第6話 学びと実践の狭間で


 格納庫で廃棄された魔導ロボットと向き合う中で、僕は一つの大きな壁にぶつかっていた。


 それは「魔導」というこの世界独特の概念だ。


 魔導ロボットの修理を進めるためには、機械だけでなく、魔導と呼ばれる力を理解しなければならない。


 だが、僕にはその知識が圧倒的に不足していた。


「魔導って、一体何なんだろう…?」


 僕は図書室で見つけた魔導に関する書物を読み進めた。


 そこには、魔法と魔導の関係について説明されていた。


 この世界には、文字通りの魔法が存在する。


 魔力を持つ者がその力を発揮し、現実を操作する能力だ。


 そして、その魔法を科学技術として体系化し、機械に組み込んだものが「魔導」というわけだ。


「魔法を…科学として使うなんて…!」


 僕はその事実に驚きと興奮を覚えた。


 前世では夢物語でしかなかった魔法が、この世界では現実のものとなり、さらにそれが科学と融合している。


 魔導ロボットが動くのも、この魔法と科学の融合によるものだったのだ。


「もっと知りたい…魔法と魔導の全てを…!」


 僕はすぐに母親のもとへ駆けつけ、魔法と魔導についての講義を受けたいと願い出た。母親は、僕の意欲に目を輝かせながら賛同してくれた。


「カイ、あなたがそこまで興味を持っているなんて、私も嬉しいわ。魔法と魔導についての先生をお呼びしましょう。きっとあなたにぴったりの先生が見つかるはずよ」


 数日後、母親が手配してくれた先生が、格納庫で出会ったメカニックのリン・カーターだった。


 彼女は若いながらも、魔導技術に関して天才と呼ばれる存在で豊富な知識を持ち、その上で実際に機械を扱っている人物だ。


 さらに、この機会に一緒に学ぶ者がいた方が良いと研修中だったパイロットのライラ・マルティネス、エリス・マグガレー、フェイ・ハートウッドの三人も、僕と共に学ぶことになった。


 僕たちは四人で、リンから魔法と魔導の基礎を学ぶ日々を過ごすことになった。


「魔導の基本は、魔法の力をいかに効率的に機械に伝達するかにあります」


 リンさんはなるべく難しい言葉を使わないようにして、僕たちに語りかけた。

 彼女は整備服をまとい、手元の資料を示しながら説明を続ける。


「パイロットが持つ魔力を魔導核に送ることで魔導ロボットを動かすエネルギーに変換し、魔導ロボットが動くんです。魔力を供給する役割を持つのがパイロットで、彼らの魔力がロボットに命を吹き込むのです」


 僕はその説明に、さらに深く引き込まれた。


 魔法がそもそもどんなものなのかわからない。


 それを科学的に扱い、さらに機械の動力源として使うという発想自体が、前世の僕には考えもつかなかったことだ。


「でも、どうして魔力が機械に伝わるんだろう?」


 僕はリンに疑問を投げかけた。


 リンは微笑みながら答えた。


「それは、特別な魔導回路を使っているからです。この回路は、魔力を機械的なエネルギーに変換する装置で、これを通じて魔力が機械に伝わり、魔導核に伝わることでロボットが動くんです」

「すごい…本当に魔法と科学が一体化してるんだね」


 つまり、パイロットの魔力がガソリンで、魔導核がエンジンということかな? 僕が感心していると、隣にいたライラが手を挙げて言った。


「でも、パイロットが持つ魔力って、どれくらい重要なの?」

「とても重要です。パイロットの魔力が強ければ強いほど、魔導ロボットの性能も向上します。逆に、魔力が不足するとロボットは動かなくなるか、暴走する可能性もあります」


 エリスはその説明を聞いて、真剣な表情で口を開いた。


「だから、私たちパイロットは、魔力のコントロールを徹底的に訓練する必要があるのですね」


 フェイも、頷きながら感心するように言った。


「そして、機械と魔力のバランスを取ることが、魔導ロボットの操縦において最も難しいところなんだ!」


 僕は三人のパイロットがこの世界でどれほど重要な役割を果たしているのか、改めて理解した。


 彼女たちの魔力がなければ、どんなに優れた機械でも動かないのだ。


「僕も早く魔力について学ばないと…」


 そう思った僕は、さらに勉強に没頭するようになった。


 リンさんの指導の下、僕たちは魔法と魔導の基礎から応用までを学び、実際の機体を用いた実践的な訓練も行うようになった。


 ライラはいつも明るく、学びの場を楽しむような性格で、僕たちのムードメーカー的存在になった。


 エリスは冷静で分析的な視点から学びを深めクールな印象を受ける。


 フェイは慎重かつ丁寧に魔力の扱い方を習得していった。少し臆病なところがあるように感じるね。


 僕たちは次第に、学びの中でお互いの性格や強みを理解し合い、まるで昔から知り合いのような絆を築いていった。


 ある日、リンさんが僕たちに向かって微笑みながら言った。


「みんな、今日は特別なことを教えるわ。魔導ロボットがどのようにして完成するのか、そのプロセスを見せてあげる」


 僕たちは目を輝かせて彼女の言葉に耳を傾けた。

 リンさんは魔導ロボットの設計図を広げ、僕たちにその仕組みを解説し始めた。


「まず、基本となる機械部分を組み立て、それに魔導回路を組み込みます。そして、最も重要な作業が、パイロットがその機体と魔力を同調させること。これがうまくいくと、機体はパイロットの魔力に反応して動き出すのです」

