第23話 隣国からの宣戦布告
パイロット選手権が終わり、静けさが戻ったはずのアラタに、突然不穏な知らせが届いた。
朝の会議室に呼び出された。
僕は、専属パイロットとして任命されたライラ、エリス、フェイ、シラユキの四人と、今後の話し合いをしている時だった。
そのとき、報告の使者が慌ただしく部屋に駆け込んできた。
「カイ様、大変です! 隣国ヴァンガードからの宣戦布告がありました!」
「なっ!?」
その言葉に僕たち全員が凍りついた。
隣国ヴァンガード――あのオリヴィア・セリーヌ・ヴァンガードが属する国だ。
まさか、パイロット選手権の直後にこんな事態になるなんて、誰も予想していなかった。
「内容を報告しなさい」
会議室にたどり着いた僕たちを迎え、女王の冷静で強い声が響き渡る。
使者は震える声で、宣戦布告の内容を伝えた。
「隣国ヴァンガード王家より、カイ王子を差し出すか、さもなくばアラタを明け渡すよう要求が届いております。期限は一週間以内、さもなければ戦争になるとのことです!」
僕はその報告を聞いて、一瞬言葉を失った。
オリヴィア王女様、彼女はあの運動会でのプロポーズを断られたことで、こんな極端な手段に出たのか。隣国全体を巻き込んで、僕を求めるなんて…。
「そんな、オリヴィア王女がそこまで…」
女王は深いため息をつき、椅子に座り直した。
その瞳には怒りが宿っているが、冷静さを保とうとしているのが伝わった。僕は自分の無力さに、どうすることもできず、ただ女王の判断を待っていた。
「オリヴィアは、本気でカイを奪おうとしているのか…」
ライラが腕を組み、眉をひそめた。
「確かに、彼女はパイロットとしての実力も優秀だったけど、戦争を仕掛けるなんて…」
エリスも冷静に状況を見つめていたが、どこか信じられない様子だ。
フェイは明らかに不安そうな顔をして、言葉を詰まらせている。
「…これは非常に厄介な状況ですね。どうすれば…」
フェイがぽつりと呟く。その時、シラユキが無表情で静かに口を開いた。
「これはすでに個人的な問題ではなく、国を巻き込んだ問題です。彼女の要求は一見強引ですが、ヴァンガードはそれほど強力な軍事力を持っています」
その冷静な分析に、僕は再び現実の重さを感じた。
オリヴィア王女が個人的な感情だけで戦争を仕掛けるわけがない。隣国ヴァンガードの王家としての誇り、そして彼女自身の野心が背後にあるはずだ。
「オリヴィアの母親もこの動きに賛同しているのでしょうか…?」
僕が疑問を口にするが、答えは見つからなかった。
オリヴィアが王族の名の下に行動している限り、国としての決断はすでに固まっているに違いない。
「女王様、どうされますか?」
僕は不安な気持ちを抑えながら、母上に視線を向けた。
母上はしばらく無言で考えを巡らせていたが、やがて立ち上がり、鋭い目で使者に命じた。
「使者よ、ヴァンガードに伝えなさい。我がアラタはそのような脅しには屈しない。カイを渡すことも、アラタを明け渡すことも絶対にあり得ない。徹底的に戦う覚悟があると」
母上の言葉に、僕の心は大きく揺れ動いた。
女王の決断はまったく揺るがない。僕を守るために、アラタ全体を巻き込んで戦うことも辞さないという覚悟が、そこには込められていた。
「ですが…母上…僕のせいで戦争が起きてしまうなんて…」
僕は胸の中でくすぶる不安を吐き出した。母上の決断が正しいことは理解しているが、隣国との全面戦争は避けられないことを思うと、罪悪感が押し寄せてくる。
「カイ、これはお前のせいではない。これはヴァンガード王家が我々に対して宣戦を布告したという事実。それに屈してお前を渡せば、我が国の誇りは地に落ちる。それだけは許されない」
母上の言葉は確かにその通りだが、僕はどうしても心の中の不安を拭い去ることができなかった。
オリヴィア王女が本当にこれを望んでいるのか、それとも何か別の思惑があるのか。どちらにしても、戦争は避けられそうにない。
「隣国に対して防衛体制を整えるよう、すぐに手配を進めるわ」
女王の強い指示が飛び交う中、僕は胸の奥に抱くこの複雑な感情をどう処理すればいいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。
僕のために戦争が起こるという現実に、何もできない自分がもどかしく感じた。
「…本当にこれでいいのか、オリヴィア…」
僕の心は、どうしようもない不安に包まれながら、オリヴィア王女の思惑を考え続けていた。
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