現実世界の遊び方~リアルでスキルを手に入れた~

えび明太子

第1話 プロローグ




「……心より感謝申し上げます。 保護者の皆様、お子様の御入学誠に――」


 暇だ。


 ちょーーーーーーーーー暇だ。


 やはり入学式なんて非生産的な式典出席するモンじゃないな。ほら、目の前のぱっつん前髪君なんてもう船を漕ぎだしてるぞ。てか凄い髪型してるな、エリンギみたいになってやがる。


 まったく、入学初日からこんな長ったらしい殺人説法を聞かせられると、本当に我々を祝う気があるのか甚だ疑問になるな。


「新入生代表。神薙瑠理香」


「はい」


 なんてことを考えていると、私の名前が呼ばれた。どうやら出番のようだ。さて、精々両親の為に立派な姿でも見せるとしようか。


 うん? 私は誰かって?

 これは失敬。自己紹介を忘れていたな。


 私の名前は神薙かんなぎ瑠理香るりか。5月7日生まれの満6歳。今日から小学校に入学するどこにでもいる新一年生だ。と、言いたいところだがそれだけでは少々語弊がある。私は、普通の小学校一年生とは明らかに違う秘密を隠している。


 最近、というか流行したのはひと昔前だな。そのひと昔前に流行っていた転生、とは少々違うが。私には所謂前世の記憶があるのだ。


 どうやらこういった事は稀にあるらしい。インターネットなどで前例をさがすと、「前世の記憶がある」という4歳の少年によって殺人事件が明らかになったケースも存在している。


 とはいっても、私の場合は別に前世の人格がある訳じゃあない。強いて言うなら、前世の知識や経験だけをデータとして覚えていると言った方が正しいだろうか。


 前世が男だったのかはたまた女だったのか、何歳まで生きていたのか、どこの国に住んでいてなんの仕事をしていたのか、恋人はいたのか、結婚はしていたのか、子供はいたのか、そういった記憶は一切覚えていないし興味もない。


 私の人格は私だけのものであり、前世の記憶があろうとなかろうとそれだけは揺らぐ事がないからだ。


 だが、生まれた瞬間からその知識と経験に触れていた結果、私の人格は同年代とは比べ物にならない程圧倒的に成熟した事にはある程度感謝している。


 まぁ、この年齢で達観しきった言葉遣いをしていると世間一般から見れば気味悪がられるからな。人と接する時はある程度の年相応さを見せるようにしているんだが。


 そんな感じで普通の小学校一年生女児と違う私は今、


「暖かな春の日差しに誘われて、桜の花も満開となり——」


 小学校の入学式で、新入生代表の挨拶を務めている最中だった。


「私達は、新たなる希望を胸に――」


 しかし、最近は小学校でも児童の新入生代表挨拶なんて物があるんだな。


 前世の知識でまえは無かったと思うんだが……子供に早期から自立と目標意識を持つことを促す政策とかなんとかで導入されたようだ。

 いらん制度を導入しやがって……


 子供の身体はにこやかに笑い続けるのだって楽じゃあないんだ。あー、大頬骨筋だいきょうこつきん上唇鼻翼挙筋じょうしんびよくきょきんが痛くなってきたな。さっさと終わらせるか。


「——以上で挨拶を終わります。ありがとうございました」


 〆の言葉を吐き礼をすると、一拍おいた後に大きな拍手の音が聴こえてきた。


 フム、どうやら教師や保護者方のウケはかなり良かったようだ。学校生活を穏やかに過ごすに当たって、大人からの覚えはある程度いい方が融通が効きやすいからな。頬を痛めながら頑張った甲斐があるというものだ。


 新入生代表の挨拶が終わり、壇上から降りる時にふと保護者席へ目を向けると、某16連射名人のように写真を連写している母と、いわおのような顔をした自慢げに腕組みしている父が目に入る。周囲の視線が痛いから程々にしてほしい。


