の敗北を計算に入れていたんだ。自分が敗れることを想定しつつ、最小限の被害を与えることで、こちらに有利な立場を示したかったんじゃないか？」

「そうだとしたら…オリヴィアは何を求めているんだ？」

　ライラが不安そうに問いかける。フェイも心配そうにその場を見つめていた。

「オリヴィアは、勝てばヴァンガードの英雄として迎えられ、アラタ王国を制することができたはず。でも、負けた場合でも彼女には手段があった。自分を戦利品として差し出すことで、アラタに対しても自分の優秀さを示し、ただの敗者ではなくなることができる」

　カイはそう結論付けた。

　オリヴィアの敗北は、単なる負けではなかった。彼女は自らの敗北すらも計算し、自分自身をアラタの「勝利の象徴」として差し出していたのだ。

「だからこそ、ヴァンガードは彼女を見捨てたのか。彼女が負けても、ヴァンガードには損害はない。オリヴィアは勝っても負けても、リスクを負わずに自分の地位を確保しようとしていたんだ」

　クレアが呟いた。オリヴィアの行動が徐々に明らかになり、皆がその巧妙な計略に驚きを隠せなかった。

「私がアラタに降伏したのは、ただ負けたからではありません。私自身が、アラタの未来に貢献できると思っているからです」

　オリヴィアは冷静にそう言い放った。

　彼女はカイ王子の前で堂々と自らの意図を明かした。

　彼女は負けて、ただ捕虜としてアラタに従うのではなく、自らが役立つ存在であることを証明しようとしていた。

「カイ王子、私はあなたに敗れましたが、私にはまだ価値があります。アラタのために、私を利用してください」

　彼女の言葉には、自信と誇りが込められていた。

　敗者でありながらも、オリヴィアは自分自身をただの戦利品とは見なさなかった。彼女は、アラタ王国の未来にとっても重要な存在となることを望んでいた。

「つまり、オリヴィアは自らを嫁入りの道具として、アラタに差し出したということか…」

　カイはその事実を噛み締めながら、彼女の申し出をどう受け止めるべきか悩んでいた。

　オリヴィアの計算された降伏は、単なる敗北ではなく、アラタ王国にとっても新たな局面を迎えることを示していた。