第2話 王子としての目覚め
僕は薄暗い部屋の中で目を覚ました。
柔らかなシーツに包まれたベッドの上、窓から差し込む朝の光が部屋を照らしている。前回の目覚めとは異なり、今度は意識がはっきりしていた。
ダルさも感じない。
「ここは…?」
僕は周囲を見回した。
部屋の中には豪華な家具が並び、壁には美しい絵画が飾られている。
見覚えのない場所だが、どこか懐かしい感覚もある。
体を起こそうとしたその時、ドアが静かに開き、一人の女性が入ってきた。
「カイ王子様! お目覚めになられたのですか?!」
驚いた様子で駆け寄ってきたのは、フワフワの栗毛の可愛いメイドさんだった。
彼女は僕のそばに座り、その目には涙が浮かんでいた。
「どうしましょう?! すぐにお医者様と女王様をお呼びしてきます! お待ちくださいませ!」
急いでいるのか僕が答える前に彼女は慌てて部屋を飛び出して行った。
僕はただその背中を見送り、頭の中で考えを巡らせていた。
彼女は誰だろうか? それにカイ王子? どうしてこんな場所にいるのか、なぜこんなにも疲れているのか、そして、どうしてこんなに体が小さいのか。
疑問を浮かべている間にメイドさんが戻ってきた。
彼女の後ろには、白衣を着た女性と、灰色の髪に白い瞳をした美しい女性が部屋へと入ってくる。
「カイ!」
綺麗な女性が、僕を抱きしめる。
驚いてしまうが、大きな胸に顔が埋められて息苦しい。
「心配したのよ! 本当に大丈夫? 体の具合はどう?」
胸で圧迫死しそうになりました。
僕は彼女を見つめ、ゆっくりと首を縦に振った。
「えっと、少し…混乱しているんだ。ここがどこなのか、どうして僕がここにいるのか、よくわからなくて…それに、カイって…僕の名前?」
「そうね。まだ、頭の方が混乱しているのね。何も心配しなくていいのよ、カイ。数日前にすごく高い熱を出して、ずっと眠っていたの。そのせいで、今は記憶が少し混乱しているのかもしれないわ」
僕の疑問を無視することなく、柔らかく説明してくれる。
しかし、僕には「カイ」という名前に全く馴染みがなかった。けれども、女性の優しい声と温かい眼差しに、さらなる質問を投げかけることができなかった。
「女王様、そろそろ王子様が診察させてください」
「ええ、そうね。カイ、お母様がついているからね」
どうやら美しい女性は僕のお母さんなのだそうだ。
ええ! こんなにも綺麗な女性が? 記憶の中の僕は彼女よりも歳上だったと思うけど。
それからは、お医者様が僕の体を丁寧に診察し始め、いくつかの質問を投げかける。
「体に痛みはないですか? 何か不調は感じますか?」
「ううん…体は大丈夫。でも、なんだか頭の中がモヤモヤしていて…何が正しいのかよくわからないんだ」
僕がそう答えると、お医者様は頷いてから母親に向き直った。
「やはり高熱の影響で、記憶が混乱しているのでしょう。無理に思い出させようとせず、時間をかけて回復を見守るのがいいと思います」
「分かりました。カイ、無理に何かを思い出そうとしなくていいのよ。私たちがそばにいるから、安心してね」
母親は優しい声でそう言い、僕の額にそっと手を当てた。
その手の温かさが、僕の不安を少しだけ和らげた。
僕は静かに頷きながら、この奇妙な感覚を飲み込もうとしていた。
「ここは、あなたが生まれたお城なの。あなたはこの星の支配者である私、レイナ・アラタの息子、カイ・アラタなのよ」
僕はその言葉に、今まで以上の驚きを感じた。
王子として生まれ変わり、この場所が自分の家だという事実。
高熱の影響で記憶を失っている僕には、信じがたいものだったが、彼女の言葉には確かな愛情が込められていた。
「何も心配することはないわ、カイ。体が完全に回復するまで、ゆっくりお休みなさい。これからは私がいつでもそばにいるから」
僕は再び頷き、少しずつこの新しい状況を受け入れようと努力した。
「カイ」という名前にはまだ違和感が残るが、母親の愛情を感じることで、不思議とそれを受け入れようとする自分がいた。
「ミカ、カイの世話をお願いね」
「はい! 女王様」
「カイ、ミカはあなた専属のメイドだから、何かして欲しいことや、欲しい物があるなら言いなさい。この星の全ては私とあなたの物なのだから」
レイナ母上から告げらた衝撃的な宣言に驚きながら、僕は驚くことしかできなかった。
♢
数日が経ち、僕の体調は徐々に回復していった。
熱はすっかり引き、体のだるさもほとんど感じなくなった。
体が軽くなったことで、僕は部屋の外に出て、城の中を歩いてみることにした。
広い廊下を歩きながら、僕はこの場所がどれだけ大きくて、そして豪華であるかを改めて感じた。
高い天井に大理石の床、絵画や彫刻が飾られた壁。
まるで昔の地球にあった映画の中にでも迷い込んだような光景だった。
しかし、歩いているうちに、あることに気づいた。
すれ違う人々、目に入る使用人たちは全員女性ばかりだった。通りかかるメイドや侍女、さらには護衛の兵士まで、誰一人として男性がいない。
僕が通るたびに嬉しそうな視線を向けてくるのも不思議でならない。
「どうしてだろう?」
僕は立ち止まり、周囲を見渡した。どこを見ても、男性の姿が見当たらない。
元の世界とは明らかに違うこの光景に、僕は強い違和感を覚えた。
その時、世話をしてくれているミカが僕のそばに近づいてきた。
「カイ王子様、お疲れではありませんか? お部屋に戻られますか?」
僕は彼女に微笑み返しながら、ふと彼女の名前を尋ねたくなった。
「えっと、ミカでいいのかな?」
「私はミカ・イナバと申します、王子様。どうぞお見知りおきくださいませ」
彼女は礼儀正しく頭を下げる。
ミカという名前に聞き覚えはなかったが、彼女の真剣な表情に少しだけ安心感を覚えた。
「ミカ…一つ聞いてもいいかな?」
「もちろんです、カイ王子様。何なりと」
「どうして、ここには女性しかいないんだろう? 歩いているうちに、男性の姿を全く見かけないんだけど…」
僕がその疑問を口にすると、ミカは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな微笑みに戻った。
「この城では、王子様のような貴重な男性をお守りするため、女性が多く配置されております。星々で、男性はとても大切な存在ですので」
「男性が、貴重な…存在?」
「はい。男性は少数であり、とても大事にされるべき存在です。そのため、女性が彼らを支える役割を担っているのです」
彼女の言葉を聞いて、僕はさらに混乱した。
元の世界では、男性と女性は同等に扱われていたはずだ。
しかし、ここでは男性が宝物のように扱われ、保護される存在であるということが、どうも腑に落ちない。
「そうなんだね…ありがとう、ミカ」
僕はそう言って、微笑んでみせた。
「カイ王子様の笑顔!!! 勿体無いご褒美にございます!」
うん、反応が過剰だよ。ちょっとだけ心の中には不安が渦巻いていた。
この世界の価値観や常識が、自分が知っているものとは全く異なるという事実に直面し、今後どう生きていけばいいのか、漠然とした不安が押し寄せてきた。
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