フィジカルモンスターはやかましい!

田仲らんが

1 グッドモーニングくそったれ!

 「グッモーニン俺。ところでそこの君、ここどこ?」

 「ア"ァ"ア"」


 よう、まだ見ぬ皆。


 俺は今、虚空に話しかけているんだが、頭はおかしくなっちゃいないだな、これが。


 見てくれよ、この周りの景色。


 照りつける太陽は紅に染まり、空は本来白いんだろうが、瘴気のような煙にはばまれ、黒くよどんでいる。


 あれって太陽? 空って白かったっけ?


 周りに遮蔽物しゃへいぶつは見当たらず、地平線はどこまでも続いている。


 地面は薄く黒い水が張り、赤い円たいようを反射している。


 もはや俺の知る空じゃないことは自明の理だ。


 重いため息を吐きながら、先ほど声をかけた骸骨に対して、まいったのジェスチャーをする。


 「なぁ、兄弟。気づいたらここに居たんだが、まったく見知らぬ地なんだよ。こりゃ、どういうこった!?」

 「ア"ァ"」

 「うんうん、そうだよな、兄弟もそう思うよな。――おーい、他に誰かいないかー!? この子まともに喋れないみたいなんだけどー! おーい!!」


 ダメだこいつ、さっきからあーとかしか言わねぇ。


 そもそも骸骨がなんで動いてんだ? 黒いし。


 今はまだゆらゆらとその場で留まっていて、襲ってこないだけマシだが、普通に怖いし……。


 「役に立たねぇーなぁ、こいつ! 誰か話が通じるヤツいねーのかー!?」


 めげずに声を張って空虚な空間に叫び続けていると、頭の中に思念波的なナニカが流れて込んできた。


 うぇっ、気持ち悪……。


 脳みそ掻き回されてるみてぇだ……(某ハ〇ター風)。


『ごっめーん♪ まちがえて君だけ神の迷宮ダンジョンに誤送しちったー。ゆるしてちょんまげ♪』


 あまったるい声が聞こえたと思ったら、そんなことを抜かしやがった。


 ……ふー、深呼吸深呼吸♪


 ぜーんぜん怒ってないヨッ♪


 「おーけー、おーけー。宣戦布告ということでよろしいか? 喧嘩なら買うぜ」

 『あっはは! 冗談よしてよ、喧嘩ってのは同じ土俵で行うものだぜ? ボクは神様★ 立場の格差が激しすぎるよ〜♪』

 「チッ、てめぇが神様か。烏滸おこがましい野郎だ。なら、この現状を0から10まで教えてもらおうか! 1からじゃないぜ、0からだ!!」

 『いやぁ、それがさぁ、よくあるクラスメイトごと異世界転移ってやつを面白半分でやったらさぁ、君以外の子は無事転移できたんだけどね? これまた君だけよくある手違いってやつで、この神の宮殿に送っちゃったんだよねぇー♪』


 実態は見えないが、てへっというジェスチャーが見えた気がした。


 俺は苛立いらだちから頭をむしる。痛い!


 「あぁ、もう! くそったれ!! つーことは、てめぇに100パーセント非があんだから、俺を元の世界に戻すか、そいつらが居る安全地帯まで送れや!!!」

 『いやぁ、それが無理なんだよねぇ♪ 世界って、そー簡単に移動できないのよ。基本、一方通行。君のクラスメイトの場所に転移するのも、しばらく無理なの。まー、もうちょいしたらできるから待っててよ。諦めて、この世界を謳歌おうかするのがおすすめだけど♪ ――あ、避けないと死ぬよ?』

 「は? なにふざけたことぬかしてん――ぬぉ!?」


 自称神様の戯言にはらわたが煮えくり返りそうになりながらも風切り音がする方へ目を向けると、大人しくしていた骸骨が猛然と腕を振り上げていた。


 振り上げられた腕は三日月のような刃状に変形しており、不気味な薄青色の光を発していた。


 虚ろに歪むくぼんだ眼窩がんかと目が合い、緊張感が強制的に高まる。


 反撃なんてのは論外、全力でローリング回避一択!


 地面が硬くて腰と背中が痛い! あと俺の白Tが濡れた!


 「あっぶねぇ!? おい地面にヒビ入ってんぞ! 死ぬって!!」

 『あははっ、よく避けれたねぇ! すごいすごい!!』

 「感心してる場合か! 対抗策は!?」

 『あるよー。んー……おっ、いいやつ当てたねぇ! ボクも初めて見たよ。これ、すごいことだからね? ふむふむ、理解理解。ま、とりま殴ってみー♪ しゅっしゅっ』

 「はぁ!? ――くそっ! こうなりゃ、やけだ!! どっせい!!!」


 骸骨と見つめ合うこと暫し。ラブロマンスは始まらない。


 自称神様に言われるがまま、やけに裏声が目立つ雄叫びを上げ――骸骨が腕を振り上げる動作が見えたが――捨て身で突撃!


 思考は放棄で全力パンチ!!


 見事に眉間へヒット!!! 


 YEAH!!!!


 俺は振り抜いた腕をだらけると、その場から1歩下がる。


 足元の水音が荒く立った。なぜか拳に痛みは感じない。


 骸骨は脱力しながらたたらを踏み、カタカタと笑うように音を鳴らしながら薄青色に発光。


 直後に木っ端微塵となって空に還っていった。唖然。


 緊張の糸が解けて無意識に息を吐く。


 不意に笑いがこみ上げてきた。


 「……は? ははっ、俺TUEEEEつえーキタコレ!」

 『はいはい、すごいすごーい。って、ことで。チュートリアル終わりね! 君が今使った力、この世界で《ヘレシー》って呼ばれてる異能は、自分自身でなんとなーくどんな能力が把握できるから頑張って! じゃ♪』

 「ちょいまち! 曖昧すぎるだろ、表現が!! つーか、なんも持ってないんだが!?

 武器は?

 飯は??

 着替えは???

 風呂は????

 俺、風呂ないと生きてけねぇんだよ! もう自称神様おまえが無能っつーことはこれまでの愚行あれこれで散々理解したから、せめて必要最低限なもんはよこせや!!」

 『もー、しょうがないにゃー。無能、って言葉を取り消してくれたらいーよ♪』

 「前言撤回させて頂きます、平にご容赦を……ッ!」

 『そんなに血反吐はかなくても……。まぁ、今回だけは許してやるにゃ――』

 「自称神様おまえがミスってここに送ったんだろ……」

 『なにか、言ったかナ?』

 「★イイエ★」

 『よろしい♪』


 くそっ、なんで俺がこんな目に……! (小並感)


 『確かにぃ、このまま放置プレイはかわいそうだしぃ、しかたなーく最後の晩餐的なアレでいっぱいプレゼントフォーユーしてあげるよっ。

 ほい、武器は切れ味微妙だけど、不壊の特性を持つ何の変哲もない短剣がひとーつ。

 食料はこれもお馴染み、容量がほぼ無限な手提げの皮袋にテキトーに詰めといたからこれもひとーつ。所謂、アイテムボックスねー。

 着替えもここに入ってるから、テキトーに使ってー。あ、採寸はめんどくさいからオーバーサイズにしといたよ♪

 最後が風呂ねー。これは流石に設置すんのダルいからなしで♪』

 「おいッ!!!!」

 『じょーだんだってばー。必死すぎ笑える♪ 代わりに定番の魔導具あげるから。マジックアイテムってやつねー。効能は自分自身で試してみてね♪ ってことで、ばいちゃ!』

 「説明がっ! ほんとにっ!! 最低限っ!!!」


 理解が追いつかねぇ!


 くそったれ!!

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