皇女アエリア様、ロムルスを冒険する
高田正人
プロローグ
◆
クィリヌス半島に栄えた、偉大な帝国、ロムルス。
これは、そのロムルスを治める皇帝コルネリウスが愛する娘アエリアと、彼女に仕える少年、セウェルスの物語だ。
◆
都市国家ロムルスに朝日が昇る。
通りを行く荷車の車輪の音。遠くに聞こえる鍛冶屋のハンマーの音。
食堂で焼かれるパンの香り。荷車を引くロバや牛の匂い。
街全体が少しずつ動き出そうとしている中、一人の少女が通りを歩いていた。
「うーん……朝のロムルスはかくも美しい……」
彼女は時々立ちどまり、羊皮紙に何やら書いている。
彼女の名前はアエリア。皇帝の娘であり、ロムルスでは知らぬ者のいない有名人だ。
しかし、こうやって髪をまとめて市民の格好をすれば、うまい具合にロムルスの騒がしさの中に紛れることはできる。
羊皮紙の上で羽ペンが動く音が止まった。アエリアはざっと目を通してから、それを折りたたんで衣の中にしまう。それから彼女は顔を上げた。
「おお、もう追いついたのか、セウェルス」
そう言って笑顔で手を振るアエリアの視線の先。一人の少年が必死に走ってくる。
少年もまた、アエリアと同じく良い身なりをし、腰には短剣を差している。
セウェルスと呼ばれた少年は、困った顔で彼女に駆け寄る。
「アエリア様! どうして朝早くからお付きの者もつけずに宮殿から抜け出すんですか!? 私も心配したんですよ!」
「はははっ。許せ。セウェルスは心配性だな。父上の治めるこのロムルスに、いたいけな少女を害そうなどという悪人はいないぞ。うむ、断言する」
「過信は
セウェルスはアエリアを叱りつつも、彼女の無事に心からほっとしている。
それが嬉しいのか、アエリアは美の女神の祝福を受けたような、可愛らしい顔をほころばせた。
「そうか。では決めた。
「え? 私ですか? いえ、いくら私が男でもまだ子供です! むしろプブリウス様をお付けください」
「やだ。あの将軍はいつも厳しいことばかり言って余の心を分かってくれないのだ。あんな岩より頭の固い男などより、そなたと連れ立って歩きたい」
「そんな無茶苦茶な……」
アエリアはセウェルスの衣の袖をぐいぐいと引っ張る。こういう時のアエリアの押しの強さは筋金入りで、その明るい笑顔には逆らえない。
セウェルスは仕方がない、と思いつつ彼女の前にひざまずく。
「で、では皇女殿下をお守りすると、ロムルスの法と正義、そして神々に誓って……」
「そういう格式ばったことは必要ないぞ! そなたも余も、このロムルスという美しき都のありのままに心を躍らせるのだ! そう、大地と大空が我らを導いてくれる! 行こう!」
そう言うとアエリアはセウェルスの手を取った。いきなり手を握られたセウェルスは目を見開く。
しかしアエリアはあくまでもセウェルスと同じであることを望んでいるらしく、胸を張って前を見て、それでいて唇はほころんでいる。
「では、共に行こうぞ。そうだな。まずはユーノーの丘に行こう。牧童があそこで家畜の乳しぼりをしているだろう。山羊のチーズは食べられるだろうか。それから……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいアエリア様! そんな急がなくてもユーノーの丘は逃げないですから!」
セウェルスはアエリアに手を引かれながら、ほとほと困った顔で彼女についていくのだった。
◆
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