第9話 母との食事

 試運転が終わり、僕は一旦コクピットから降りたものの、心の中で何かが引っかかっていた。動かしてみたことで分かったことがある。


 修理した魔導ロボットは確かに動作したし、武器も正常に作動した。

 しかし、いくつかの点で不安を感じたのだ。


「もう少し改良が必要だ…」


 僕は独り言のように呟きながら、再び機体を見上げた。


 外見は完璧だが、内部構造にまだ手を加えられる余地があるように思えた。


 特に、魔力の流れやエネルギー効率、さらには機体のバランスに関して、改善の余地があるのではないかと考え始めた。


 その考えが頭に浮かぶと、いてもたってもいられなくなり、すぐに設計図を取り出して見直しを始めた。

 

 地面に広げた設計図を前に、僕はペンを片手に真剣な表情で睨みつけるようにして考え始めた。


「ここをもう少し軽くすることで、バランスが良くなるはずだし…魔力の流れをもう少し均一にするためには…」


 僕はペンを走らせながら、次々と改善点を設計図に書き込んでいった。


 頭の中では、さまざまなアイデアが浮かび、それをどう実現するかに集中していた。


 その時、リンさんが僕の隣にそっと近づいてきた。


「カイ、何をしているの?」


 僕は設計図から目を離さずに答えた。


「リン、この機体、まだ改良できると思うんだ。試運転で分かったんだけど、エネルギー効率がまだ改善できそうだし、機体のバランスももっと良くできるかもしれない。ここをこうすれば…」


 僕が設計図で書き込んでいくと、リンさんは少し驚いた様子で目を見開いた。


「そういう視点で見るなんて…確かに、言われてみればその通りね。私も気づかなかった部分だわ」


 リンは僕の指摘に賛同し、すぐに設計図を覗き込みながら、僕と一緒に改良点を考え始めた。


 二人で意見を交わしながら、どの部分をどう改良すれば効果的かを真剣に議論した。


「例えば、ここを少し軽量化するために、別の合金を使ってみるのはどうかしら?」


 リンが設計図の一部を指しながら提案した。


 僕はそのアイデアに目を輝かせて頷いた。


「そんな合金があるの?! そうか、僕の知らない素材が存在するなら可能性は無限大だね。その素材はどんな素材なの?」

「今使われているものよりも強度は落ちんだけど、柔軟性がある素材ね」

「実際に使ってみないとわからないね。それが使えるなら機体のバランスも改善できるし、エネルギー消費も抑えられるかもしれない! 他にも、魔力の流れを調整するために、魔導回路の配置を少し変えるとか…」


 二人で考え込んでいると、いつの間にかライラ、エリス、フェイの三人のパイロットがやって来て、僕たちを見つめていた。


 ライラがため息混じりに笑いながら言った。


「もうカイってさ、試運転が終わったばかりなのに、また改良を始めるなんて。本当に好きだよね」

「でも、確かにカイの言う通りだわ。私たちが操縦する以上、少しでも機体が良くなるなら、その方が助かるし、安全性も高まるもの」

「そうだね。せっかくここまでやったんだから、最後まで完璧に仕上げたいよ。私たちも手伝うね!」


 僕は幼馴染三人の言葉に感謝する。

 パイロットである三人が協力してくれるなら、変化も見られるし、違和感に気づく確率も上がるだろう。


 それに、それぞれの戦い方が違うのも、重要かもしれない。


 ライラは、火の剣を作り出して近接戦闘が得意だ。

 エリスは、水の魔法を鞭として生み出すけど、形を自在に変えて魔力のコントロールが得意だ。

 フェイは、風の矢を作り出して弓として遠距離から攻撃するタイプだ。


「ありがとう、みんな。これでさらにいい機体に仕上げるために、力を合わせようね」


 僕が笑いかけると四人は顔を真っ赤にして笑顔になってくれる。


 うーん、一年間一緒にいても、彼女たちの男性への免疫力はなかなか上がらない。


 四人とも美少女で、タイプは違うけど魅力的なのにな。


 僕は貞操逆転世界の不思議にも興味を感じながら、試運転で得たデータを基に、魔導ロボットのさらなる改良に取り組むことにした。


 ♢


 その日の夜、僕は母上と一緒に食事をしていた。豪華なダイニングルームで、母上は優雅に食事を取りながら、僕に微笑みかけた。


「カイ、今日はどうだったの? 魔導ロボットを修理して、試運転をしたのでしょ?」


 僕はフォークを置いて、母上に向かって頷いた。


「はい! 無事修理は完了しました。だけど、まだ改良の余地があると思います! リンや研修生のみんなと一緒に、もっと良くするための研究を始めるつもりです!」


 母上は僕の言葉一つ一つ微笑みながら聞いてくれていた。


「そう、あなたが何かに興味を持って頑張ってくれているのはとても嬉しいわ。でも、無理はしないでね」


 母上の優しい言葉に、僕はほっとした気持ちになった。

 食事をしながら、僕は母親に色々なことを聞いてみることにした。


「母上、この星を支配するって、どういうことなのですか?」


 転生した世界は、星一つが国のような扱いで、星々を宇宙船で移動して交流をもつ。実際は、星だけでも食事や医療も発展して生活は成り立っているけど、交流を持たない星は、他の星から戦争を仕掛けられて植民地かされてしまう恐れがある。


 襲撃を受けた際に互いに干渉していなければ守り合うこともないが、交流を持っている星同士は助け合いを行うので、星同士も交流が必要ということだ。


 母上は少し考え込むようにしてから、静かに答えた。


「そうね…この星の支配者であることは、ただの権力や地位ではないの。多くの人々の生活を守り、導く責任があるのよ。この星にはたくさんの人々が住んでいて、彼らの生活を豊かにするために、私は毎日働いているの」


 僕は母上の言葉に耳を傾けながら、自分がいずれ果たすべき役割についても考えた。僕はまだ若いが、いずれこの星の未来を背負うことになる。


 多分、母上は妹を産んで後を継がせると思う。


 だけど、僕も王子として出来ることがあるかもしれない。


 そのために、今のうちから多くのことを学び、準備を整えていく必要があるのだ。


「母上、僕ももっと色々なことを学んで、この星を守る力をつけたい。今はロボットの修理や魔法を学んでいるけど、それ以外にもたくさんのことを学びたいんだ」


 母親は嬉しそうに微笑んで、僕に優しく言った。


「カイ、あなたがそう思ってくれることが何よりも嬉しいわ。あなたには無限の可能性があるの。だから、自分のやりたいことを見つけて、それを大切にしてね。ふふ、うちの子は天才ね」


 そう言って母上は僕の元にやって来てギュッと抱きしめてくれる。

 一年が経ったことで前世のことは記憶として定着をして、今の年齢に感覚は引きずられている。


 だから、母上に抱きしめられることを嬉しいことだと素直に思えるようになった。


 だけど、他の女性たちが男性のように無神経なところがあるので、ドキッとさせられるのは困るんだよね。


 食事をしながらのんびりとした会話が続き、平和で穏やかな時間が流れている。


 この世界が平和であることを願わずにはいられない。


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