 が、まぁそうだな……


 一生に一度しかない娘の晴れ舞台だ。今日くらいは我慢してやるか。と、考えを切り替えると、私は微笑みを崩さないようにしながら時間が早く過ぎ去るのを待つのだった。






 ==============================






 入学式が終わると児童と保護者が集められ、それぞれ割り当てられたクラスへと案内された。教師が来るまで皆家族と思い思いの時間を過ごしている。


 しかし、今も時折感じるが移動中に向けられたガキどもとその保護者達の視線が鬱陶しいな。少々挨拶で目立ち過ぎたせいか。


 それに恐らくそれだけではないだろう。なぜならば私は見た目がいい。かなり、というか滅茶苦茶容姿が整っている。


 確かに母は綺麗だが、それだけでは説明が付かない。よくこの悪鬼羅刹のような形相をしている父と子供を作って私が産まれたな。生命の神秘とは不思議だね。


 という訳で、私の見た目も相まって余計に注目を集めているのだろう。


「ルリちゃん、さっきの挨拶とっっっても立派だったわ! みんなも驚いてたわよ!」


 忘れていた。後は両親コレのせいだな。


「うん、ありがとうお母さま。頑張ったから後でお家でいっぱい褒めてね」


 だからここではしゃぐのはやめてくれ。周りの目が鬱陶しい。


「もちろんよ! ね、あなたも!」


「…うむ」


「お父さまも、ありがとうございます。じゃあ、私は席についてくるから」


 そう言って用意された席に座る。席順は適当だ。普通こういった場合は出席番号で決める物だと思うんだが……まぁ、窓側の席を確保できたし良しとするか。


 しかし……相変わらず視線が鬱陶しいな。保護者もそうだが、特に男共からの好奇の視線がうざったくて仕方がない。


 保育園でもそうだったが、クラスの男共は皆私の事を好きになったようで、やれ結婚するだの、やれお昼寝は一緒に寝るだのと心底鬱陶しかったのだ。


 オマケに私の事を好きな男児を好きな女児からは、嫉妬されたり○○くんを盗らないでと泣かれたり面倒くさい事この上ない。


 当時は園内が荒れに荒れて多少は退屈が凌げたが、所詮はその程度だ。どちらかと言えば面倒くさい気持ちの方が強かったし。私が保育士含め園内全員の人心掌握をできるからよかったものの、私じゃなかったら学級崩壊物だったからな。


 いや、今考えればそっちの方が面白かったかもしれない。皆いい子いい子して保育士の負担を軽くして印象を良くするより、全部ぐちゃぐちゃにしてしまった方が楽しかったか? くそ、ちょっともったいないことをしたかもしれない。


 はぁ……つまらないな。


 いつもそうだ。退屈な日常。想定通りにしか動かない子供、大人。毎日毎日同じことの繰り返し。世の中とは全くもって変化がツマラ無い。


 こう言うと今は学生という狭いコミュニティだから、と反論する奴もいるだろう。


 だがそれは大人になったからと言って変わるものではない。


 仕事をするようになっても、入社したり転職をして直ぐは環境が変わって目新しい物もあるだろう。だがそれまでだ。人間という生き物はすぐ環境に適応し、慣れていく。


 そしてまたくだらない繰り返しの日々に戻るのだ。


「はーい! それではみなさーん! ちゃーんと席についてくださいねー! わたしは今日からみんなの担任の先生になる……」


 本当に、ままならないな。世の中ってのは。






 ==============================





 入学式はつつがなく終わった。


 今日は保護者同伴だった為車で帰宅していたのだが、道中車内で両親(特に母親)がはしゃぎすぎてうるさかった。新入生代表挨拶が相当お気に召したらしい。


 そんなこんなでグロッキーになりつつも、無事家に帰宅した所で無口な阿修羅(父親)から話しかけられる。


「……瑠理香、今日から本格的に仕事を頼む。少し休んだら佳奈美かなみと着替えておくように」


「はい、分かりましたお父さま」


「あっ! そうだったわ! 今日からルリちゃんも本格的に巫女さんになるのよね! あなた、さっきまで入学式だったんだし今日くらいはゆっくり休ませてあげてもいいんじゃないかしら?」


「ううん、大丈夫。ありがとうお母さま」


 そういえば忘れていたな。今日は本格的に家の仕事を手伝う日だ。あまりに暇すぎるから少しでも気を紛らわそうと自分から手伝いを申し出たんだったか。


 もうお察しだと思うが、私の実家は神社だ。神薙神宮かんなぎじんぐうという名前の神社を家族とお手伝いさんで営んでいて、母は巫女、父は宮司をやっている。


 ちなみに佳奈美かなみとは母親の名前だ。父親の名前は幹雄みきおという。


「ちょっと休んだら着替えて向かうね。本殿に行けばいい?」


「んー、今日は掃き掃除をお願いしたいから、参道の方に来てちょうだい」


「わかった。そういえばお母さま、琥珀こはくお姉さまは?」


「あの子ったら、まーたサボってお外に遊びに行っちゃったのかしら…ほんと困っちゃうわ」


 神薙かんなぎ琥珀こはく。二歳上の私の姉だ。私と違ってかなり破天荒な性格をしており、今日も持ち前のPowerで元気に遊びに出かけたようだ。羨ましいね。


「30分後には用意して向かうね」


「わかったわ! ゆっくり休んできなさいね。はぁ……コハクちゃんもルリちゃんを見習ってほしいわ……」


 ウチの神社は他の所と比べても参拝客が多い。主にお母さま目当ての客だろうが。それの影響で人手が足りず、私と琥珀は簡単な手伝いをさせられているのだ。まぁ私の場合は自ら進んで手伝っているのだが。