「すごい…これでロボットが完成するんだね」


 僕はリンさんの言葉に感動しながら呟いた。

 

 ライラも興奮気味だ。


「本当に自分たちの力で動かせるなんて、信じられない…!」


 フェイは慎重に設計図を見ながら、困った顔をする。


「この全てが、私たちパイロットの手にかかっているんだね。なんだか怖いな。責任重大って感じ…」

「この工程を完璧にこなすためには、私たちの魔力だけでなく、機体のメカニズムを理解することも重要ですね」


 真面目なエリスの分析して、勉強の意味を理解したようだ。


 僕たちは、この学びを通じて魔導ロボットがどれだけ繊細で複雑なものかを知り、同時にその魅力に取り憑かれていった。


 これからの挑戦が待ち遠しくて仕方がない、そんな気持ちが僕たちの間に芽生え始めていた。 


 魔法と魔導の勉強を始めて数日が経った頃、パイロット候補生たちの間には次第に不満が溜まっていくのが感じられた。机に向かって勉強することよりも、彼女たちは実際に魔法を使いこなす実践に力を入れたいと感じていたのだ。


 ある日、授業が終わった後、ライラが不満そうな顔で口を開いた。


「ねえ、リン先生。確かに魔導の理論とかは大事なんだろうけど、私たちパイロットにとっては、実際に魔法を使って機体を動かす方がもっと重要なんじゃないの?こうやって座って勉強するのも悪くないけど、それよりも実践訓練をもっと増やした方がいいと思うの」


 エリスもその意見に頷いた。


「私もそう思います。理論を学ぶのは確かに大事かもしれませんが、現場での感覚が鍛えられないと、いざという時に対応できなくなるかもしれません」


 フェイは慎重な表情で言葉を選びながらも、二人に賛同しているようだ。


「私たちの訓練時間が減ってしまうのは少し心配です。実際に魔法を使う経験が少ないと、いざという時に魔導ロボットを上手く動かせないかもしれません」


 彼女たちの意見は一理あるように思えた。


 確かに、机上の勉強だけでは実際に魔導ロボットを動かすスキルは身につかないかもしれない。僕もその気持ちは分からなくはなかった。


 しかし、リンさんは冷静に彼女たちの意見を聞いた後、優しく微笑んで言った。


「確かに、実践はとても大事です。でも、実践での成功は、しっかりとした理論的な理解に基づいているのよ。魔法を上手く使いこなすためには、まずその基礎をしっかりと理解しておかないと、いざという時に魔導ロボットが思い通りに動かなくなることもあるわ。感覚だけでやろうとすると、どこかで必ず行き詰まってしまう」


 リンさんの言葉に、ライラたちは少し戸惑ったような表情を浮かべた。


 彼女たちは実戦経験を積みたがっていたが、それだけでは足りないという現実を改めて突きつけられたのだ。


「理論を理解してこそ、実践での成果が得られるんです。だから、今はしっかり勉強して、その上で実践を積むことが大切なんですよ」


 僕はリンの言葉に強く共感した。前世でのメカニックとしての経験から、機械や技術の理論を理解していないと、どんなに実践での経験があっても行き詰まる瞬間が必ず来ることを知っていた。


「僕もどっちの気持ちもわかるよ。理論を学ぶのは大事だし、でも実践で体を動かして覚えることも必要だと思う。だから、僕はどっちもやりたい。魔導の勉強も、魔法の実践も、両方しっかりとやりたいんだ」


 僕の言葉に、ライラたち三人は驚いたように僕を見つめた。


 普段は机の前で勉強することに対して前向きな姿勢を見せる男性は少ない。


 それに加えて、実践にも積極的に取り組みたいと表明する僕の姿勢に、彼女たちは新たな一面を見たようだった。


 ライラは少し考え込んだ後、苦笑いしながら言った。


「カイは本当に真面目なんだね。勉強も実践も両方やりたいなんて、なかなか言えることじゃないよ。私も見習わないとね」

「そうね。勉強をしっかりして、その上で実践も充実させる。それが一番の近道なのかもしれないわ」

「理論と実践、両方大事だもんね。事故が起きるのも怖いし。私たちもカイ様と一緒に頑張ります」


 三人は僕の言葉を素直に聞いてくれる。


 僕らは上手く、バランスが取れていた。

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