第8話 試運転
朝の空気は冷たく、頬に触れる風が心地よかった。空は澄み渡り、雲一つない青空が広がっている。
今日は特別な日だ。
僕が一年かけて修理してきた魔導ロボットを、ついに試運転する日がやってきたのだ。
早朝、誰もまだ起きていない時間に僕は目を覚ました。
心臓が高鳴っているのを感じながら格納庫へ向かった。足取りは軽く、全身が緊張と興奮に包まれていた。
これまで積み上げてきた努力が実を結ぶ瞬間が、すぐそこにある。
格納庫に着くと、修理を終えた魔導ロボットが静かに佇んでいた。
誰もいない静かな格納庫に僕一人だけ。
僕をずっと待っていた。その機体は朝の光を浴びて輝いていた。
深いブルーとシルバーの装甲が、朝日に反射して美しく光り、その姿はまるで新品同様だった。
「やっとここまで来たんだ…」
僕は機体を見上げながら、小さく呟いた。
これから始まる試運転が成功するかどうかは分からないが、自分の手でここまで修復できたことに誇りを感じていた。
「よし、やるぞ!」
僕は自分を奮い立たせ、梯子を使ってコクピットに向かう。
機体の内部に入ると、操作パネルが整然と並び、そのすべてが完璧に整備されていることを確認した。座席に腰を下ろし、深呼吸をして心を落ち着かせる。
「さあ、始めよう」
僕は手を伸ばし、まずは魔導ロボットを起動させるための最も重要な作業に取りかかった。
魔導ロボットは、単に機械的な動力で動くわけではなく、パイロットの魔力を機体に流し込むことで初めて動き出す。
僕は集中して、自分の魔力を操作パネルの接続部に向けて送り込む準備を整えた。
「これが…僕の魔力」
深呼吸をして集中し、体の中に流れる魔力を感じ取る。
僕の体内で渦巻くエネルギーが、手のひらを通して操作パネルに伝わり、機体内部の魔導回路を通じて全身に行き渡っていく。
魔力が機体に流れ込むにつれて、ロボット全体がかすかに震え、低く唸りを上げ始めた。まるで、血が流れて躍動するように、命を授かるように。
「うまく…いってる」
モニターには、魔導回路が正常に機能し、機体に魔力が充填されていく様子が表示されていた。
全てのエネルギーラインが正常に作動し、各部が次々と点灯していく。
操作パネルにも、システムの起動を知らせる表示が浮かび上がった。
「これで…動くだけだ」
僕は魔力に自分の意志を伝える。
慎重に操作を始めた。
ゆっくりと歩くように魔力を動かして、魔導ロボットがかすかに揺れ、次の瞬間、巨大な足がゆっくりと動き始めた。
魔導ロボットの全身に魔力が行き渡ったことで、機体が生きているかのように反応したのだ。
「動いた…!」
コクピット内のモニターが周囲の風景を映し出し、機体が確実に動いていることを確認できた。
僕はさらに操作を続け、両足を交互に動かして歩かせてみた。
機体は滑らかに動き、まるで自分の意志に応えているかのようだった。
格納庫の中を倒れることなく歩き出す。
「すごい…本当に動いてる!」
驚きと興奮で胸が高鳴るのを感じながら、機体をさらに操作した。
僕は次に上半身の動きを試すために腕を動かしてみる。
右腕をゆっくりと持ち上げ、左右に旋回させると、その動きはまるで自分の手足のように自然だった。
「これなら、行ける!」
僕は心の中でそう確信しながら、機体の性能に満足感を覚えた。続けて武装のチェックをすることにした。
魔導ロボットは、パイロットによって武装が変わる。
つまりは、パイロットの魔力によって武装は変わる。
魔力を魔道回路に流し込む。
手に真っ黒な塊が作り出されて、大きな鎌が生まれる。
「鎌?」
漆黒の鎌を振るうと、外に用意された的は跡形もなく消え去り、その威力に僕は思わず息を呑んだ。
「えっと…成功だよね?!」
爆風が治ると、リン、ライラ、エリス、フェイがやってきた。
皆が僕の試運転を見届けようと早朝から駆けつけてくれたのだ。
「カイ! 本当に動いてる! すごいじゃない!」
ライラが興奮気味に叫びながら手を振ってくれた。
エリスもいつもクールな顔から、微笑みながら頷いていた。
フェイは感心した様子で僕を見つめていた。
リンが、僕の機体を見上げながら誇らしげに言ってくれた。
「カイ、あなた本当に素晴らしいです。ここまでやり遂げたこと、私たちも誇りに思います」
僕はコクピットの中から微笑み返し、機体を停止させた。
魔力を全てオフにし、コクピットの扉を開けて外に出た。
「皆、見てくれてありがとう。これで修理は完全に成功だよ」
僕の言葉に、ライラが駆け寄ってきて、力強く僕の肩を叩いた。
「さすがカイ様! これで一緒にパイロットになれるね!」
「本当に…ここまでやるなんて、カイ様はやっぱりすごいわ」
フェイも静かに微笑んでくれている。
リンは最後に、僕の肩に手を置き、優しく言ってくれた。
「これからも学び続けて行きましょう。カイ、あなたならきっともっと凄いことができます」
僕は頷き、胸に湧き上がる新たな挑戦への意欲を感じながら、皆と共にこれからの未来に向けて歩みを進めていく決意を新たにした。
何よりも、魔導ロボットは楽しい。
もっと色々な可能性があるように感じられる。
「そうだ、リン。ここがね。もっと改良した方が良いと思うんだ」
「どこですか?」
僕は早速、整備士であるリンに自分が操作して気づいたことを報告することにした。
旧型の廃棄された魔導ロボットではあるけど、これはどの魔導ロボットにも精通しているんじゃ無いかと思えた。
もっと、効率よく魔導ロボットを滑らかに動かす方法を編み出したい。
それには俺の前世の知識が使えるはずだ。
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