 神社の隅にある家に帰ると、さっそく母が支度を始めるのが見えた。ついでにそわそわとし始める境内の客も見えた。今から母が来るとどこかから知り浮足立っているのだろう。私は見なかったフリをして部屋に戻り、ベッドに寝転んで少しの間ぼんやりと考え事をする。


 相変わらず、この心の退屈は消えてくれない。何をするにも常に付き纏い、私を蝕んでいく『日常』への虚無感と、『非日常』への強い憧憬。


 琥珀のように頭がすっからかんだったらこんな事にもならなかったのだろうか? なんてことを考えていると、あっという間に約束の時間が迫ってきていた。


 服を巫女装束に着替え、鏡の前で自分を見つめた。長い髪が窓から入ってくる風に揺れる様子を見ながら佇まいを確認し、仕事の手伝いへと向かう。


「さて、参道の掃き掃除か」


 着替え終わると、家の裏口から外に出て参道の方に向かう。神社の境内は広く、参道にはたくさんの木々が並んでいる。春の風が心地よいが、今日はその風もどこか物足りなく感じる。


 掃き掃除を始めると、落ち葉が少しずつ集まり始める。


 掃き掃除をしながらふと考える。日常の繰り返しから解放されることがあるとすれば、それは何だろうかと。……宇宙、宇宙なんかいいかもしれないな。あそこはまだ未知の事が沢山ある。地球外生命体なんかもいるかもしれない。


「将来はNASAにでも就職するかね」


 いや、地球外生命体は恐らくいるだろう。我々地球人が観測できていないだけでこの広大な宇宙には生命体が存在している可能性の方が高い。どんな形をしているのだろうか、母星の重力や放射線などの環境から決まるのだろうが……有名な宇宙人、グレイのような頭でっかちなんだろうか。


 もしかすると、人類には理解できない超常的な力を持っている可能性もある。そんなものがあれば、私の退屈もきっとなくなるんだろう……なんてな。だがこうして空想の世界に浸っていると、少しは私の退屈も薄れてくる。


 今考えている事も単なる夢物語で幼稚じみた考えかもしれないが、現実の退屈さに対抗する手段を考えることは私にとっては大切なことだった。


「瑠理香ちゃん、遅くなったわね」


 そんなことを考えていると、巫女の服を着た母から声をかけられた。どうやらある程度参拝客の対応が終わったようだ。母は掃除の進行具合を確認しながら手伝いを始める。


「うん、お母さま。もう終わるよ」


「そう? じゃあ、終わったらお茶でも飲んで休憩しましょうか」


「ありがと、私は緑茶がいいな」


 掃除を終えると、母と一緒にお茶を飲むために家に戻る。母が用意してくれたお茶は温かく、ほっと一息つける。やはり緑茶はいい。豊かな渋みとほのかな甘みが精神を落ち着かせてくれる。


 それから数時間が経ち、神社の仕事が終わった後、夕食の準備をしながら考えた。どうしても退屈から逃れられない自分をどうにかしたいという思いが募る。本格的にNASAへの就職を考えるかね。そこに集中していれば私も退屈を忘れられるかもしれないしな。


 そんなことを考えながらいつの間にか食事が終わり、家族がそれぞれの時間を過ごしているとき、私はまた一人で部屋に戻り、窓の外に目をやった。夜空に輝く星々を見上げながら、心の中でため息をつく。


「現実世界は、本当に退屈だ」


 そう呟いた瞬間、何かが変わるわけではないが、その思いは強くなるばかりだった。どんなに努力しても、どんなに日常に挑戦しても、現実が持つその厳然たるつまらなさに対抗する術は見つからない。


 眠りにつく前に、私はせめて夢の中ではもっと面白い世界に行けたらと願いながら、目を閉じた。


 現実世界は、どんなに変わらなくても、少しでも楽しくなればと願うばかりだった。





◆――――あとがき――――◆


 初めまして、えび明太子と申します。


 最近配信だのバズだのダンジョンだのばっかりで読みてぇ小説がねぇな、と感じた今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。


 つまんねーつまんねーとランキングを眺めていると、ふと、ほならね? とグラサンの彼からご意見をいただいた気がしてこの小説を執筆するに至りました。僕の中のリトルホンダがそう言ったんだもん。


 まず最初に名言しますが緩い感じで進めて執筆していきますので、毎日投稿とかは難しいと思います。でもコメントとか★とかみんながいっぱいくれたら頑張っちゃうかもなぁ筆乗っちゃうかもなぁ……趣味で始めたとは言え、やっぱ反応があると嬉しいですからね。


 特にコメント。


 コメントをぉ……よこせぇ……


 はい、ま冗談です。ホント皆さんのメイン小説が更新されるのを待ってる間に見ていただけるだけでもめちゃ嬉しいっす。


 こんなノリで始まった感じですので、この小説はこんな感じで進行していきます。なので皆さんもね、まぁそんな感じで。拙い文章ですがなんかいい感じに応援していただけると幸いです。よろぴく。

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